実情
13話目ですね。
サブタイトルが合ってない気もしますが、見逃して下さい。お願いします……。
ジルスがギルドに戻ったあと。俺は皆にパンを配っていた。
「ギルドのお店の人がタダでくれたんだよ。食料無かったから助かったな」
「そうだね……。僕達はお金もなければ寝る場所もない。こんな状態じゃ元の世界に帰るどころか、ここで餓死してしまう」
「どうにかしてお金を手に入れたいわね……。やっぱり冒険でもするしかないの?」
リンカの疑問にシュウが頷く。
「ルリサさんが言ってたよね? モンスターのドロップ品を買い取るって。つまり、僕達もモンスターを倒せるようになれば、自ずとこの世界で生きていけるようになるはずだよ」
ここで話を聞いていなかったミズカが口を開く。
「ねえねえ、ホノミちゃん、このパン美味しいね!」
「そうね……でもパンじゃないかも知れないわ。見た目が似てるだけで」
「ええ? どう見たってパンだよ?」
俺はここで口を挟む。
「んにゃ、店員もパンだとは言ってなかったな」
「うそ! じゃあなんだろうね~」
こいつ本当にほのぼのしてるなぁ……。
「それなら、お昼ご飯食べ終わったら、皆でモンスター退治よ!いいわね!」
リンカはノリノリだなぁ。モンスター退治て……。ゲームじゃないんだぞ、ホントに。
「うーん……僕もそうしたいんだけど……」
「どうしたの? いつもすぐに行動するシュウ君らしくないけど」
確かにリンカの言うとおりだ。シュウが何故か渋っている。何が心配なのか……あっ。
「そうか、俺達はまだ魔法が使えないんだった……」
「そう。そこがネックだよね。僕達は魔法も使えない、体も鍛えてない、そもそも戦闘経験がない。色んな面でハンデが有りすぎる。しかもここは現実。今の状態で街の外に出るのは危険以外の何物でもないよ」
「…………」
全員黙ってしまった直後、ギルドの方から賑やかな声が聞こえてきた。
「まあ、取り敢えず冒険は後回しにして、ギルドの仕組みでも観察しようぜ。てことで俺は中に戻るけど……まだここで魔法の練習をするか?」
俺の提案にシュウが応える。
「僕もギルドの中に居ようかな。今後どんな動きをする参考にできるだろうし」
俺は頷きながら同意する。
「あたしは……もう少しここで剣を振ってるわね。刃物の扱いに慣れておきたいし……」
リンカはうって変わって不安そうだな。まあ、急に本物の剣を使えって言われるのもだいぶ抵抗があるよな。
「リンカちゃんが残るなら私も残るよ! 3人で修行した方が効率いいもんね!」
「ちょっと? その言い方だと私の参加は決定みたいだけど……」
ホノミは困惑しているが、こちらを向いて口を開いた。
「えっと……。じゃあ私達はここに残るから、ギルドについてはお願いするわね」
「うん、分かったよ」
「おう」
俺はシュウと共にギルドへと戻っていった。
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「うおっ、めっちゃ人が居るぞ!」
「うん……思っていたより多かったね」
ギルドに戻った途端、そこには沢山の人だかりができていた。
俺達は受付と入口を見渡せる場所で、なるべく端の方のテーブルに座り周りを眺める。
次から次へと入って来る人はまず受付に向かう。そこで、ある人は職員と一緒に裏の方へ行ったり、またある人は渡された紙に何かを書き込んだりしている。恐らく冒険の後処理だろう。
戻ってくると仲間達とテーブルを囲み、談笑したり作戦会議をしたりしている。そうして数分も過ごすとすぐに出て行ってしまう。
「なあ、シュウ。なんか分かったか?」
「そうだね……。まず分かったことは、1つのパーティに女性が2人ほどしか居ないこと、さらにその女性は恐らくは魔法使い……つまり、後衛だということかな。あとは……僕達よりも年上が多いということだね」
ふむふむ、シュウはパーティについて見ていたか。しかも女性が後衛ってことまで見抜いたと……。
「なるほどな……。ん? あそこに座っている奴らは男3人のパーティじゃないか?」
「本当だね。赤い髪の人は軽装備で片手剣……もう1人の青い髪の人は重装備に大型の盾とハンマーかな? 金髪の人はローブに杖だね。ということは……」
「3人で前、中、後衛を一人ずつ担当しているのか。つまりは3人居ないとパーティは組めないのかね?」
「うん、そうなるだろうね。ああ……それにしても、もしも僕達に筋力があれば、前衛と中衛を同時にこなすこともできるかも知れないのにな……」
「お前は魔法職だろ? そっちを極めればいい話じゃないか。俺なんか魔法剣士のくせに魔法が使えないんだぜ?」
