僕が異世界で女戦士さんと過ごした三日間の記録(一緒に食事したり、観光したり、ホテルで全裸で迫られたりした話)
登場人物紹介
僕→列車に跳ねられて死亡し異世界に行ったが、その際にパーソナルな記憶をなくしてしまったらしく、名前、年齢、職業、一切不明。自分が日本人であることと、今現在異世界にいるということだけは認識しているが、誰がどう見ても「信頼できない語り手」である
アレサ・レディング→異世界の女戦士。「僕」のことを気に入ったらしく、食事をおごってくれたり、一緒のホテルに泊めてくれたり、観光案内してくれたりする
「初日」
山陽本線の貨物列車に跳ね飛ばされて死にました。
そのあと、よくいる白髪白髭だらけで、目が隠れてしまっているようなおじいちゃんの神様に「異世界にあるワイドアイランド王国に行かないか?」と誘われたので行くことにしました。
おじいちゃんの神様には「日本人は異世界に行けば、チート能力が身につくだの、いろんな女の子にモテモテになってハーレムを築けるだの、勝手に思い込んでいるが、そんなことにはなるまい。それでも行くのか?」と言われましたが、僕は「他に行くところもないですし、別にチートやハーレムがなくてもいいですよ」と答えました。
まあ別に、どうせ一回死んでいるわけですし、多くを期待したりはしません。一ヶ月ぐらい異世界で楽しい思いをしてから、天国なり、地獄なり、来世なりに行ければいいかなという、軽い気持ちでした。
そうしてワイドアイランド王国にやってきた僕の頭はまだボーッとしています。日本にいた頃の記憶も薄れつつあります。でも気分はかつてないほどに落ち着いていて、とても心地よかったのです。
なぜなら僕は今、ワイドアイランド王国にいる巨人に踏み潰されようとしているからです。一ヶ月ぐらいいられればいいかなと思っていたワイドアイランド王国で、一瞬にして二回目の死を迎えることになってしまいました。
ああ、今、巨人が右足を上げて、僕を踏み潰すために、その右足を下ろそうとしています。いよいよ最期。さようなら皆さん、さようなら。大変、短い間でしたが、ご愛読ありがとうございました。吉永不如意先生の次回作にご期待ください。
「僕が異世界で女戦士さんと過ごした三日間の記録」完
などというベタなボケをかましてしまったのはなぜか? もちろん僕が死ななかったからです。
なぜ死ななかったのか? 巨人が僕を踏み潰す前に死んでしまったからです。
なぜ巨人が死んだのか? 僕が巨人の右足に踏み潰されようとしていたまさにその刹那。かっこいい声のお姉さんが、巨人を退治してくれたからでした。
「そこのあなた! 大丈夫!?」
その、銀髪ロングヘアーのお姉さんは、手に持った大剣で、一瞬にして巨人の体を真っ二つに切り裂いて、僕を助けてくれました。そして、助けた僕に向かって、こう話しかけました。
「あなた、この辺では見かけない顔ね。旅人?」
「まあ、広い意味では旅人ということになるのかもしれません」
僕はなんと答えていいのやらわからず、ついかっこつけて、曖昧な答えをしてしまいました。
「フフッ、それはどういう意味? まあいいわ、あなた、どこか行くあてはあるの?」
「あて? あても何も、僕はついさっき、ここに来たばかりで、右も左もわからないところに、巨人に襲われて死にそうになっていたんです。助けてくれて、本当にありがとうございます」
僕が正直にそう答えると、かっこいい声のお姉さんはなぜか笑い出してしまいました。
「あなた、面白い人ね。そしてすごく心配だわ。あなた、行くあてがないのなら、しばらく私と一緒に行動しない? 私も一人で寂しかったのよ」
「はあ……まあ……別にいいですけど」
僕がお姉さんと一緒に行動することを承諾した最大の理由は、お姉さんが好みのタイプだったからという、シンプルなものでした。顔は誰がどう見ても疑いようのない美人。
そして何より、声が美しい。ちょっと低めの、かっこいい声が、僕の耳をとらえて離さず、この声をもっとたくさん聞いていたい、もっともっといろんな声色を聞いてみたい、そう思ったから、お姉さんと行動を共にすることにしました。どうせ、他にすることなんて、何もありませんしね。
そのお姉さんは「お腹空いてない? この町で有名なお店を知っているから、一緒に食べに行きましょう」と言って、歩き始めたので、僕はあとを追いかけました。
そのレストランまでの道すがら、名前を聞いたら、お姉さんはアレサ・レディングという名前の女戦士さんだということがわかりました。
このワイドアイランド王国にはお仕事で来ているそうですが、その空き時間に観光をしていたら、たまたま巨人に襲われている僕を発見して助けてくれたそうです。その偶然がなければ僕は踏み潰されていて、またあのおじいちゃん神様に会って「おお、死んでしまうとは情けない」とか言われてしまうところだったんでしょうか?
