気弱だからと言って弱いわけではない
僕の名前は神気。しんきと読む。この神気と言う名前はとても小さい頃にあることがあってつけられた。突然だが僕は気弱だ。前髪が目を覆っている事もあってを頼み事をよくされる。
「あっおい神気!これ運んどけ!」
「え・・・あの・・・」
「いいから!これ視聴覚室な!」
どさどさとダンボールが同級生の手から僕の手の中に納まる。
確か視聴覚室って四階だよね。ここ一階なんだけど。
「はぁ・・・修練の時間も無いや」
修練とはそちらの世界で言う修行?のようなものだ。
この世界では魔法を使って戦争をしてる。この学校は高校で戦闘員を育てている。
「やっとついた・・・あ・・・あの先生」
「あぁ神気君これを教員室に持っていってくれ」
「あ・・・あのこれ届けましたんで・・・」
ダンボールを机に置くとまたダンボールだ。教員室って一階・・・
「あっ神気君!これ運んでくれない!?」
「え・・・うんいいよ」
「ありがとうね!うちの教室までお願い!」
この学校はダンボールが多過ぎないかな。
毎日これだ。僕は知っている。影で僕の悪口を言っている事を。
授業の成績はまぁいいほう。でも事あるごとに僕に頼み事が飛んでくるから家に中々帰れない。
今日も教室の掃除をして。先生の荷物を運んで。戸締りを確認して。
気がつけば8時近い。はぁ。やっと家に帰れる。と昇降口に誰かいる。
「やっほー!神気!帰ろ!」
「梨花・・・うん帰ろう」
梨花だ。りかと読む。僕の幼馴染。家も隣。両方とも家には一人しかいない。
「今日も色々頼まれたんでしょー?」
「うん・・・疲れた」
「じゃあ私が家で家事しないとね」
ごめんね。と僕が言うといいのいいの!とキャラキャラと笑う。
眩しいな。僕はこんな性格に惹かれたんだ。
「そういえばさ校長先生との修行進んでる?」
「・・・最近上手く時間が取れない」
校長先生。この学校の最高権力者である
この戦争でナンバーワンに数えられるほどの実力者。
小さい頃から修行をつけてくれた。何度も死にかけてるけど。
「はいただいま~制服アイロンかけるから掛けておいて」
「了解・・・ありがとう」
半ば同棲生活だ。通い妻とも言うのだろうか。
僕達は将来結婚する予定。らしい。許婚?という奴だ。
僕たちの親が遠い親戚に当たるそうで仲がすごぶる良かった。
「はい野菜炒めねじゃあ食べましょうか」
「・・・頂きます」
彼女の作る料理は美味しい。君の作るのも美味しいよ。と言ってくれるが自信が無い。
彼女はかなりの高確率で一緒に寝る。僕はこれのおかげで自制心がついた。
「ふわぁ・・・じゃあ寝よっか」
「おやすみ・・・」
こうして僕と梨花はまどろみの中に落ちていった。
次の朝。僕と梨花は一緒にお弁当を作って一緒に家を出る。
正門には十二くらいの少女が仁王立ちをしてた。僕の本能が逃げろと言ってる。
「やぁ我が弟子よ昨日は私との修行をすっぽかしてそこのと乳繰り合っていたな?」
「う・・・師匠ごめんなさい」
「まぁいい今日はちょっとだけきついぞ?」
「・・・頑張ります」
師匠は頷くと背を向けて校長室へと帰っていった。
去り際にそういう愚痴を言わないところが好きだ。と言っていた。
「神気!これ頼めるか!?てか頼まれてくれ!」
「え・・・あの」
「じゃあ任せた!」
またダンボール。この学校は運び物が多いなぁ。
梨花とは別のクラスなのでもういない。
「あぁ神気君!これを頼む!」
今度はテストの採点。これは僕に任せてもいいのだろうか。
と言っても僕の採点スピードは中々のものだ。
さっさと終わらせ放課後も早々に校長室に向かった。
「お来たかじゃあついて来い」
校長室から直接向かえる修行場。と言っても草原だ。ただでかい。
「じゃあ私が魔法をぶつけるから避けろ」
「・・・はい」
竜巻。火炎。氷山。紫電。海流。全てが天変地異のようなでかさ。
完璧に避けるにはゼロコンマゼロゼロ秒の判断力が必要だ。
しかも昔はかなり手加減していたのがまったく今はしていない。
当たれば僕の存在が無くなる。
「よく避けきったなさて次は私に一撃を食らわせてみろ」
「・・・やってみます」
力をこめて師匠に近づく。この間に常人なら動いていないように見える。
