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誕生日が晴れ

 楓の絵……小学生の子達が描いたほうが数倍上手い。

 部活で描いたという楓の絵を見せてもらったが、何を描いているのかオレにはちんぷんかんぷんだった。

 

 薄く淡い緑色が画用紙一面に塗られ、その中央に放射状に、だいたい五センチほどの長さの線が描いてあった。

 その線は10本ほどあり、間隔はバラバラで、黒い線、白い線、茶色の線、灰色の線、白、黒、茶が混じった線、白黒の線といった感じで、色もそれぞれ違っていた。円から離れたところにもまばらに何本か線がある。

 紙を色んな方向から見ても全然わからず、楓におずおずと聞いたのだ。


『これは何だ?』と……。

『え? 見てわかんない? 草むらでネコが集まっているネコ集会の絵。よく描けてるでしょ!』

 

 そう言って満足度100%で答えを返してきた。

 

 

  ……わからん。聞かなきゃわからんぞ、それは。

 

 よく見ると、線には点々が数個あり、それが耳や足になるらしい。

 ネコの線よりも、草むらのほうが比率が大きすぎるのも気になる。

 ネコじゃなく、草むらメインの絵なのだ。草むらっていっても、緑一色だけど。

 だがオレは、そのよくわからない絵を額に入れ、ばあちゃん達にも見えるよう床の間に飾っている。親バカならぬ妹バカかもしれない。


 そんな妹バカな兄貴であるオレ、長渡水希は、可愛い妹とはまったくと言っていいほど似ておらず、見た目平凡だ。

 身長172㎝(本当は171.8㎝だが四捨五入すれば172㎝だからな!)体重59㎏の黒髪。

 ただ、唯一人に自慢できるところは、目の色だ。日本人に多いダークブラウンや茶色ではなく、ヘーゼルの瞳だ。

 ばあちゃんから教えてもらったのだが、じいちゃんの家系にそういった瞳の色の人がいたらしい。隔世遺伝というやつだ。顔もオレは、男前な父さん似ではなく、曾じいちゃんに似ているそうだ。


