祭りに参加します!
7話目です。
とりあえず、今回でキリが良いとこまでいきました。
俺が神殿をリフォームしてから早2週間。待ちに待った海底祭の前日になった。ここのところは特に海皇らしいことはしていない。海を統べる者がこんなに暇で良いのか……? と疑問に感じるぐらい何も無かった。
何も無かったと言うと語弊がある。詳しく言うと、3日に1度は他の国の領主達の使いが代わる代わるこの神殿を訪れ、税の徴収具合や政治活動の様子、現在の兵士の人数に物資の量、その他諸々を報告するのだ。
その報告のまとめは、ほとんどフロストに任せている。俺はというと、その報告文書を椅子に座ってふんぞり返りながら見るだけ。なんとも楽な仕事だ。
時々口出しをしたり、質問したりするがフロストやカルラが完璧に仕事をこなすので、俺はその内やることが無くなる。
とまあ、こんな感じで2週間を過ごしてきたが、そろそろこの生活ともおさらばだ。上手くいけば、だが。
「海皇様、1つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「何だカルラ。言ってみろ」
いつも通り朝食を摂った後、これからどうしようかと考えているとカルラが質問してきた。
「海皇様が仰っていた、海底祭の時に国民に伝えたいこととは、一体どういう内容なのでしょうか?」
「…………」
そうきたかー……今それを聞くのかー。まあ答えても良いけど……。混乱するだろうしな……でもな、一応言っておかないとな。
「その件だが……至急、幹部達を大広間へ集めよ。その場で話そうではないか」
「は、はい! 承知しました!」
カルラが急いで部屋を出ていく。俺も行くか……。
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「ここに集まってもらったのは他でもない。お前達に言わねばならぬことがあるのだ」
俺の前に居る前回の会議のメンバー全員がこちらを見上げる。
「私が海底祭で国民に伝えること……それを今、あらかじめお前達に教える」
幹部達の顔には疑問の表情が浮かぶ。俺は構わず話を続ける。
「率直に言おう。……私は今回の海底祭より、この国を出る!」
………
……………
「「………………ええっ!?」」
全員驚きが隠せないようだな。それも仕方ない。だがこれはもう決定事項だ。
このままゴリ押してやる──────。
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海底祭当日の朝。何故か仏頂面のカルラといつも通り食事を済ませ、今からの動きを聞く。
今回、俺が出す声明は魔法を使って全ての海の国へと伝えられるらしい。いわゆる生中継ってやつだな。始まるのは丁度正午頃らしい。楽しみだな。
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時刻は正午の少し前。撮影(?)場所はいつもの大広間。俺が椅子に座り、その両横にフロストとカルラ。精鋭隊の幹部達は俺の足下に並んでいる。
「もうそろそろ、準備が終わります」
「合図が出たらまずこの私、フロストが呼びかけます。その次に海皇様、声明の発表をお願いします……」
いつになく緊張した様子のフロスト。俺もここにきて緊張してきた……。大丈夫かな、成功するかな……。
(それでは中継開始まで! 5、4、3………)
撮影班(?)の召し使いが合図を始めた。……何だこれ。完全にテレビ局じゃないか。
(どうぞ!)
「……全ての国の民よ! 注目せよ! 我らが皇より、御言葉を戴く! その場に平伏して、心して聴くが良い!!」
おーい、フロストくーん? 君ってばそんなキャラだっけ? あ、もう俺の出番か。さーて、賽を投げてやるか……。
「皆の者。顔を上げよ。…………そしてこれから私が言うことを落ち着いて聴いて欲しい」
「まずは今回の海底祭、愉しんで貰えているかな? ここ最近は特に事件もなく平和であったな。それ故に、今まで以上に盛大に祝っていることであろう」
「そのような空気の中、私が出す声明は余り良い知らせではないかも知れぬ。しかし取り乱したりせず、最後まで耳を傾けて欲しい」
ここで俺は長めの間を空ける。別に狙ったわけではないが、急に話しにくくなってしまったのだ。
「……私はここに宣言する。今日を以て私はこの国を出る。そして地上に出て、長い旅に出ようと思う」
「……全ての国の民よ、大丈夫かね? 混乱しているだろうが、まだ話は終わっていない。……そう、私が国を出るということは、この職務を放棄することである。これは許されないことであり、罪に値するであろう」
「しかし、これは必要なことなのだ。この美しく、素晴らしい海を護るため、善良で勤勉な国民を護るため、私はその責務を果たすため、1度この国を出なければならない」
(か、海皇様! スティアからの国民が! この神殿に押し寄せています!!)
なんか言ってるが無視だ。
「詳しい理由は言えない。納得しろとは言わないが、これはもう決まったことなのだ。私が国を出た後の政治は……」
(海皇様! 他の国からも続々と! 信じられない速さで人が増えていきます!!)
ええい、うるさいな。まだ終わってないだろ!
「……この神殿に訪れて居る者よ。私の邪魔をしたいのかね? 私は落ち着いて聴いて欲しいと言ったはずだが」
(! 海皇様、奴らが大人しくなりました!)
「ありがとう、理解が早くて助かる。……それでは続けるぞ。私が国を出ている間、全ての仕事を私の隣に居るフロストに任せる。彼はとても優秀だ。私の後をしっかり受け継いでくれるだろう」
「そして、ここに居る精鋭隊の幹部達に、フロストの補佐を務めさせよう。これほどに優秀な組織もあるまい? だから国民よ。安心して今まで通りに過ごすが良い。私が帰ってくるまでの間、彼らはしっかりと仕事をこなしてくれるはずだ」
「幹部達の中に、裏切り者が居ることはない。裏切ることもない。全ての国の民よ! 私が帰ってくるまで、留守を頼むぞ!」
俺は立ち上がって気合いを入れる。
「我が心は常に海に有り! 何処に行こうとも、私は皆のことを想っているぞ! また会おうではないか! さらばだ!」
(海皇様! 今1度海皇様のお姿を見たいと、大勢の民が神殿の外で待機しております!)
な、なんだそれ! え、どうする? 外に出た方が良いのか?
「行きましょう、海皇様」
そう促すカルラ。他の幹部もそう言いたげな顔をしている。
「しょうがない……少しだけだぞ」
どうやら俺の作戦は成功したみたいだな。
俺は苦笑しながら、国民の元へと向かっていった─────。
今回も読んでいただき、ありがとうございます!
いやー、長かった海皇パート。この分だと、次の海皇パートまでどれだけかかるか……。
しかし!ここでやっと!やっと彼らに触れられますよ!盛大なネタバレをしておきながら、未だにかすりもしなかった人達……あの頃の自分を殴りたい。
次回 全員無事?