閑話休題、アレサさんは当然僕にもたずねます。「あなたはなんて名前なの?」と。
ここで困ったことが起きてしまいました。思い出せないのです。自分の名前が。
自分が日本人だったこと、貨物列車に跳ねられて死亡したこと、神様にすすめられて異世界にやってきたことは覚えています。
しかし、自分のパーソナルなこと、名前とか、年齢とか、日本にいた時の職業とか、そんなことは何一つ覚えていませんでしたし、思い出せませんでした。
僕はアレサさんに正直に言いました。「何も思い出せません。どうやら僕は記憶喪失のようです」と。
するとアレサさんは驚いたような顔をしましたが、そのことを理由に、僕を遠ざけたりはせず、先程までと変わらない感じで接してくれました。
アレサさんについて歩いていると、さっきまで土だった道が、アスファルトで補正された道になり、また目の前には、日本にいた時にも見たような、たくさんのビルが立ち並んでいました。
異世界というからには当然、文明の発達していない中世ヨーロッパ風の世界を想像していたのですが、どうやらこの異世界は現代日本と同じぐらいには文明が発達しているようです。驚いたことに車や電車も普通に走っていました。ファンタジー世界を期待していた僕からすればちょっと拍子抜けです。
唯一、ファンタジー世界らしいところと言えば、アレサさんや街の人たちが、鎧を着たり、武器を持ったりしながら歩いていることでしょうか。これは現代日本ではあり得ないことです。ちなみに、アレサさんは両手でないと持てないような、大剣を鞘に納めた状態で背負って歩いていました。
アレサさんの案内でたどり着いたレストランは、なぜかテーブルの上に大きな鉄板が置いてありました。そして店員が鉄板の上に置いた料理には見覚えがありました。これは日本で何回か食べたことがある「お好み焼き」です。お好み焼きにそっくりな料理が目の前の鉄板にありました。
アレサさんはそのお好み焼きによく似た料理をおいしそうに食べています。アレサさんいわく、この料理がワイドアイランド王国の最大の名物料理であり、またアレサさんの好物でもあり、アレサさんはこの国に来ると必ず食べるそうです。肉も野菜も魚介類も一度に食べれて、お腹いっぱいになるところがたまらないそうです。
正直、僕はガッカリしていました。異世界特有のおいしい料理を食べたいと思っていたのに、日本で食べたことあるような料理が出てきてしまったからです。でもアレサさんがおごってくれると言っているのに、食べないわけにはいきません。自分のぶんはきちんと完食しましたし、そりゃあもちろんおいしかったです。アレサさんの言う通りボリューム満点で、たった一枚食べただけでお腹いっぱいになりました。
食事が終わってレストランの外に出ると、すっかり夜になっていて、辺りは真っ暗でした。アレサさんは「どうせ泊まるところもないんでしょう? 安く泊まれるホテルを知っているから、そこに行きましょう」と言って、僕をホテルに連れていきました。
ホテルに着いて、僕は驚いてしまいました。僕とアレサさんは今日出会ったばかりだし、当然、別々の部屋に泊まるものとばかり思い込んでいたのに、一緒の部屋に泊まることになってしまったからです。しかもツインルームではなく、ダブルルームです。
アレサさんいわく「このホテルにはダブルルームしかないから安いのよ。嫌かもしれないけど我慢して」ということでした。まあ、今さらどうしようもないことですし、正直に申せば、綺麗なお姉さんとダブルベッドで寝られるなんて嬉しくないわけはありませんでした。
でもアレサさんがお風呂から出てきた時、僕は再び面食らうことになってしまいました。アレサさんは全裸のままお風呂から出てきて、全裸のまま、僕がすでに横になっていたダブルベッドに入ってきてしまったのです。これはいわゆる「裸族」というやつなのでしょうか。たしかに日本でも寝る時に全裸の人がいるという話を聞いたことはあります。それともこの国では寝る時に全裸になるのがスタンダードなのでしょうか? たしかにアレサさんはまったくこれっぽっちも恥ずかしがってはいませんでした。
