一人旅、始めます!
15話目です。
久々の海皇パート。気合いを入れて書いている……つもりです。
「さーてと。ここからどうするかな」
俺は今、誰も居ない静かな砂浜に佇んでいる。何故そんなところに居るのかと言うと、それは数分前に遡る──。
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「海皇様。本当に旅立ってしまうのですね……? 私達を傍に置いては下さらないのですね?」
俺の目の前にはカルラを初め、海皇軍の精鋭隊隊長や見送りの従者達が並んでいる。旅に必要な道具は全てストレージにしまい込んで、あとは陸に上がるだけだ。
「そう心配するな、カルラ。お前達は私の部下であろう? ならば私の力を知っているはずだ。地上で亡き者になるほどひ弱ではない。必ず無事に帰ってくる」
「しかし……」
「ふむ。まだ何か不満があるのか?」
「いえ……。不満などありません。海皇様の決めたことは、私達にとっては絶対。異議を唱えることはもう致しません。ですが一言だけ、言わせて下さい。……海皇様。必ず、必ず帰ってきて下さいねっ!」
カルラは目に涙を溜めながら一気にそう言うと、後ろを振り返った。
「それでは、海皇様のご無事を祈って! 敬礼!」
俺の部下達が一斉に敬礼をする。たった1ヶ月過ごしただけだが、不思議と胸にこみ上げるものがある。俺はゆっくりと頷きながら、最後にこう言った。
「ありがとう。……行ってくる」
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それから俺は1人で陸に上がって、砂浜に居るわけだ。浅瀬のところからザブザブ歩いてきたのに、砂が足に付いてこない。おかげであのベトベト感がなくて快適だ。
カルラ達はもう引き返しているだろう。こっそり後を付けてきている者が居るかもしれないが、今のところ気配はない。波の音だけが静かに響いている。俺はその場に腰を下ろし、周りを見渡す。
「えーと、確かここは『北の砂浜』だったよな。なんの捻りもないから逆に覚えられる。んで、その先には『深淵の森』が広がってるんだっけか──。何、ここはRPGの世界なの? いちいち名前が分かり易すぎない?」
そんなこと言ってても仕方ないけども。しかしこれからどうしようか。
「取り敢えず荷物整理でもするか……。色々ぶち込んでたから何が入っているか覚えてないし」
左手でストレージを開いて、中身を確認する。えーと? 保存食、飲料水、地図、保存食、魔力回復ポーション、万能傷薬、保存食、海皇の装備一式、保存食…………その他もろもろ。保存食多すぎないかな? それに対して飲料水少なっ! いやまてよ? 海皇は飲料水とか無限に創れるのか。今はまだ魔法を使いこなせないから、もっと持ってきた方が良かったかも知れないけど。
「荷物整理というかただの確認だな、これ。今のうちに装備も装着しておくかな」
ストレージから装備を取り出し、立ち上がって身体に取り付ける。最後は海皇の専用武器の槍、たしか名前はトリアイナだっけな。これをストレージから取り出す。
「これが俺の武器か……。ゴツい見た目だな」
そう言いながら槍を両手で持つ。何気に初めて触るな、この武器は……。そう思った瞬間、急に目の前が歪み始めた。
「!? こ、これは……」
倒れそうになるのを何とか耐える。しかし、余りの目眩によろけて片膝をついてしまった。目眩はすぐに収まったが、頭がまだガンガンする。
「くそ、何なんだいきなり──」
(ふう、やっと体に戻ったか。全く長かったものだ)
突如、俺の頭の中に声が聞こえてきた。急な出来事に体がこわばる。
(む? 我の体ではあるが自由に動かせぬ。これは一体どういうことだ?)
また声が聞こえた。それはこっちのセリフだと思ったが、相手が何者か分からない以上、迂闊に動けない。
(それはこっちのセリフだ……か。貴様が誰か分からぬのはこちらも同じだ。──ふむ、なるほど? 記憶を見る限り貴様が我の体を乗っ取った張本人のようだな?)
なん……だって……? 我の体? 俺が乗っ取った? それはまさか……!
(ふむ、何を驚いているのか知らんが、その通りだ。我こそ真の海皇なり。貴様のような偽物とは違う)
やっぱりか……! ど、どういうことだ? どうして今になって俺に語りかけてくる?
取り敢えず頭の中で会話をする。声の主は何処に居るのだろうか。
(ふむ、別に貴様と語ることなどない。強いて問うならば何故貴様が我の肉体を乗っ取ったか……。その意図を聞きたいものだ)
さっきから俺は一言も声を出してないのに、思考を全て読まれている。一体どうやって……テレパシーでも使っているのか?
(テレパシーなど使わずとも、貴様の考えなど読める。先程の槍──トリアイナの中に我が魂、つまり精神体が封印されていたのだ。それに貴様が触れたことで、我の精神が体に還り、貴様の精神と同居しておるのだ)
俺の精神と同居している……? なるほど、それなら思考も読めるか。しかし、なんで槍の中に封印されていたんだ?