シュウは苦笑しながら応えた。
「僕もまだ魔法は使えないんだけどね……」
「そ、そうだったな、すまん……。あ、さっきの3人が練習場に向かっていったぞ? 見に行くか?」
「いや、せっかく中に入ったんだし、僕はまだここで観察を続けるよ。気になることもあるし」
「そうか……。なら俺も残るかな」
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「ふっ……せいっ……はあっ!」
私は目の前の青い球体──スライムボールを斬ろうと剣を振るう。しかしどうやっても斬れる気配がない。途中まで斬れて、どんどん再生してくる。やっぱり剣を光らせないとダメなのかな……。
「いやー、リンカちゃん凄いね! その剣って重すぎて私じゃ持てなかったのに、軽々と振り回すんだもん」
ミズカが目を輝せてこっちを見ている。
「まあ、腕力は鍛えてたからね。それでもやっぱり重いよ、これ」
ほえーっと変な声を出すミズカ。すると、それに被せるようにしてホノミが私の方に質問してきた。
「ねえリンカ、そう言えばあなたの属性って聖属性……だったわよね?」
「うん。そうだけど?」
「聖属性ってどんな魔法なのかしら……?」
ホノミの質問にミズカが答える。
「知ってる! ビカーッてなるやつ!」
「えっと……もう少し詳しくお願いしても?」
ホノミは困惑顔で言う。私も何のことだか分からない。
「あれだよ! なんか、悪魔とかを溶かすやつ!」
うん。分かっちゃった。光で照らして攻撃する魔法ね……。
「なんだかその言い方だとサイコパスね……。でも大体分かったわ。リンカも理解したかしら?」
「うーん、何となくね……。結局どんな魔法なのかは使ってみないと分かんないかもね」
それもそうねと頷くホノミ。彼女はいつも冷静で、その冷静さが近づきがたい雰囲気を醸し出している……と、誰かが言ってた気がする。タクヤだったっけ?
そんなとりとめも無いことを考えていると、ギルドの方から誰かがやってきた。
「ふー、やっぱり体がなまってしょうがねえな」
「あのなぁ。俺はてっきり、お前は引退したのかと思ってたぞ。なんだって急に狩りに行こうとか言い出したんだ?」
「ホントだぜ。俺もそろそろ金が貯まってきたし、贅沢したいと思ってたんだがなぁ」
なんだか冴えないおじさん3人組が口々に何かを言いながら、こちらに近づいてくる。あの人達が冒険者……ここで言う『冒険家』なのかな……?
「まあまあ、そう言うなって。俺達もまだまだ元気……おお? なんだ? 珍しいな、かわいこちゃん達がこんな所に居るなんてな」
最初に入ってきた赤髪の男がこちらに気付いた。本能的に身構えてしまう。ミズカもホノミも向こうを警戒しているようだ。
「おおっと、そう睨み付けるなよ。大丈夫、ここに居る3人は妻も子供も居る。あんたらに手を出すことはないさ」
「おいおい、ビビらせてどうするんだ『紅剣士』さんよ? いきなり声をかけるのは紳士的じゃねえな。……よっ、ウチのリーダーが驚かせちまったな。悪い悪い」
今度は青みがかった短髪の男が話しかけてきた。冴えないおじさんかと思ったら、意外と若い。肌を見る限り、そこまで年を取ってないようだ。
「あ、いえ……こちらこそ」
取り敢えず悪い人では無さそうだから、謝っておく。
「へぇ、礼儀正しいな。あんたらは悪い事なんぞしてないんだぜ? 謝らなくてもいいぞ」
今度は金髪の男が口を開いた。こうしてみるとなんだか信号機みたいで面白い。金髪男の後ろでは、赤髪の男と青髪の男が取っ組み合いをしている。
「その名前で俺を呼ぶなっつったろ! この『青い衝撃』が!」
「なっ……! 俺もその2つ名は返上したんだよ!」
そこに金髪男が割り込む。
「おいおい、お前ら喧嘩はやめようぜ?」
「「黙れ! この『黄弾』野郎!」」
そのやりとりを見て私は思った。
この人達……中二病?
ここら辺は書くのが結構楽しいです。
今後の展開はぼんやりとしか考えてないですが。
それはそうと2つ名って格好いいですよね。
自分にもありました……『空気ストッパー』っていうものが。自分が何かを言うとその場の空気が止まるのです。友人との会話でも時々なります。結構悲しいです。まあ、話を聞いてもらう分には便利なんですけどね……。
さて、最初の方を見返してみると、海皇パートの展開が早すぎて、こっちの展開が追い付かないという状況になりました。海皇パートを適当に済ませた過去の自分を殴りたい……!次の海皇パートは丁寧にやっていこうと思います。
次回:特訓再び




