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目がさめると、俺は見渡す限り何もない、薄い桃色の霧がかかった空間に倒れていた。きっとここは天国か、その入り口か。最後は人助けをしたんだからな。地獄に落ちるのは考えにくい。
だが、これからどうすればいいんだ?見渡す限り桃色の地平線。どっちへ進めばいいのかさへもわからん。そんなことを考えながらゆっくりと体を起こし立ち上がった。
すると突然、真正面から、二筋の光が凄い勢いでこちらへ向かってきた。全く止まる気配がない。というか、速度が上がっている気がする。マジ勘弁だ。地上でも天国でもモノによってよって飛ばされるのか。俺は眩しさと恐怖で目をつぶった。しかし何も起きなかった。助かった。そう思い目を開けると美人な女性が2人、俺の目の前に立っていた。もしかして天国への使者か。そう俺が考えていると、背が高いぼんきゅっぼんの美女が頰に手を当てながら緩い声で俺に話しかけてきた。
「あらら〜、貴方ねぇ〜、可哀想な男の子って〜。こっちの不祥事で死ぬことになっちゃって〜。あ〜、そうそう〜、私は〜、死後の転生などの仕事をしてる〜、命神レティアラというの〜。まずはよろしくね〜」
緩い、緩すぎる。これでいいのか命神。色々突っ込みたかったが、とりあえず神様には変わらなさそうだったので、俺はどうも、と頭を下げる。あれ?なんか今この命神様、変な事言ってなかったか?
「あのー、不祥事で死んだって俺のことです?不祥事も何も、俺は友達の妹をかばって死んだんですよ。あれは俺の意志ですし…」
そうだ。俺は確かに死んだ。大型トラックに吹っ飛ばされて。そしてその時の記憶が、恐怖が、まだ鮮明に頭に焼き付いている。俺が苦笑しながら答えると、命神(レティアラ様だったか?)が口に手を当て、困ったように笑った。
「私達の仕事はね〜、死の書っていう〜まぁ〜なんていうかなぁ〜。仕事のマニュアル本〜?みたいな本にそって仕事するの〜。その本には〜、どの世界の〜、誰がどこで〜、いつ死ぬかが〜記されてあるの〜。その通りに私達は〜その人を天界に連れて行かなきゃいけないんだよねぇ〜。だから本当に死ぬべきだったのは〜、貴方が助けた女の子で〜。貴方が死ぬはずじゃなかったのよねぇ〜。調べて見たら〜、貴方は91歳で〜死ぬはずだったのに〜。私の部下がやらかしちゃったみたいでね〜。未来を見通すの〜、忘れてたみたいでね〜。邪魔が入った時の対処法プラン〜。考えてなかったみたいでね〜。」
命神様の後ろに隠れた状態でしょぼんとしていた女性がそれを聞いてビクッと身体を震わせた。どうやら俺が死んだのはこの女性の不祥事らしい。よくわからないが、そういうことだけは理解する。まぁ、彼女のミスのおかげで友人の妹を助けることができたので、俺はよかったが…。どうせ俺が1人生きていたところで、世界が変わるとも思えない。
彼女に目を向けると、これまで気づかなかったがまだ幼さがちらつく美少女だった。俺と同い年ぐらいだろうか。しかし俺が生きてきた中で、ここまでの美少女はテレビでもお目にかかったことがない。綺麗な青がかった黒い丸々とした瞳。白い肌に薄くほおづく頰。決めつけは腰まである美しい薄桃色の髪。1つ欠けることなくこの少女の美しさをかもしだしている。命神様が部下と言っていたから、きっとこの少女も神の1人なのだろう。神は美人と美少女しかいないのだろうか。俺がそんなことを考えていると、その少女が命神様の背後から、俺の目の前に出てきて大きく頭を下げた。
「本当にすみませんでした…!私の不注意で有栖川真央さんを死なせることになってしまって…。死んでお詫びするので許してください…!」
「いやいや死ななくても…。間違いなんて誰でもあるものですし…」
最終的に俺の前で綺麗な土下座をかます少女を目の前に、俺は顔の前で手を振った。確かに手違いとはいえ、関係のない人を殺してしまったのだ。罰は受けなければならないと思うが、死んで詫びるほどじゃないと俺は思う。
そんな俺の考えを察したのか、命神様が困ったように眉をひそめた。
「それがね〜、神の掟によって〜、ソフィアは死罪決定なのよ〜、そう簡単に免れることはできないわ〜」
どうやらこの美少女、ソフィアさんは俺を死なせた時点で死罪決定らしい。ソフィアさんも顔を覆って泣き出してしまったから本当のことなんだろう。俺の命1つでこんな美少女を死なせてしまうのか。罪悪感この上ないんだが…。
「ソフィアさんを死罪にしない方法はないんですか?あるのならば俺に手伝わせてください。」
できることならソフィアさんを助けたい。ここまで来たら友達の妹を助けてしまった俺も悪いんだろう。俺は命神様に向かって頭を下げる。ソフィアさんが何か言いたげな顔をしながらこっちを見ているが、どうせ私が死罪になれば良いのです的なことを言いそうな雰囲気だったので無視しておいた。
俺が頭をあげると、命神様は、何かロクでもないことを考えているような顔で俺を見て、ニコッというより、ニヤリと笑った。