しかし僕はどうにも恥ずかしい。日本での記憶はほとんどありませんが、全裸の女性が隣に寝ているというだけで、こんなにも動揺し、激しく心臓が鼓動するなんて、僕はひょっとしたら、未経験のまま轢死したのかもしれません。
なんにせよ、恥ずかしくてアレサさんに背を向けて横になっていました。すると背中に、なんだか柔らかい感触がします。それはアレサさんのおっぱいでした。鎧を着ている時は気づきませんでしたが、アレサさんは意外に巨乳です。
僕は自分が、おっぱいを押しつけられて興奮していることをアレサさんに気取られたくなくて、寝たふりをしていましたが、アレサさんは僕を抱き枕のように抱きしめながら、耳元でささやきます。
「ダブルルームに一緒に泊まるってことはつまり、オッケーってことよね」
「はい!」
僕は無意識のうちに、ほとんど条件反射で「はい!」と返事をしていました。そしてアレサさんは僕の上に馬乗りになって……と、ここから先のことはほとんど記憶になくて、詳しく書くことはできないのです、ごめんなさい。僕が唯一、明確に覚えているのは、事がすべて終わったあと、アレサさんがベッドのへりに腰掛けながら、深いため息をついていたことだけです。僕は何かしくじってしまったのでしょうか? 覚えていないので、なんとも言えません。
「二日目」
昨日、あんなことがあったので、せっかくのアレサさんとの仲が気まずくなってしまったら嫌だなと思いながら目覚めた僕ですが、アレサさんは何事もなかったかのような笑顔で、僕に「おはよう」と言ってくれました。もちろん服は着ていました。だから僕も何事もなかったかのように振る舞うことにしました。
アレサさんは「今日は仕事がなくてヒマだから、観光しようと思っていたのよ。付き合ってくれるかしら」と言ってくれたので、僕は「もちろんお供しますよ、アレサさん」と返しました。
そうしてホテルから出てきた僕たちは、異世界にもあった電車に乗って、この国の観光名所と呼ばれる場所の一つにたどり着きました。そこは、廃墟でした。
アレサさんいわく「今この国は、時折モンスターが暴れる以外はとても平和だが、ほんの百年ほど前までは人間とモンスターとの間で、多数の犠牲者が出るような、激しい戦争が行われていた」んだそうです。
目の前にある廃墟は、元々は別の建物でしたが、その戦争の際にモンスターの激しい攻撃を受けて、廃墟になってしまったそうです。その戦争の悲惨さを忘れないために永久保存することが決定し、今や観光名所になっているんだそうです。日本だけでなく、異世界にもあるんですね、負の遺産って。
僕はその廃墟を見て、とても悲しい気分になりました。廃墟はもちろん何も語りませんが、僕には廃墟の苦しみ悲しむ声が聞こえてきたような気がしました。気がついたら僕は涙を流していて、アレサさんが驚いて、ハンカチを差し出してくれました。僕はそのハンカチであふれる涙をぬぐいました。
アレサさんが次に案内してくれたのは、この王国の城でした。ついに異世界ファンタジーらしい、西洋の城が見られるのかと思うと興奮してしまった僕ですが、たどり着いた先にあったのは、どう見ても日本のお城でした。さすがの僕でも覚えています。これは西洋の城ではなく、日本の城の天守閣です。そして城だというのに、衛兵とかはまったくいません。いるのは僕と同じような観光客ばかりです。
僕は混乱しながら、アレサさんについていって、その城の天守閣の最上階に登りました。そこには王様でもいるのかと思っていましたが、やはり観光客しかいません。不審に思った僕はアレサさんにいろいろ質問しました。アレサさんの回答をまとめるとこんな感じです。
「ここに王様が住んでいたのは、今から200年ぐらい前の話で、今、王様は別の場所に住んでいる。ここは昔、王様が住んでいたということで観光地になっているわけだが、やはりモンスターとの戦争で王様が住んでいた当時の城は焼失してしまい、戦争後に新しく建てられた城なのである」
なるほど、それなら納得です。現代日本の城も、だいたいそんな感じですからね。今でも偉い人が住んでいるのは江戸城だけで、それ以外の城はただの観光地です。この国でもそうなんでしょう。日本と同じぐらいには文明の発達している国ですからね。