しかし実際は超が付くほどのスピードの戦いだ。
キックをかませば避けられ魔法を飛ばせば避けられる。
「ほれほれどうした?そんなでは私に触れることすらできんぞ」
「・・・ここから」
今までは様子見。ここからが本番。師匠の重心が乗ったところを見逃さない。
ローキックを放つ。しかし魔法で飛び上がってしまった。
「ふふ危なかったぞよく私から魔法を引きずり出した今日はここまでにする」
「・・・ありがとうございます」
息をするのをほとんど忘れていた。息をする時間すら惜しかったのだ。
僕は昇降口に戻るとなぜか泥だらけの梨花がいた。
「どうしたの?・・・泥だらけ」
「いや~転んじゃって」
キャラキャラと笑う。薄々気づいた。僕のせいで苛められているのだろう。
僕はイラつく。僕に矛先を向ければいいのに。何故梨花なのだ。
「今日は僕が料理を作るよ制服洗って」
「いや~ごめんね」
制服を洗濯機にかける。泥だから少し落ちづらい。
僕はパスタを作る。僕の得意料理はイタリアンだ。
「はいぺペロンチーノね」
「頂きます!・・・おいしい!」
梨花の笑った顔はとても綺麗だ。守ってあげたいぐらいに。
「・・・先に寝てて」
「りょうかーいおやすみ」
コクンと頷き僕は梨花の制服を部屋干しにする。
こういう時の為に除湿機を買ってきてよかった。
「僕も布団に入ろう・・・まだおきてる?」
「・・・」
寝てるか。まぁいいや。寝ててもこの言葉を覚えているなら。
「忘れないで僕は君の為なら命を落としたって惜しくは無いんだ」
心からそう思う。君の為なら死んでもいいし世界を敵に回そう。
鬼だろうが悪魔だろうが神だろうが容赦はしない。梨花を守る。
「おやすみ・・・」
僕はまどろみの中に落ちていった。
「起きて~!起きてってば!」
「ん・・・ううん」
僕は梨花の声で目を覚ました。どうやら少し眠りが深かったようだ。
「おはよう・・・ごめんちょっと寝過ごした」
「いいのいいの!お弁当作ってあるから支度していこ!」
制服に着替えお弁当を持って学校に赴く。
クラスが別なので別れる。実を言うと心配でしょうがないがこればかりは仕方ない。
「・・・」
教室では基本的に喋らない。勿論聞かれれば返すし時事についてもぬかりは無いつもりだ。
本を読んでいたりするし空を眺めていたりする。哲学的な事を考えたりもする。
朝の時間が終わり暇だったので梨花のクラスに行ってみる事にした。
正直見なければ良かったと思っている。梨花の机には落書きと花瓶。そして梨花の姿が見当たらない。
「ちくしょう・・・」
あのキャラキャラとした笑顔からは想像できない。
あんないじめを受けていたのに何一つ言わないなんて。
机には僕と交友関係がある事が主立って書いてあった。
『あの根暗と付き合うなんて頭がいかれてるの?』
『あいつの菌がついてるかもしれないから学校来るな』
遠めにそんな事が書いてあった。なんと下劣な奴らなのか。
僕は久々に怒りかけた。魔力が充満し学校のどこかがピキッと鳴った。
その音で僕はやめた。梨花が生き埋めになったら嫌だから。
「師匠・・・お願いがあります」
「何だ?言ってみろ」
「高等学部一年と決闘を」
「良いだろう許可する」
『決闘』とは一種の賭け事だ。戦いに勝った者は自分の好きなことを命令出来る。
負けたなら自分の決めた代償と相手の命令だ。ようするに魔法で殺しあえ。
「放送だ全員スタジアムまで来ること決闘が始まる」
スタジアムとは決闘用の建物だ。観戦できる。
古代ローマのように性悪だ。人の殺し合いを眺めようなんて。
「さぁ!久しぶりの決闘だ!カードを発表する!」
基本的に個人が戦うことが多い。それを眺めるのが醍醐味だ。
しかしカードの発表はこの空気を凍り付かした。
「一年対神気!」
当たり前だ。この学校は四十の四クラスだ。139人と一人の戦い。
「へぇーお前が俺たちに敵うとでも思われたんだな・・・まぁお前が死ぬからいいか」
「まったくよなんでこんな茶番に付きあわなちゃいけないのよ・・・死ね」
愚痴を言われたがもう気にしない。戦いのゴングが鳴る。
139人の負けた代償は宿題二倍。対して僕の代償は・・・自害。
139人が僕を取り囲み殴り蹴った。魔法を当てられ僕の身体はボロボロになっていく。
