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海皇やるのも楽じゃない  作者: 坂鷹孝佐
14/17

特訓再び

14話目……です。

実に1ヶ月ほど期間が空いてしまいました……。


 髪の毛信号機の男3人組が取っ組み合いをしている中、私──園田凜華は考え事をしていた。


 この人達……。見た限りでは害はないみたいね。


「ねえ、ミズカ、ホノミ?」


「何かしら?」


「は~い」


「この人達に魔法を教わってみない?」


 この3人はさっきの会話から察するに、魔法や戦闘を熟練したプロだと思う。ならばこの人達にも教えを請えば、もっとスムーズに魔法が使えるようになるかも知れない。


「なるほど……。リンカ、考えたわね」


 ホノミは瞬時に理解してくれた。ミズカは……。


「??」


 顔にはてなマークが出ている。説明した方が良いのかな……?


「ミズカ、大丈夫?」


「う、うん! 良いと思うよ!」


 納得してくれた。と言っても理解してるのかどうか……。まあいいよね。早速お願いしてみよう。


「あの~、ちょっと良いですか?」


「「「おう、なんだ!!」」」


 3人同時に返事が来た。正直面白くて吹き出しそうになったが、必死でこらえる。


「わ、私達に、魔法を教えてくれませんか……?」


 すると、3人とも急に真面目な顔になり、腕を組んで考え出した。何かまずいことでもあるのかな……。


「なあ、1つ聞くがお前達は魔法を使ったことはないのか?」


 赤い髪の人が質問してきた。たしか紅剣士……レッドバスターさんだっけ?


「はい。そうです」


「ここで誰かに魔法を教わって居たか?」


 今度は青い髪の人の質問。この人はブルーインパクト……青い衝撃さん……だったかな?


「はい……。ここのギルド長に教わってました」


 すると3人とも頭を抱え込む。動作がいちいち被るから面白くて仕方ない。


「やっぱりアイツか! あんな魔法を街中でぶっ放しやがって!」


「はあ、まさか上級魔法を初心者に見せるとはな……。アイツらしくはあるが滅茶苦茶なもんだな」


「また適当に教えたんだろうぜ。全く……」


 あれ? ギルド長って不人気……?


「よっし、黄弾(イエローバレット)さんよ、ここはお前の出番じゃねえか?」


「言われなくても分かってるぜ……。よし、お前らの教師は俺が務めてやるぜ」


 ちょくちょく語尾に『ぜ』が付くのが特徴の、金髪の男が私達の教師らしい。


「ありがとうございます! よろしくお願いします」


 私に習ってミズカとホノミも礼をする。ここで一気に魔法を習得して男子と差をつけてやろう……。と胸に一物抱きながら、私は持っていた剣を握りしめた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「なあ、シュウ。俺達の今日の晩飯とか、寝床とかどうするんだ?」


「僕も同じことを考えていたよ……。正直、良い案は全く思い付かないね。タクヤは何か思い付いた?」


「そうだなぁ。飯は食い逃げすればどうにかなるだろ? けど安定した寝床の確保は流石に無理だよなぁ」


「普通に考えて無銭飲食もダメだよ……。食い逃げって警察沙汰になるだろう?」


 俺はここで閃いた。


「そうか! わざと捕まれば良いんだよ!」


 捕まって牢屋に入れば、一日三食、寝床は安全! 完璧じゃないか。──自分で考えておいてなんだが、これは何かのキャッチコピーか?


「はあ……。それをやるなら1人でやってくれよ? 前科持ちとか僕はごめんだね」


「背に腹はかえられぬって言うだろ?」


「それは犯罪を正当化する言葉ではないんだけどね……」


 ふーむ、流石にシュウは乗り気じゃないか。まあ身分証明書の備考の欄に『無銭飲食の前科有り』とか書かれるのは、ちょっと抵抗があるな。


「じゃあどうするよ? 俺の案はもうないぜ?」


「今のが真剣に考えて出した案なのか……。もう少しマシな案が欲しいんだけど」


 そう言われてもなぁ。普通に考えつくのは……。


「誰かにお金を貸して貰う……か? 返す当てはないがな」


「うん、僕も同じ意見だね。ここのギルドならお金も貸してくれるだろうけど……。今の僕達には返済能力が全くないからね。相手から信用されないと、お金の貸し借りは望み薄じゃないかな」


「さっきジルスと仲良くなったろ? アイツがギルド長なんだから、少しぐらい貸して貰えるかも知れないぞ?」


「んー、いくらギルド長だからと言っても、お金の分野は別の人が仕切っていると思うよ。できるとすれば、そのお金の管理の担当者に口添えするとか、その程度じゃないかな」


「それじゃダメなのか?」


 話を聞いてもらうだけでも良いと思うんだが……。


「そうだねえ……。僕もそれしかないとは思うけど、万が一にも借金を完済できなかったらどうするんだい? 君の言うとおり、返す当てはないんだよ。借金地獄に落ちる可能性だって十二分にある」


「そうか……。しかし、魔法を使いこなせるようになれば……」


「それも難しいよね。今のところ魔法なんてちっとも使えない。魔法を使えない魔法使いなんて、結局凡人だろう? 君は職に就いていない人間にお金を貸すかい?」


 うーむ、一理どころか百理ある。


「なるほど、言いたいことは分かった。けどな……。やっぱり多少のリスクは覚悟するべきじゃないか? お前の理論だと、結局何も行動できない」


「そうだね……。それは僕も重々承知しているよ。だから1つでもいいから、僕達に都合の良いことがないか、考えているんだ。果報は寝て待てって言うけど、今はその果報が何かを考えながら待っているんだよ」