僕が一番不思議に思ったのは、なぜ異世界で日本のような城が建っているのかということでしたが、アレサさんの回答は「そんなこと、私に聞かれてもわからないわ」とのことでした。
そんな話をしたあと、アレサさんに「この近くに、昔の王様が散策していた、美しい庭園があるから行かない?」と誘われましたが、僕は庭園に興味がないので、丁重に断りました。それよりも僕は本屋に行きたいと言ってしまいました。異世界でどんな本が売っているのか、興味があったのです。アレサさんはそんな僕の頼みに困惑したようでしたが、最終的には承諾して、連れていってくれました。
アレサさんが連れていってくれた本屋は、日本で言うとこの雑居ビルの4階にありました。しかし、僕は本屋に行って、当たり前のことに気がついてしまいました。なんたってここは異世界の本屋ですから、文字も異世界の文字で、まったく読めないのです。僕にわかるのは、やたら絵本を多く売っている本屋だなということだけで、それ以外のことは何もわかりませんでした。アレサさんはその絵本を興味深そうに見定めていましたが、僕は興味を抱けず、アレサさんの許可も取らず、勝手にビルの5階に行ってしまいました。
そしたら僕はまたしても面食らうことになってしまいました。その5階も主に売っていたのは絵本でしたが、その絵本の表紙の大半が裸の女性だったのです。丸見えなんです、おっぱいが。まさか異世界にも、日本みたいなエッチな絵本のお店があるとは思っておらず、僕は激しく動揺しました。それと同時に、不思議な高揚感も覚えてしまいました。その絵本の大半は立ち読み可能でしたので、ついつい立ち読みしてしまいました。とてもじゃありませんが、克明な描写をしたら怒られるような内容です。アレやソレがはっきり描かれています。僕はそのエッチな絵本をガン見しては目をそらし、ガン見しては目をそらしを繰り返し、不思議な興奮を覚えてしまいました。そしてついつい思い出してしまいます。昨日、まざまざとこの目で見たアレサさんの肢体のことを。
「あ、こんなところにいた! ここはあなたのような人がいていい場所じゃないのよ!!」
そんな僕のことを見つけたアレサさん(4階で何か買ったらしく、手にはビニール袋を持っていました)は怒気のこもったような声でそう言い、僕のことを引っ張って、僕を強制的に本屋の外に出してしまいました。僕がエッチな絵本を立ち読みしたことを怒っているようです。そのことを理由にアレサさんに見捨てられたら僕は困ってしまったのですが、アレサさんはそんな薄情な人ではありませんでした。上空が夕焼け空だったので、「そろそろ食事に行きましょう」と誘ってくれます。
そうやってたどり着いたレストランで出てきたのはラーメンでした。いや、ラーメンとは違うのでしょうか。なんたってスープがありません。でも麺は誰がどう見ても中華麺です。アレサさんいわく、最近この国で流行りつつある、新しい料理だそうです。僕はまたしても、日本で似たようなものを食べたことがある料理に出くわしてしまい、本音を言えばガッカリしていましたが、やはりアレサさんのご厚意に応えないのは失礼なので食べました。その麺料理はとても辛かったです。激辛でした。僕は涙や鼻水を大量に流しながら、なんとか完食し、アレサさんに大笑いされてしまいました。
そう言えば、アレサさんはこのレストランでお酒を飲んでいて、「あなたも飲む?」と言って、お酒の入ったグラスを僕に差し出してきましたが、僕は戸惑いました。僕が日本でお酒を飲んでいい年齢なのか、そうではないのか、わからなかったからです。でもまあ、仮に日本で未成年だったとしても、異世界だから関係ないはずです。僕は思い切って、そのグラスを受け取り、ちょびっと飲んでしまいましたが、まったくおいしいと感じることができず、吐き出してしまいました。アレサさんはそんな僕を見て、やはり大笑いしていました。酔って、ご機嫌になっているのでしょうか。吐いてもまったく怒ったりはしません。そして僕は、お酒を飲める年齢か否かの以前に、そもそもアルコールを受け入れない体質だったようです。
そんなレストランを出て、夜の町を歩いていると、突然、モンスターが僕たちに襲いかかってきました。そのモンスターは白と黒の、狼のような形をした、四本足のモンスターでした。
