白い魔法使い
中心街に行く前に
先に杖揃えに行くぞ、
とユウヒに言われたのでユウヒオススメのお店に来ています。
「わっすごい!!杖がたくさんっ」
その店にはたくさんの杖があった。
花屋のように筒状の入れのに複数の杖を入れていたり
壁に掛けかけたり、箱に入れ棚に収納していたり。
「あら〜ユウヒ君じゃない。
この店にくるなんて珍しいじゃない」
「どうも。俺じゃなくてコイツらの杖探しにきた」
ここの店主なのだろう。
エプロン姿のおば様が奥から出て来て、私をじっと見つめた。
「ふふふ。プリーストだねあんた。」
「えっ!?
どうしてわかったんですか!?!?」
「何年も店主してたらわかるわよ。
それにしても女の子のプレイヤーなんて珍しいわね!
しかも!べっぴんさんじゃない〜」
「……どこが」
「ユウヒ、うっさい」
相変わらずこの男は。
せっかく褒めてもらえて、気分よかったのにっっ
それから私とヒロヤ君は店主さんに自分に合う杖を選んでもらう事になった。
「マリカちゃんはMPがレベルに対して随分高いわね〜」
店主が私をじっとみつめて言った。
「MPって何ですか??」
「マジックポイントって言ってね、
魔法を使うとそのポイントが消費されるのよ。
高度な魔法ほど消費率が高いのよね。
ちなみに、MPが0になっちゃうと
戦闘中でも睡魔に襲われて寝ちゃうから気をつけて。
そのMPが、マリカちゃんの場合は高いの。
だからね、このあたりの杖とかどうかしら!!」
店主は私の身長くらいの大きな杖を持ってきた。その杖は先端に大きな藍色の球体をした結晶がついていた。
…見るからにめちゃくちゃ重そうなんだけどっ
先端の藍色の結晶はとても綺麗だけどさ…
「この杖はね、MPの消費がちょっと多いけど
その分質が良くて効果が高い魔法ができるわ」
差し出された杖を持つと、思っていた以上に重くはなくはなかった。
現実世界でみた魔法使いの映画で
自分に合った杖を手にして周囲に風が起きたりするのかと思ったけれど、その現象は起きなかった。
“ピロロローン
新しい武器を入手しました”
私の目の前にウィンドウが現れた。
それはジルが使っていたやつと同じだ。
「え!?何これ??」
「ゲーム内ではよくある事だ
これで色々自分の事を管理できるんだよ」
「へ〜。なんかスマホみたい」
「本当にマリカちゃんは、初心者さんなんだね
この世界は大変かもしれないけど、頑張ってね」
そのやり取りをみていた店主が言った。
それから店主にヒロヤ君の杖も選んでもらった。
ユウヒ曰く、プレイヤーが最初に手に入れる杖は無料になるらしく、それはどこの店も同じだと。
それなら1番高い杖を選ぶんじゃないかって思ったけど、強い杖はそれなりのレベルがなければ装備できないらしい。
「また新しい杖が欲しくなったら、いらっしゃいね〜」
店主に別れを告げ、私達は掲示板があるセントラルの中心街に来た。
「ユウヒ、何でみんな杖持ってないの?」
掲示板へ向かう途中、何人ものプレイヤーとすれ違うけど誰1人杖を持っている人がいない。
…なんで??
みんな初心者とか??
「あぁ、データ化してるからな
手で持つのだるいし」
……それならもっと早く言えよ。
まぁ、みんな初心者とかそりゃないか。
「両手を合わしてから、前に手のひらを突き出すとウィンドウが出てくる」
ユウヒの言う通りに腕を動かすとウィンドウが出現した。
そこには持ち物というものがあり、指でタッチすると反応した。
本当、スマホみたい……
武器を選択。
アクアマジックロッドをデータ化しますか?
はいを選択っと。
すると、シュッと杖は消えたのだった。
「わっ!なんか魔法みたい」
「フッ。お前面白いな。
それ魔法じゃねぇから」
「ちょっ、そんな笑わなくてもっ」
可笑しそうに笑うユウヒ。
うっ…かっこいい…
って!!!
笑われているのに、あの大好きな笑い方をするから、つい怒れなくなるじゃん…
ずるい。
「あ、マリちゃん!
あれが掲示板じゃないかな?」
少し前を歩くヒロヤ君か言った。ヒロヤ君が指さした先をみると…
…え???
「え?ちょ、でかすぎない!?」
見上げすぎて首が疲れちゃうほどの高さってほど優しいものじゃない。
ざっと……縦10m、横50mくらい?
てか1番上なんて文字見えないしっ
これは視力検査かよっ!!
掲示板にはたくさんの人で溢れていた。
…あれ??
掲示板に貼り付けてある紙にはクエストの名前が書いてあるんだけど、灰色と白色の紙になってる。
この紙の色の違ってなんだろ??
ピロロローン
紙色の違いについて説明します。
白は現在プレイヤーが行けるクエスト
灰色はレベルが達していない、対応のジョブでないなどの理由から、参加出来ないクエストの事です。
説明ありがとう。
…て、何今の声??
きょろきょろしても声の主がいない。
ピロロローン
私は神の声です。
…神の声ね。
ってゲームの世界についてけない。
それにしても、
これはみんなプレイヤー?