「ほらほらぁ!手を出してみろよ!」
僕は耳を貸さない。僕が攻撃を受けている理由はただ一つ。
観客を沸かせる為だ。そして叩き落す為の。その時マイクから怒号が飛んできた。
「神気!やってよいぞ!」
「・・・了解」
目を向けると泥だらけの梨花が師匠の隣に座っていた。
僕はそんな彼女を見たくは無い。守らなくては。そう思ってしまう。
「気をつけろ諸君彼はこの私の弟子だ」
マイクで何か言ってる。僕は気にしないが。
「気をつけろ彼は鬼も悪魔も神もこの私ですらも喰らおうとするぞ」
その気になれば神にもなる。その素質から師匠より神気の名前を貰ったのだ。
「彼は気弱だがだからと言って弱いわけではない・・・彼をコケにすることは私が許さない彼は自分の為には動かないが人の為になら情け容赦は無い私は彼を深く愛している私は彼の為になら命を投げだせる覚悟がある」
師匠が弟子である僕の為に命を投げ出していいなんて言ってはいけない。
師匠はもう僕の身体の一部だ。僕こそが命を投げ出さなければいけない。
しかしここまでお膳立てされて嬉しくないわけがないだろう。
魔力を充実させる。濃密な、密度が濃い魔力。スタジアムは軋む。
「天を裂き地を割りて睥睨せし神よ今ここに現れん」
僕の唯一つの魔法。師匠の技を僕の魔法に直す。
師匠は過激には命を奪わないがそれでもまだ殺す可能性がある。
僕は人を殺せない。だからこそのこの魔法。
「天地睥睨・・・神龍」
僕の両手から二対の龍が出てくる。師匠はこれで命を噛み砕く。
僕は感覚を噛み砕く。龍に触れた者は身体だけが動かない。話を聞くだけの人形だ。
「勝者!神気!」
誰も何も言わない。それはそうだ。僕が一回魔法を使っただけで終わったのだから。
139人対一人の戦いは僕の勝ちで終わり。観客としてはあの気弱が勝ったと思う事だろう。
「僕が命令することは唯一つ・・・今度梨花に手を出してみろ次は命を噛み砕く」
前髪をかきあげる。僕の目の色は青。師匠からは碧と言われた。
139人を睨みつける。この目には恐怖を与える効果があるみたいだ。
「さ~て梨花よお前の為に戦った奴に労いをかけてやれ」
「えぇ?いかなちゃ駄目ですか?」
口はこういっているが泣きかけだ。そこまで悪い事したかな?
階段を下りて向かってくる梨花。向かってくると最初に言った言葉はこれだった。
「ありがとね私の為に決闘したんでしょ?」
「いいや・・・僕こそごめんね僕が気弱だから苛められたんでしょ?」
・・・うん。と首を振る。やっぱりか。これは完璧に僕の責任だ。
僕が変わらなければ。何時までも甘ったれるな。元来の性格を出せ。
「ごめんね・・・ごめんね」
「いいの!いいの!・・・本当にいいのに」
抱きつかれた。ワンワン泣かれた。周りの目を気にせずに。
観客も少しは後悔したのかな?僕はひたすら宥める。もう気弱なんていわせない。
僕も元は活発でハキハキとした性格だ。代わりに梨花は暗く気弱だった。
梨花は苛められていて僕が助けた時に人を殺めかけた。それが原因で僕は暗くなった。
僕を励まそうとしてたのだろうか。どんどん明るくなって今の性格になった。
「僕は生まれ変わる・・・君を守りたい」
「ありがとう・・・でもね忘れないで」
つっかえながらもしっかりと僕に聞こえる声で言う。
「忘れないで私は君の為なら命を落としても惜しくは無いよ」
「・・・寝てなかったんだ」
「うん寝てなかったよ君を待ってたら・・・聞こえたんだ」
僕が昨日寝る前に言ったセリフが聞こえた。同じ気持ちか。
こういう所も相思相愛なのかもしれない。僕が悲しいときにいつも君はいる。
君が嬉しい時に僕は必ずいる。君の両親より長くいるのだ。
「そろそろ魔法が切れてきたね」
僕の生粋の性格が顔を出してきたみたいだ。はっきりとした声になってきた。
「よしよし我が弟子よ今日は家に帰りたまえ労ってやろうついでに・・・」
「ついでに?」
「苛めという下劣な行為を長年に亘って行なっていたというのは由々しき事態だからな」
うわぁ。悪者の顔だな。大変にこやかだが目が笑っていない。魔力が途轍もない。
心の中で139人に手を合わせる。あわよくば明日生きている事を祈ろう。