天ケ瀬と刈谷のわだかまり。
俺が天ヶ瀬に押し倒され、逆に襲われそうになっていたその時。
「キョウ君、ダメーーー!」
何と刈谷が飛び込んで来たのだ!
「天ヶ瀬さん、今すぐキョウ君から離れてください!」
刈谷の言葉に天ヶ瀬はまるでそれまでの甘酒の酔いが無かったかのようにハッキリ
「何で私達がイチャイチャしてるのが、分かったんですか、刈谷さん。」
と言い放った。
確かにその通りだ。
既に帰ったはずの刈谷が俺達の行動を知っているはずが無い。
とすれば、やはりあのカメラは刈谷が仕掛けた物に違い無いだろう。
しかし、カメラが仕掛けられていると聞いた時点で酔ったフリまでするなんて……天ヶ瀬、恐るべし……。
「どうしたの?!」
母親が部屋に駆け込んでくる。
「刈谷ちゃん、さっき帰ったんじゃ?……ハッ!!まさか、アンタ達皆でこれからイチャコラハッスルタイムの予定じゃな…」
「いいから、出てって!」
母親が会話に参加すると余計な展開になるのは目に見えていた。
俺は母親をグイグイと押しながら部屋から押し出した。
ーーー暫く後。
「刈谷、どういう事か話せ。場合によっては警察を呼ばなきゃならない。」
俺の言葉に観念したのか刈谷はポツポツと話し始めた。
「キョウ君の部屋にカメラを仕掛けたのは私です。」
刈谷はあっさりと白状した。……でしょうね。
刈谷以外考えられないからな。
「何でカメラを仕掛けた。」
「石原の命令です。」
俺と天ヶ瀬は顔を見合わせた。
「今回、この部屋に仕掛けたのも、天ケ瀬さんとキョウ君の……その、……してる所を撮影して来いと命令されて……。」
刈谷は続けておぞましい言葉を言い放った。
「石原は児童ポルノや未成年者の不純異性交遊のDVDをコレクションしています。」
マジかよ……。噂には聞いていたが……。
「まさか、石原自身が出ている物もあるのか?」
その問いかけに刈谷は俯いてしまい、泣き出した。
「まさか、相手は……………貴女?」
天ヶ瀬が口を開く。
「…………そう。それで弱みを握られて、今度は天ヶ瀬さんのを録画するから上手く誘導しろって言われて……。」
「それで俺をダシに使って、生徒指導室に呼び出すように仕向けたわけか。」
俺の言葉に頷くと彼女は続けた。
「そう。それで、天ヶ瀬さんならキョウ君を守る為に直談判に来るだろうから、体育倉庫に呼び出して録ろうって。」
刈谷の言う事が本当ならとんでもない事だ。
だが、腑に落ちない事もある。
「刈谷、お前が体育倉庫に潜んでいたってのは本当か?」
「なんで、その事を…………。」
「本当らしいな。なら何故、あの時ビデオカメラからSDメモリーカードを抜いた?それを証拠に逮捕できたはずだ!」
「逮捕されたら、私のDVDも警察に見られるじゃないの!」
刈谷が半狂乱状態で声を荒げた。
その時だった。
バシィーーーーーーン!!!
天ケ瀬が刈谷を思い切り平手打ちしていた。
「それが犯罪に加担していい理由にはならない!!」
それまで沈黙を貫いていた天ケ瀬が怒りを露わにする。
「貴女が受けてきた性的暴行の苦しみは計り知れないでしょう。だからといって、それを他の人にも同じ苦しみを与えていい理由にはならないのよ!! 貴女は石原に加担して石原と同じ事をし続けるつもり!?」
「私の事なんて分からないくせに!偉そうな事言わないでよ!」
「分からないし、分かりたいとも思わないわ。 貴女があの時、SDメモリーカードを抜いたりしなければ、確かにDVDは一度は見られたかもしれない。だけど、捕まらなかった今、DVDは石原に観続けられているかも知れない。」
声を荒げる刈谷を尻目に天ヶ瀬は淡々と答えた。
「止めて!!」
刈谷は堪らず耳を塞ぐ。
「ならなんで、同じ苦しみを他人に味わせようとしたんですか!!」
天ヶ瀬は刈谷の襟首を掴み上げた。
「貴女は石原に脅されていたとはいえ、石原と同じ事をしていた! 貴女と石原、二人共絶対に許さない!! なんで、なんで私達を頼らなかったんですか!!」
刈谷を掴み上げたまま、天ヶ瀬は泣いていた。
「なんで……頼らなかったんですか!!」
天ケ瀬の言葉に
「…………ごめんなさい……!! 本当にごめんなさい……!」
刈谷も泣いていた。
「石原!許さない、絶対に許さない!!」
天ヶ瀬は凄まじい怒りに打ち震えていた。
今ここに俺達の反撃が始まろうとしていた。