(ふん、我も知らぬ。気がつけばそこは槍の中であった。……質問ばかりしているくせに貴様は人の質問に答えぬか。無礼な奴だ)
あ、そうかそうだったな……。俺は別にあんたの体が欲しかったわけじゃないんだ。乗っ取る気なんてこれっぽっちもない。
(嘘だな。貴様は無理矢理に我が精神を追い出し、自らの意思でこの肉体を奪った。貴様の記憶を読まずとも分かることだ)
い、いや本当なんだ! 俺はいつの間にかあんたの体に入っていて……! 自分でも知らない間のことなんだよ!
(黙れ。そのような言い訳など聞くに堪えぬ……。だがこの体の支配権はまだ我に戻らぬ。このままでは何もできんな)
そっ、そうか、今は俺に分があるのか。よかった……。
(…………)
急に黙ってどうした? また俺の記憶を読んでいるのか?
(……貴様、随分と好き勝手にしてくれたな。一体どういうつもりで……。ん?)
好き勝手にしたって……! 俺は必死で頑張ったんだぞ!?
(黙れと言ったであろう。貴様、名を何という?)
俺か? 佐上だけど……。佐上海心って言う名前だ。
(何……? 生まれはどこだ)
日本だ。この世界にはない国だな。
(おかしい。記憶の中に我の知らない世界が映っている。これは貴様の記憶だな?)
そ、そうだ! 俺はこの世界の住人じゃないんだ。
(信じられん。異世界が存在することは知っていたが、まさか我の肉体を奪うほどの強力な魔法が存在するとは……)
何を言ってるんだ? 俺の世界には魔法なんてないぞ?
(何だと!? 魔法が存在しないなど戯言もいい加減に……!)
だーかーらー! そう思うなら記憶を見てみろよ! 魔法なんて一切使ってないから!
(そこまで言うなら見てやる。魔法が存在しないなど有り得んがな……)
くっそ、さっきから一言も喋ってないのに疲れた……。俺の頭がおかしくなって、変な幻聴を聴いてるとかそんなオチじゃないよな……? 全く、変な脳内会議だ。
(なん……だと……? 貴様の世界はおかしい! 魔法無しでどうやって生きているのだ? そしてお前はどうやってこの世界に来たのだ!? しかも我が肉体に宿るなど、不可能であろう!)
そ、そんなにまくし立てるなよ……。俺だって自分の状況を完全に把握してるわけじゃないんだ。俺だってこの体から出て行けるならそうしたい。
(む……。だが、貴様はその方法を知らないのであろう? どうやって我が体から抜け出すのだ? その後はどうするつもりだ?)
その答えがあるなら苦労はしないんだよ! この世界のことも知らないし、帰れないし、友達も見つけないといけないし……。
(友……? 貴様と共に居た者達のことか?)
そうだよ。記憶を見たんなら分かるだろ?
(こやつらもこの世界に居るようだが? どうやって来たのかさっぱり分からん……いや、まさか?)
何だって? やっぱりアイツらも居るのか! 良かった……。いや、良くはないのか。こっちに来たこと自体良くないことだな。
何にせよアイツらも居るなら合流しないとな。離れ離れになってないといいけど……。
(なるほど、これは面白い。貴様らは『神隠し』にあったのだな)
神隠し? それが原因なのか?
(恐らくな。しかし、『神隠し』を個人で発動するには途轍もない魔力を要する。魔法が存在しない世界では決して使えぬはず……)
なるほど。魔法がないなら『神隠し』なんて起こりえないもんな……。でも実際こうして俺や他の人間……俺の友達もここに居るんだ。
(本当は貴様らの世界にも、魔法は存在しているのではないか? 貴様らが愚鈍であるから扱えぬだけであると思うのだが)
ぐっ……、そう言われると返す言葉はない……。
(ふむ……。ある程度の事情は分かった。貴様が我が体から抜け出せぬのも納得がいったわ)
何とか疑いが晴れたみたいで良かった。しかしずっと頭の中から声がするのは気持ち悪い。どうにかして追い出せないかな……。
(貴様の考え事などお見通しだ。魔法が使えぬ貴様に我を追い出すなど不可能)
うへぇ、ろくに考え事もできない。今はまだ主導権は俺にあるから問題ないが、立場が逆転したらやばいな。
(時に佐上とやら。貴様は元の世界に帰りたいか?)
そりゃ帰りたいに決まってるだろ。そのために友達を探しに行くんだから。
(ふむ。ならば我が貴様のその願いを叶えてやろう)
…………えっ、まじで!?
今回も読んで下さり、誠にありがとうございます。
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海皇パートはタイトルに『!』をつけるというルールがありまして。特に深い意味はないです。
次回:森へ入ります!




