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『苦しい………助け…て…。お願…い……。』
可愛い感じの女の子の声が聞こえる。幻聴か?
っと、ここは……、俺の夢の中だろうか。何もない真っ白な空間の中、俺は浮いていた。唯一、俺の目の前には紫黒い禍々しい大きな樹が立っている。これが俺に話しかけているのだろうか。
『僕を…助け…て。瘴気…身体………入れすぎ…から…もう…これ以上……理…。飲み込…れる…。君と…みの仲間…ら……この瘴……浄化で…るかも……。お願………い…。』
そうっぽいな。心に話しかけてきている。声が途切れ途切れにしか聞こえないが、内容は把握できた。声から察するに結構急を要するレベルの危険らしい。でも、俺はどうすればいいんだ?
『僕…は……北…20キ…の………に生え……る。浄……の魔…は君……間なら…知って……はず。早…く…。僕……耐えて……るうち……に。』
「ああ、わかった。北へ20キロだな。約束する。」
『あり……う…。』
その声を最後に真っ暗になり、俺の意識は消えていった。
目が覚めると、心配そうに俺を覗き込んでいるソフィアの姿があった。
「マオ様…。大丈夫でしたか?結構うなされていらっしゃったので…。どんな夢を見てたのですか?」
「う、うん、大丈夫。心配してくれてありがとう。」
どうやら俺はうなされていたらしい。心配かけてしまったな。でもとりあえずまず、夢の中に出てきた樹を助けてやらなくては。時間がなさそうだったし。
「ソフィア、朝食は後からでいいか。ちょっと急用がある。浄化の魔法を教えてくれ。」
「あ、え?は、はい。浄化魔法は、右手に光属性の魔力を、左手に命属性の魔力を込めて、合わせればできますが…。突然、どうされたんですか?」
「向かいながら話すよ。準備して。」
「あ、はい!」
寝袋や調理道具をスマホに戻し、風魔法、"フライ"と"スピード"を展開する。北へ10キロ、急げば5分で着くか。俺が魔法を展開したのを見て、ソフィアも魔法を展開し、空中へ飛ぶ。まだ朝日が出たばっかりなどで、辺りは暗い。それに加えて霧に覆われて先が見えない。後ろからついてくるソフィアのためにも、目印があったほうが良いかな。俺はサッカーボールの大きさのライトボールを作る。さぁ、出発だ。
「ソフィア、迷子になるといけないから、このボールについていって。」
俺が声をかけると、ソフィアは両手で杖を再度握りしめ、うなづく。
道中空中を飛びながら、簡単に、内容をソフィアには説明した。俺の夢の中に出てきた樹が、女の子の声で話し、助けを求めてきたこと。瘴気を浄化して欲しいという内容であったこと。それを聞いていたソフィアは驚きながら下を向き、まさか…そんなわけない…とか何とか、ぶつぶつと声を漏らしていたが、もしかして何か関わりがあったのだろうか?でもそんなこと聞いている暇なんてない。さらにスピードを上げ、俺たちは目的地へ向かった。
近づくにつれて、だんだんと霧の色が濃くなっている気がする。やっぱライトボール作っといて正解だったな。本気で道を見失いそうだ。そんなことを考えながらただひたすら前へ前へ進むと、ライトボールの光で薄っすらと黒い影が見えてきた。見つけた。あの夢の中に出てきた樹だ。
「ソフィア!あの樹だ!」
声をかけながら振り向くと、樹を目の前にしたソフィアの顔が青くなっていた。しかしすぐに立ち直り、大きく息を吸って樹に向かって大きな声で叫んだ。
「アイリスー!アイリスだよね!?1300年前姿を消した…!こんなところにいたの…?今助けるから!」
見るとソフィアが涙を拭っているところだった。知り合い…みたいだな。しかも結構仲の良い。ソフィアの表情が物語っている。ソフィアのためにも助けてやらないとな。
俺は再び前を向き、瘴気をまとった樹を見つめる。なんか昨日夢に出てきた時よりも、色が濃くなっている気がする。間に合うといいが…。
すると後ろからソフィアが叫ぶ。
「マオ様、アイリスは、結構な量の瘴気が取り込んでしまっているみたいです!たぶん、何百年もかけてこの地の瘴気を取り込んでしまったんだと思います…。マオ様の最大魔力で浄化をお願いします!」
りょーかい。俺は後ろを向かずに左手を上げ親指を立てた。言われた通り、右手に光の魔力を、左手に命の魔力を込める。両手を合わせ、白い光と薄桃色の魔力を混ぜていく。だんだんとその光の色が濃く、大きくなっていった。
「マオ様、今です!私と同じ位置に!」
ソフィアが杖を掲げると、浄化の魔法が樹に向かって一直線に伸びる。俺もそれに続いて光を解き放した。すると少しずつだが、樹のまとっている瘴気の色が薄くなっているのがわかる。浄化が成功している。しかし、俺の魔力も底がないわけがない。ましてや、自分の最大の魔力を一定時間ずっと放出し続けるのは、俺にとっては初めての経験だ。少しずつだが、身体から力が抜けていく感覚がある。気を抜くと、意識が飛びそうになる。魔力に底が見えてきたのだろう。俺の魔力が無くなる前に完全浄化は間に合うだろうか。
後ろから浄化しているソフィアも時折苦しそうな声を上げている。俺より魔力量があるソフィアは、身体から流れ出る魔力が多いのだから、もっときついのだろう。
そう考えると、俄然やる気がみなぎってきた。女の子が知り合いを助けるために、身体を張って頑張ってるんだ。俺が頑張らないでどうするのだ。弱気になってどうする。間に合うだろうか、じゃない。間に合わせるんだ。助けるって約束したからな。
俺は最後の力を振り絞って最大出力で魔力を放出した。くっ、結構きついな。意識が…。
意識が飛ぶ寸前、最後に感じたのは、俺の身体が重力に落とされていく感覚と、包み込むような優しい魔力だった。