アレサさんはそのモンスターを見て、一瞬で酔いが覚めたらしく、背中の大剣を引き抜いて、両手に持って構えます。僕は何もできずにオロオロしていましたが、アレサさんに「私の後ろにぴったりくっついていなさい! 決して離れないで!!」と言われたので、その通りにしました。
狼のようなモンスターは素早い動きで、アレサさんに襲いかかりましたが、アレサさんも手練れの戦士のようで、モンスターの攻撃はアレサさんには当たりません。僕はアレサさんのすぐ後ろにいたので、モンスターの攻撃の空振りが危うく当たるところでしたが、すんでのところでかわすことができました。
そしてアレサさんは、まずは白い方のモンスターを大剣で真っ二つにしました。それを見た黒い方は怖じ気づいたのか、それ以上戦うことなく、逃げ出してしまいました。アレサさんは一瞬でモンスターを退治しましたが、僕は何もすることはできませんでした。自分の力のなさを痛感しました。
黒いモンスターが逃げたのを見たアレサさんは大剣を鞘に納めたのち、「無事だった?」と優しい言葉をかけてくれましたが、僕はなんとも情けない気持ちになってしまいました。そりゃあ、元が日本人ですから、いきなりモンスターに襲われても対処できないのは当然なのかもしれません。それでも僕は思ってしまったのです。「女戦士さんにただ守ってもらうだけとは、なんとも不甲斐ない」と。そして僕はその時、決意しました。「ここではない、どこかへ行かなければならない。無力な僕がここにいることは許されない」と。
「三日目」
前日と同じホテルの同じ部屋で、前日と同じように全裸のアレサさんと同じベッドで寝ている時、僕は自分の決意をアレサさんに話しました。僕はその時、アレサさんに背を向けていたので、アレサさんがどんな表情をしていたのかはわかりません。でもアレサさんは僕のことを引き止めませんでした。「短い間だったけど、楽しかったわ」と言ってくれただけでした。
翌日、アレサさんは害獣の鹿モンスター退治の仕事に出かける前に、僕を巨大なターミナル駅に案内してくれて、切符を買ってくれました。その切符に書かれている文字は僕にはわかりませんでしたが、この切符に書かれている「ヒルズマウンテン王国」というところに行けば、僕は今よりも強くなれるそうです。その王国には電車に3時間ぐらい乗ればたどり着けるそうです。
アレサさんは入場券を買って、ホームの中についてきてくれて、僕をその「ヒルズマウンテン王国」行きの電車の前まで案内してくれました。そして「あなたがモンスターを倒せるぐらい強くなったらまた会いましょう」と笑顔で言って、僕と握手してくれました。でも僕は正直、二度とアレサさんに会えないような気しかしませんでしたが、それをあえて口に出したりはしませんでした。
やがて電車はゆっくりと発車します。アレサさんは最後までホームにいてくれて、僕が見えなくなるまで手を振ってくれました。僕も、本当はいけないのかもしれませんが、窓から顔を出して、アレサさんが見えなくなるまで手を振りました。
そして一人で椅子に座った時、僕はしみじみこう思いました。僕はこの異世界を自由に旅することができるし、この異世界でいろんな人に出会うことができるけど、僕が本来いるべき、いなければいけないところには、永遠に戻ることはできないのだ、と……
3時間後にヒルズマウンテン王国の駅に着いた時、僕が真っ先に行った場所は女子トイレでした。
そしてアレサさんに「女の子ならパンツじゃなくてスカートを履きなさい」と、ワイドアイランド王国のターミナル駅のビルで、半強制的に買わされ、履かされたスカートを降ろして、用を足しました。それが終わるとすぐ外に出ました。
ヒルズマウンテン王国の駅前には犬、猿を足元に従え、右肩に鳥を乗せ、左手を頭上に構えて、どこか遠くを眺めている男の銅像がありました。この人はこの王国の有名人なのでしょうか? 日本人の僕には、この世界のことは何もわかりません。
僕がその銅像の前を立ち去る時、まだ幼い娘を連れたお父さんが娘に向かってこう言っているのが聞こえました。
「ほら、これが有名な、岡山駅の桃太郎像だよ!」