 シュウも自分なりに考えているんだな……。しかし俺達に都合の良いことか。一体どんなことが起これば良いんだ? 頭が良い奴の考えは分からん。──例えば、俺達の中の誰かがいきなり魔法を使えるようになれば、それは俺達にとって良いことじゃないか? まあ、それが有り得ないからこうやって考え込んでいるわけだが。


 ふう、考え込むと疲れるな。また周りを観察するか……。


「ん? そう言えばあの3人パーティはどうしたんだ?」


「女子達のことかい? まだ練習中じゃないかな」


「いや、そっちじゃなくて男3人組の方だ」


 アイツらも練習場に行ったっきり帰ってきてない。アイツらが外に出たなら、俺達の視界に入るはずだ。しかし、まだその姿は見てない。


「見過ごしただけじゃないかい? もし彼らがまだ練習場にいるなら、女子達と遭遇しているはずだけど……。なるほど、そういうことかい。タクヤがそんなに女子達が心配なら、1度見に行こうか」


「い、いや心配というか……。何か引っかかってな。悪い、そうしようぜ」


 そう言って俺達は席を立ち、練習場に向かった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「よし、お前ら。まずは自己紹介だぜ。俺の名前はゼンリール。気軽にゼンと呼んでくれ。こっちの赤髪の方はガイドレア。ガイと呼べばいいぜ。青い髪の奴はバンテスタ、略してバン。全員『冒険家』になって10年以上は経つ。この国『アンク』の中じゃちょっとした有名人だな」


 予想よりも凄い人達だった。これは期待できる。


「えっと、私がリンカです。聖属性の魔法剣士です。黒髪の方がホノミと言います。火属性の魔法使いです。茶髪の方がミズカと言って、水属性の魔法使いです」


「おう、把握したぜ。それじゃ早速始めるぞ。まずは利き腕を前に伸ばしてみろ」


 全員右腕を前に伸ばす。


「そこから、腕に力こぶを作るようにしろ。力を入れて腕を曲げるんだぜ」


 私は腕を直角にして、力を込める。うう、あんまり力こぶとか見せたくないんだけど……。


「腕を曲げて、力を入れてるか? 次は少し難しいぞ」


 ここからどうするんだろうか。


「今度は手のひらに集中しろ。腕に込めた力を手に持っていく感覚だ。ゆっくりでいいぜ。力を手に込めるんだ。…………よし、合図をしたら、一気に力を抜きながら、腕を思い切り前に伸ばせ。……1、2、3、今だ!」


 ふうっ、と息を吐きながら、腕を前にピンと伸ばす。力が抜けて、少しだけ腕が冷たくなる。…………しかし、何も起こらない。


「今、腕が冷たくなっただろ? 魔力を放出した証拠だぜ。魔法が発現しなかったのは、力の入れ方が違ったからだな」


 今ので良いんだ……。でもあんまり手応えはない。もう少し手っ取り早い方法はないかな?


「もしかして、こうすればできるかしら?」


 そう言うや否や、ホノミは指パッチンを始めた。それも結構音が高めだ。そう言えば漫画でも指を弾いて魔法を出すシーンがあったような……?


「え~? そんなのでできるわけないよ、ホノミちゃん」


「そうかしら? 要領は同じだと思うけれど」


 言いながらパッチンパッチンと指を鳴らすホノミ。流石にそれじゃ無理でしょ……。と私が言おうとした矢先だった。


 シュボッ!


「熱っ……」


「「ええっ!?」」


 ホノミの指先から小さな火がたった。しかし、それはすぐに消えてしまう。


「ほう。そんな簡単に魔法を使えるとは、見所があるぜ」


 本当に指パッチンで良いの!? 典型的過ぎないかな……。そんなこと言ってても仕方ないけど。


「うーん、あたしも負けてられないわね!」


「皆で頑張ろー!」


 ──そう言ってペチペチ指を鳴らすこと数回。私は手の先に小さな光の球を出すことができた。数秒光って消えてしまうだけだが、すごく達成感がある。ミズカはと言うと、手の先から少しの水を出すことができるらしい。


「すごーい! こんなの初めてだよ!」


 そう言いながらペチペチと指を鳴らしては水を生み出すミズカ。まるで新しい玩具を貰った子供のようにはしゃいでいる。


「ほ~、最近の若いもんは簡単に魔法を使うな~」


「全くだ。最初は俺達も苦労したもんだがなあ」


「ジルスの奴が真面目に教えてやれば、もう初級魔法ぐらいは習得できたかも知れないぜ?」


 冒険家3人が感心している。私的には魔法が使える体になっていることに関心があるんだけど……。どうして急にこんなことができるようになったのかな? なんにせよ、これで男子2人は驚くわね。タクヤは悔しがるかも。


 そう考えながらギルドの方を見ると、ちょうどタクヤとシュウがこっちに向かってきている所だった。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「タクヤ、君の予感は当たったみたいだね」


「あー、少し予想外ではあるがな……」


 俺達の目の前には、先程の男3人組と、こちらを見てドヤ顔をしている女子達が居た──。

2月は逃げる、3月は去る。

時が経つのは早いですね。あっという間に1ヶ月。まだまだ忙しい身なので、これからの更新速度はどうなるか分かりませんが、途中で辞めることはしないので、どうか最後までお付き合い下さい。今回も読んで下さり、誠にありがとうございます。


次回:一人旅、始めます!


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