94話【遭遇4・勇者・】
「そろそろ、勤務終了の時間なので帰りたいのですが」
占い師は腕時計を確認する。
時刻は7時を回っている。
普段であれば、占い師は帰宅中なのだ。
「なら、アイツらを置いて帰ればいいじゃない」
「でもお客様ですので」
赤マントは顔を歪める。
(何よ、なんであんな"落ちこぼれ野郎"が大切なの?)
「私の"お客様"にするから」
グッ、と手を握り右手から光を作り出す。
早く、片付けて奪っていこう……
うん、それがいい。
ハーちゃんには悪いけれど、『事故死』とでもしておけばいいよね。
報告書はそれで済ませれば、私には何も無く、この戦いは終わる。
赤マントは、手から光を生み出し占い師へ勢い良く投げつけた。
占い師はその光の塊を見て、額から汗を流しながら何かで赤マントが生み出した塊を地面にたたき落としていた。
「酷い!叩き落すことないじゃん!もぉ!」
赤マントはもう一度、今度は塊ではない光の集まりのような、攻撃を繰り出す。
その光の塊の色は赤、隕石が衝突してくるかのよう。
グワンーー
占い師は慌てて後ろへ退き、ローブから出したのはペットボトル。水分補給____?
ペットボトルのキャップを取り、ガブガブと中の水を飲み干す。
「へー、ハーちゃん余裕だね」
赤マントはニタニタ笑いながら、指の骨をポキポキと鳴らし、次の攻撃の用意をする。その時、大きな風が赤ローブの背後からゴォゴォと流れてきて、全て赤ローブの体へ吸収されていく。
(あ………。次、大きな攻撃が来る_______)
辺りから風がなくなり、夏の日差しが強くなるのを感じた。
空にはギラギラと輝く太陽が昇っている。
占い師はシールドを張り、そこに折りたたみ式の椅子を用意して腰掛ける。
ポケットに手を入れ、中の飴を取り出して包み紙を剥がして口に入れる。
そのあと、両手をポケットにしまい足を組む。
「ハーちゃん!闘う気あるの!?何、休憩してるの!?」
赤マントはガミガミ叫ぶ。
でも、それはフェイクで後ろへ回している右手で攻撃の準備をして、占い師が気を抜いた時、それはシールドが弱くなる時を狙っている筈。
(私って天才ですね〜何手先まで考えているのだろ〜♪)
手を出し、シールドに向けて光を放ち、シールドを3重構造に改造する。
これで次の攻撃で2層目まで剥がれると考えているからまぁ、万が一の事があっても大丈夫ですよね。
(そういや、篠川さん大丈夫ですかね)
篠川は足を闇から引き抜き、立ち上がろうとするが次の一歩を踏み出すとまた、体が闇に落ちていってしまう。
その時、美和が涼に何かを話し、闇に手をつき立ち上がろうとしていた。
(呑まれる!)
しかし、今は動く事ができない。
闇でむやみに動けば闇に呑み込まれてしまう。
呑み込まれて終えばどこへ向かうかわからない。
篠川はただ、美和を見ている事しかできなかった。
美和は靴を闇に呑まれたのか、裸足だった。
そして何処へ行こうとしたのか、歩き出した時美和の姿はズブズブ、と闇に引き摺り込まれるように、完全に消えてしまった。
涼は口をあんぐりと開けて、目の前の光景を信じられないででいた。
そして美和の消えた場所へ這いながら、進んでいく。
すると涼の腕がズブッと闇に落ちてしまった。
「うわぁぁぁぁぁ!」
引き抜こうとしても、闇が引き摺り込む力の方が断然強い。
ズブズブ、とゆっくり落ちていく体。
次第に涼の頭だけが浮かび、最後にはズプンッと沈んでいった。
(どうして、動かないんだよ)
体がもし、動いたならば2人を救出できたかもしれないのに。
ぼぉーっと穴を見つめていた。
ぐるぐると台風の目のように渦を巻く闇を睨むかのように。
その時、二人が引き摺り込まれた闇の向こうに明るい光の穴が生まれていた。
闇に対抗する光が現れたようだ。
「ったく、皆さん動いたら引き摺り込まれるに決まってるでしょ」
人間の声がして、穴から3人が現れる。
ショートカットの制服姿の少女だ。
その少女は______
「日和?」
日和の両脇にはさっき引き摺り込まれたばかりの、二人の姿があった。
ダラリ、と頭を下げ、人形のように黙っている。
日和は闇の上に二人を「よいしょ」と置くと、篠川を今、見つけたのか、
「あー、篠川」
だるそうに俺の名前を呼ぶと、腕時計を取り出していた。
それはライト付きの腕時計。
その灯は先ほどの光と良く、似ている。
「先ほど、穴に落ちてしまってどうすれば良いか考えていたところ、ライト付きのこの腕時計を発見して(落ちてました)その灯を使ってみれば、闇が逃げて行きました。そうすれば、このお二方が床でお寝んねしていたので『ついでに』連れてきました」
余計な言葉が入っていたような気がするが、有難いな。
「で、その腕時計は_____?」
何処かで見覚えのある腕時計。
黒と白の腕時計でストライプの模様が入っている。
日和は「誰のでしょう?」と首を捻る。
その時、
「日和!それ、俺の!」
その声は間違いなく、涼のもの。
日和から腕時計を受け取ると、大事そうにタオルで拭き拭き。
その後、4人は_________
「どっから出ましょうか」
日和はへのへのもへじの様な表情をして、辺りを見渡す。
涼は嬉しそうにまだ、時計をキュッキュッとタオルで拭いている。
美和は辺りを見渡し、出口が無いか探しているが密室だ。
「出口、きっと有りますよ!」
勇気づける様に日和は笑った。




