刈谷の企み その1
「どうした、天ヶ瀬。」
俺の言葉に天ヶ瀬は口を開く。
「先輩は何でわざわざ、いじめられっ子なんて役を……。」
天ヶ瀬はもっともな事を聞いてくる。 確かに今の俺の実力ならば、田原や、その取り巻き達を倒す事は造作もない事だが……。
「前に話したかもしれないけど、二年くらい前にやられた時の事は断片的にしか思い出せないんだけど、その時、天ケ瀬を守る事ができなかった不甲斐なさ、後悔から格闘技や護身術を習い始めたのが本当の理由だ。
そして、それは天ケ瀬を助けるとき以外は絶対に使わないと決めた。」
「だから天ケ瀬、俺の事も少しは頼ってくれ。お前よりかは遥かに弱いけどな……。」
「まぁ、俺もいるしよ!ガハハハ!」
田原………コイツはよく分からんなぁ。
……………田原は俺が思う様なイジメっ子とは違った。
正義感が強くて、漢気に溢れていた。
天敵であるはずの天ヶ瀬が捕まったときも助けに来た。
「田原、お前本当はイジメっ子じゃねぇだろ。」
田原はギクリッ!とした様に肩をビクつかせた。
「……?何を言い出すんですか、先輩?今まで散々に虐められてきていたじゃないですか!」
天ヶ瀬には解らないだろうが、俺には解る。
「お前がいじめっ子ではないと気付いた箇所はいくつかあるが、もしかしたら、石原の命令では無いだろうな。」
俺の問いに黙って俯いてしまった。
ーーーやっぱりな。
「虐めてる割には、手加減してるような感じだった。」
ーーーそれに。
「天ヶ瀬が捕まってる時に、真っ先に俺に声をかけてきたのは田原だった。あの時は天ヶ瀬を助ける為に必死だった顔だ。」
俺は続けて
「あの時、お前はあの現場にいたな。だから、石原の度重なる悪行に耐え切れず、俺を呼んだ。 お前は薄々気付いていたんじゃないのか? 俺が格闘技できると。」
俺の言葉に田原は俯いていたが、やがて口を開く。
「全部、田崎の言う通りだ……。俺は天ヶ瀬が捕まった時、あの現場にいた。 ただ、偶然その現場を見つけて、隠れて様子を見ていた。で、やばそうだったから、すぐに田崎を呼びに行ったんだ。」
そういう事か。
「とりあえず、明日には全校集会が行われるだろう。明日まで待つか。」
俺達はそれぞれの帰路についた。
明日には石原達の処遇が決まる。
警察からの事情聴取にもしっかりと答えた。大丈夫。
ーーー翌日。
「いってきます!そして、おはよう!」
俺は台所にいる母親に声を掛け、玄関の向こうにいた天ヶ瀬にすぐ声を掛けた。
「おはようございます、先輩!」
いつもと変わらない笑顔で迎えてくれる天ヶ瀬。
学校に向かう途中、後ろから腕をぐっと組まれる。
初めは天ヶ瀬かと思ったが、反対側からだった。
「おはよう、キョウ君!!」
刈谷だった。
「か!刈谷さん!貴女ねぇ!」
天ヶ瀬が刈谷を引き剥がそうとするが、必死で離れまいとしがみつく刈谷。
新たな厄災が降りかかろうとしているとも知らずに。