「あ、忘れてた。お兄ちゃん、お誕生――」


 黙々と食べていた楓が、オレに話しかけようとした時、ピーッ、ピーッ、ピーッと洗濯が終わったことを教える音が聞こえてきた。


「洗濯したんだ。雨、降っ…てる……ええっ? 晴れてるの!?」


 窓から外を見たのだろう。楓が驚いた声で裏口から外へと飛び出した。そしてすぐさま戻ってくる。


「お兄ちゃん、晴れ! 晴れてるよっっ!? お兄ちゃんの誕生日だよね? 今日は!!」

「そう、誕生日。オレも朝起きて驚いたからな!」


 今日はオレの誕生日。オレがこの世に誕生してから毎年、この日は雨だ。

 19年間、ずっと雨が降っている。止むこともなく、1日中雨なのだ。

 だけど20年目の今日、晴れた。楓が驚くのも無理もない。


「珍しいこともあるんだね。お兄ちゃん、お誕生おめでとう」

「ああ、ありがとう。晴れているけどオレの日だし、いつ降ってくるかわかんないけどな。軒下に洗濯物干すから、帰ったら取り込んでくれ」

「わかったー。今日でテスト終わるから早く帰れるし、夕飯、私作るよ!」


 その言葉にオレは慌てふためく。


「へっ!? あっ、いや、その大丈夫だから! もう夕飯の下ごしらえしてある!」

「えーっ、楓スペシャル作りたかったのに~」


 楓は味音痴ではないのに自分の作ったものだけは自己満足からなのか、達成感からなのか、なぜか不味く感じないらしい。不思議だ。

 絵はダメージを受けないからいくらでも受け入れるが、料理だけは勘弁だ。

 楓スペシャル……想像できないが、スペシャルがつくだけに恐ろしいものに違いない。絶対に腹下す。

 夕飯、下ごしらえしていてよかった。




◇◇◇


「行ってくるね!」

「おう、気をつけてな」


 制服に着替えた楓が仏壇に線香をあげたあと、学校に行くため家を出た。

 オレは自分の弁当を詰めたりと、バイトに行くために用意しはじめる。財布の中身を確認し、忘れちゃならない買い物袋をリュックの中に入れた。


「よしっ、今日は得々セールだからな!」


 得々セールとは平日の1日だけやるお祭りみたいなセールのことで、気まぐれに社長が日にちを決めるから、いつやるかわからない。

 社長が決めたその日の5日前に店長にだけ伝える。それを受け、店長が得々セールの日にちだけを書いたチラシ作り、セールをやる前日に店内だけに貼るんだ。それを見た人が友達や知り合いに教え、口コミだけで買いに来るというゲリラ的セールなのだ。何が安くなるのか、当日来ないとわからないというのも面白いのかもしれない。

 それに買ったレシートでガラポン抽選が受けられる。これを楽しみしている人も多い。

 5つある抽選機それぞれに、金(1等)1つ、銀(2等)3つ、銅(3等)5つの玉が入っている。1等から3等までは、スーパー村田で使える商品券が当たるのだ。1等なら商品券二万円だもんな。

 他にも赤、青、黄色の玉があり、生もの以外のスーパーで売っている商品が貰える。まあ、ハズレ(ティシュ)の白い玉がほとんどだけどな。

 

 店長だけは発注をかけるため、安売りする商品はどれになるのか知っている。しかし、これが難しい。多すぎて余らせても、逆に少なすぎて早めに商品が無くなってもダメだ。店長の才腕が出るため、頭を悩ませるらしい。

 社員はこのセールの商品は買えないが、オレはバイトなので仕事が終わってから参戦する予定だ。

 欲しいものが残っているといいな。そう思いながらも、毎回盛り上がるので今日のバイトは朝から超ハードで間違いないだろう。

 

「気合い入れて頑張りますか!」


 家を出る時間が近づき、オレは自分の部屋へと行く。

 ベッドの上掛けの一ヶ所、小さな山になっている場所に声をかけた。


「ノン子さん」


 そう声をかけると、山がもそもそと動きだし、ポコンと布団から顔を出す。


 ノン子さんは白黒のハチワレ猫で、おんとし17歳の高齢の雌猫である。

 16年前、ばあちゃんが自転車で家に帰る途中、拾った猫だ。

 6月の田植えが終わった田んぼ道に、ノン子さんは独りポツンとそこにいたそうだ。近くに家はなく、人もいない。薄汚れていて、どう見ても飼い猫には見えず色々と話しかけ『一緒に来ると?』と聞けば、そこだけ『ナァー』と返事をしたため家に連れて帰ったんだって。

 見せた動物病院で1歳ぐらいじゃないかと言われたので、17歳となる。オレよりも先にこの家で暮らしている先輩猫なのだ。

 ノン子さんはばあちゃんが大好きで、夜、一緒に寝るのはもちろん、ばあちゃんが散歩に行けばノン子さんも後をついて行く。時代劇が好きなばあちゃんの膝の上で一緒になってテレビを観ていたの思い出す。

 ばあちゃんがいなくなったことがショックだったのか、暫くは元気がなかった。独りで寝るのは寂しいだろうと、オレの布団に連れていって一緒に寝たのがよかったのか、今では自分からオレの布団に寝に来るようになり、元気を取り戻している。

 年を取り、ほとんどの時間を寝て過ごすようになったが、いなくなると今度はオレが寂しいので長生きしてくれと切に願う。

 ノン子さんの鼻先をちょんと人差し指で触ると、金目を細めてごろごろと喉を鳴らした。


「カリカリと水はいつものところに置いてあるから。じゃあ、行ってくるね。留守番よろしく」


 そう言って、オレは家を出た。





心地よい風の中を、新しい自転車で走る。

 古くなり壊れた自転車を修理するより、新しく買ったほうが安いと言われ、最近自転車を買い替えた。

 自転車は、もちろんママチャリ。カゴつき荷台つきじゃないと、買い物した荷物を持って帰れないからな。これ大事。

 色はオレンジ。切り替えがありカゴが大きいのが気に入っている。

 自転車もいいが、田舎は車を持っていたほうが何かと便利だ。今年中に車の免許を取りに行こうかと考え、いつ行こうかと考えながらバイト先へと向かったんだ。






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