矛盾とSDメモリーカード
「天ケ瀬さん、ごめんなさい……。」
刈谷は深く頭を下げてきた。
あれから、刈谷は自分のしてきた事を見直し、謝罪をしてきた。
「本来なら貴女が謝ることはないわ。真に悪いのは石原だから。」
天ケ瀬は相変わらず淡々としていた。
先程の怒りはどこへ………。。
「しかし、あの石原の事だ。万が一のことを考えて、DVDなんかは他の場所に保管してるんじゃないのか?」
「先輩の言うように、別の場所に隠してる可能性は高いですね。 刈谷さんみたいに間違いに気付いて告発しようとしてくる人も少なからずいそうですし。 まぁ、殆ど泣き寝入りでしょうが。」
天ケ瀬の言う通りだ。 相手に弱みを握られ、しかもその相手は生徒指導の教師。 進路等について、脅されていたら何も言えなくなってしまうだろう。
女性にとって、犯されること自体が一生のトラウマにさえなってしまう。
「まずは貴女の証言。まぁ、証言に関してはずっとスマホで録音しておいたけど。そして、さっきのカメラの映像がいるわ。」
天ケ瀬はさらっとそう言うが、なかなかそんなに先読めないよ?凄くね?
「さっきのカメラの映像はこのSDメモリーカードに入ってる。」
刈谷は持っていたバッグからSDメモリーカードを取り出すと、天ケ瀬に手渡した。
「前の体育倉庫のSDメモリーカードは何処にあるんだ?」
「自宅にある。取りにいかないと。」
「天ケ瀬、俺達もついて行こう。」
俺の言葉に天ケ瀬は頷くと、直ぐ様浴室に向かう。
「あぁ、まだ制服乾いてないですね。」
「それにキョウ君、まだ外は大雨だよ?」
そういうお前は外でモニター監視してただろ。と言う言葉をグッと飲み込む俺。
そこに。
「キョウちゃん、夕ご飯出来たから、皆で食べましょ?刈谷ちゃんも食べてくでしょ?」
こんな時の母親の笑顔は、荒んだ心を洗い流してくれる存在だった。
「いいんですか?私なんかが……。」
「な〜に言ってんのよ、いいに決まってるじゃない!親御さんには連絡しとくから!」
母親はニカッと笑うと俺達を食卓に促した。
「急がなくても大丈夫ですよ、多分。」
天ケ瀬はそう言い残し、席についた。
「何があったか聞かないけど、母さんは貴方達の味方だから、安心しなさい。」
そう言うと母親は食卓に食事を並べていく。
「あ、お手伝いを……。」
「大丈夫よ、マリアちゃん!ありがとう!」
マリアがもしお嫁さんになったら、こういう生活がやってくるんだろうか。
いやいや、何考えてんだ、俺は!
いや、でも付き合ってるわけで、将来的にそういう選択肢も…………!!
「先輩?食べないんですか?」
「え?」
周りはもう食べ始めていた。
とんでもない妄想癖だな、俺は……。
「あー、食べる食べる!いただきます!」
ーーーーーー。
ーーー。
ー。
食事も終わり、天ケ瀬は母親と片付けをしていた。
「キョウ君……。」
「どうした、刈谷?」
刈谷は俯いていた。無理もないだろう、あれだけの出来事があったのだ。
「私、間違っていた………。でも、ただ分かってほしいの、強迫されてやっていた事なんだって!それに、私のDVDは……その、しては……いないから!」
「どういう事だ?」
「その………転校してきてすぐに、生徒指導室に呼ばれて………胸を揉まれたり、キスを………されたりしたり、下を触られたりしたけど……でも、してないから!」
「何で初日に……知り合いだったのか?」
「違うよ!多分、噂に……なってたからだと、思う。」
確かに天ヶ瀬も転校生が来ることは知っていた。先生なら知っていて当然か。
「普段通りに行動しろって……。でないと映像をばら撒くって言われて……。」
そういう事だったのか…………。
「警察に見られるのは苦痛かもしれないが、必ずヤツは倒す。」
「そうだけど、そうじゃなくて……!」
刈谷は何が言いたいんだ?
取り敢えず、SDメモリーカードがあればヤツを捕まえてもらえる。
ようやく雨も静かになってきた様だし。
「とにかく、今日は帰ろう。辛い事を話してくれてありがとう。送ってくよ。」
「私も行きます。」
後ろには着替えを済ませた、仁王立ちの天ケ瀬が立っていた。
「二人きりにはさせませんよ、勿論。」
俺達はすっかり日が暮れた、水溜りだらけの道を並んで歩いていた。
街灯が薄暗い道を点々と照らしていた。
ピチャピチャと音を立てながら、無言で俺達は歩いていた。
ーーーその時だった。
「刈谷、お前んちの前にいる奴等、田原の取り巻きじゃねぇか?」
「そのようね。田原の差し金?」
見てみると、刈谷の家の前には5人の田原の取り巻きが立っていた。
刈谷を待ち伏せしているのは一目瞭然だった。
「田原の差し金なんかじゃねぇよ。アイツは取り巻き達とは縁切ってるハズだ。」
「それよりも、取り巻き達どうにかしないと家に入れませんよ?」
天ヶ瀬はジャリッと一歩踏み出す。
「確かに。送ってきて正解だったな。」
「キョウ君、私だってアイツらくらい倒せるわよ?」
「だな!」
俺達は全力で取り巻き達に向かって走り出した。




