刈谷の企み その2
ーーー刈谷詩穂。
彼女は某大企業社長の娘。
当時は社長ではなかったが。
俺とは幼馴染だったが、家柄が違ったせいか、刈谷側から俺と遊ぶのをやめるように言われていたらしい。
そりゃ、俺なんかとは家柄が違い過ぎるから、何となくわかる気もするが。
それでも、彼女は気にせず、俺と接してくれた。
俺にはそれがとても嬉しかった。
でも、その関係は長くは続かなかった。
彼女は父親の栄転により、本社のある神奈川県に移住してしまった。
以前、彼女の話していた結婚の話はうっすらとしか覚えていないが、まさかあんなに本気にしていたとは。
ーー石原先生、取り巻きの処分の日ーー
全校集会が行われ、全生徒が体育館に集められた。
「遂に決まるな、田崎。ざまぁねぇな!」
田原はそう言うが、俺はとある事が気になっていた。
「何で壇上に刈谷がいるんだ。」
校長から件の話があり、石原先生、そして取り巻き達の処分について話が始まる。
「刈谷くん、前へ。」
「はい!」
刈谷は壇上の教壇へと一段、登るとマイクに向けてこう語った。
「今回の石原先生達の行ってきた件は、事実とは異なります。」
何言ってんだ、刈谷は……?
「おい、田崎、なんか雲行きが怪しいぞ。」
田原が言うように何かおかしい。
「確かに体育倉庫を無断使用していたのはいけませんが、あくまで11月に行われる学園祭の演劇の練習をしていたに過ぎません。 私は今回の実行委員に選出されておりますので、様子を見に行った所、天ヶ瀬さんから暴行を受けている先生方を見つけました。」
刈谷は天ヶ瀬を指さしこう言った。
「この方こそが今回の事件の、諸悪の根源とも言える人物です!」
刈谷は完全に騙されている!
まさか、こんな、こんなことが起きるなんて……。
刈谷は続けて
「事情は警察にも説明済みですし、ビデオカメラにはメモリは入っていませんでした。」
完全に天ヶ瀬に対する宣戦布告だ……。
辺りからは生徒のどよめきが聞こえ始める。
そんな時だった。
いままで無言だった天ヶ瀬が口を開く。
「証拠ならまだありますよ。」
そう言って天ヶ瀬が立ち上がり壇上に向かい、歩き出した。
キッと刈谷を見つめなら、壇上に上がる。
そして、教壇に上がるとおもむろにスカートのポケットからスマホを取り出す。
天ヶ瀬は集音マイクアプリを起動させると、【石原先生と園取り巻きとの会話】を再生させた。
生々しく再生されてゆく。
それは紛れもなく石原と取り巻きによる脅迫から強姦未遂までを音声で捉えていた。
動かぬ証拠だった。 あの時、天ヶ瀬は万が一を考えて集音マイクアプリを起動していたのだ。
そして
「あの時、警察にも連絡しておいたの。」
ともう一台のスマホを取り出した。
「ずっと通話中にしておいて、録音もしてあるわ。 まだやり合うかしら?」
完全に天ヶ瀬の勝利だった。
刈谷が何を企んでいるのか分からないが、この先も要注意人物だな……と思っていたその時。
「まさか、演劇の練習中に本当に警察を呼ばれるとは思っていなかったけど、それだけ熱が入ってたって事かしら?」
刈谷はあくまでしらを切るつもりらしい。
そもそもアイツはあの場にいなかったはずなのに……なんで……。
「詳しすぎねぇか、アイツ。」
田原も疑問に思っているらしい。
なんせ、本当にあの場にいなかったのだから。
「何が狙いだ、刈谷……。」
これからが俺達の地獄の始まりだった。