男の人ばっかりじゃんっ
あの店主のおば様が言っていた女の子のプレイヤーは珍しいって本当だった…
なんか凄く心細いな…
「えーと、プリーストの試練と召喚士の試練か…
両方一気にできねぇし」
「ん?ユウヒどういう事??」
何か悩んでいるユウヒに聞いてみた。
「本来なら案内人がプレイヤー1人につき1人つくんだ。クエストも一緒にやって、闘い方とかも一から教えるんだけど…」
「あ、わかった。行ってきていいよ!
大丈夫!私1人でクエスト出来ると思うし」
ユウヒが言いたいのは
ヒロヤ君のクエストについて行きたいって事だと察した。
“召喚士の試練”をみると灰色の用紙に書かれていた。もちろん“プリーストの試練”は白色の紙だった。
ちなみにレベルが高いユウヒさんは、両方いけるらしい。
「……」
じーっ
「な、なによ!疑いの目で見ないでよ」
「…マリカ、俺らが戻ってくるまで待ってろよ?」
「いいよ!そんなの時間がもったいないよ!
初めてのクエストだから、優しいやつでしょ?
大丈夫だって」
なかなか首を縦に振ってくれない。
「大丈夫だから。私は死なない」
「……わかった。
まぁプリーストの試練だから
薬草を調達するクエストだと思う
戦いとかないし、危ない事はないと思うけど、
…死んだら」
「わかってる。ちゃんと戻ってくるよ」
出戻りだけは絶対なっちゃいけない。
2人のこと忘れないためにも。
ピロロローン
ユウヒさんから友達申請がきました。
承諾しますか?
目の前にウィンドウがでてきた。
「え?何これ?」
「これをすればいつだって連絡とれるからな」
「そ、そうなんだ」
……深い意味はないのね。
私はウィンドウに表示されている“はい”を選択した。
「じゃ、まずはクエストに行く方なんだけど
両手の親指と人差し指で長方形をつくって、行きたいクエストに合わせみ?それから“go”って言えばそのクエストの場所に瞬間移動するから」
「なるほど。四角をつくって、go」
シュッ
ーーーーー
ーーー
「わっ」
ドスンっ
「痛た…瞬間移動ってこんな荒い着地なの?」
バランスを崩し、勢いよくコケてしまった。
ピロロローン
プリーストの試練
クエストをクリアするには銀の鈴を手に入れてください。
神の声とウィンドウの出現。
…銀の鈴ね。
「それにしても、ここはどこだろ??街中??」
移動してきたところは、さびれた家がたくさんあった。
「あ、旅人さん!どうかこの子を助けてくださいっ」
私に声をかけてきたのはお婆さんだった。その体はガリガリで餓死してしまんじゃないかって位に細かった。その腕には小さな子ども。
「この村は貧しくて食べ物もろくに無い…
体力が無ければすぐに病にかかる。
この銀の鈴をあげるから、山奥にある病を治す薬草をとってきてくれないか??
ワシの足では取ってこれんのだ…」
あ、これはゲームのシナリオなんだ。
薬草をとってきて銀の鈴を貰えばクリアね。
「わかった。薬草とってくるよ!」
「おぉ。旅の方ありがとうございます」
お婆さんに言われた山に向かって歩いた。
人とすれ違うことも無ければ動物もいない…
なんか不気味だな…
数分歩き続けると山につき、歩いて行ける距離の頂上を目指した。
「ん?あった!!これだね薬草!
なんだクエスト簡単じゃん」
「ヴゥ〜」
「えっ??!」
薬草に手を伸ばした時、背後から唸り声が聞こえた。振り向くと、狼のようなモンスターが立っていた。高さが3mはあるだろう。口にはとがった牙。目は血走っている。
その狼モンスターの上にはHPのゲージとレベルが表示されていた。
…えっ。レベル85!?
自分はレベル1。これは絶対死ぬやつじゃん?!?!?!
いくらゲームに疎い私でも、このレベルの差をみたら誰でも分かる。それにHPなんて自分の10倍あるしっ!!
「ヴゥ〜」
「ゴメンね、キミの薬草だったんだね
でも小さな村にね病にかかった小さな男の子がいて、どうしてもその薬草が必要なんだ。少しだけ貰いたいだけど…?」
「グアッ」
「ひっ」
怖いって!!!!
日本語通じてないし!!!
無理無理無理!!!
これは逃げるべきだよね??
これ以上話しかけても挑発しちゃうだけだし…
私がその場から逃げようと、1歩動いた瞬間
ピロロローン
ターゲットがマリカさんになりました。
「グアーーーッ」
神の声と共に、狼モンスターが私に飛びかかってきた。
死んじゃうっ!!!
食べられるっ!!!
私は目を閉じる事しかできなかった。
「…ヒカリ、」
ブワーーーーーーン
どこからか不思議な音がした。
…あれ?
痛くない??
ゆっくりと瞳を開けると、横たわっている狼。私の目の前には杖を持った男の人。杖からは白い光が溢れていた。
…助けてもらったんだよね??
「あ、あの。ありがとうございます」
「どういたしまして。ボクはヒナタ。君は?」
ヒナタと名乗った彼は、栗色の髪に大きな琥珀色の瞳。
…白い魔法使いだ。
何故だろう。どことなく西島くんに似ている気がした。