89話【ナカナオリ】
美和は気がつけば、また涼とあの公園へやってきていた。
やはり、同じ公園だ。
「涼!良い加減に………したほうが良いよ」
前の失敗を再び、起こさせないために優しい口調で対抗する。
涼はやはり、鉄棒に腰を掛けた。
(全部、同じ)
足を振り子のように揺らし、ブラブラさせている。
その後、背後へ体を倒し、鉄棒で一回転して地面へ着地する。
顔を上げ、涼は美和を見詰めた。
「…………ごめん」
(同じ事を起こしてはいけない)
「私こそ、ごめん」
美和が小さく呟くと、涼は笑い、美和の頭に手を乗せた。
大きな手が短い髪を揺らし、温かい体温が伝わってくる。
目線を上にあげると、笑顔が目に入る。
「じゃあ、帰ろっか。今日は疲れただろ?」
「うん、そうする」
(これで………良い。これで、リセットした甲斐がある)
「帰りにさ、なんか奢るよ」
横に居た涼は美和を見ながら、「何がいい?」と問うてくる。
しかし、美和はさっきの出来事が消えてお腹いっぱいの大満足なのだ。
しかし、ここは奢られるべきなのだろうか。
いやぁ、迷惑をかけてもいけない。
「うん………いいの?」
「今月、バイトで給料入るから。それに、テストの成績良かったから、小遣い貰えるしな」
そういう涼は行き先は任せ、ただ、涼の背中を追いかけていった。
到着したのは路地裏にある小さなこじんまりとしたカフェ。
日当たりは悪く、薄暗い店内にはコーヒーや、甘いお菓子の匂いが漂う。
「一番端の席が空いてる、そこ行こうか」
美和は何も言わず、ただ、頷き涼の足の動きと自分の足の動きをシンクロさせるように歩き、後をついていった。
端の席は、席がソファーになっており、ゆったりと座る事ができた。
「何が食べたい?」
そう、質問された美和は慌てて、メニュー表を取り、一番安いメニューを選ぶ。
一番安いのは………。
涼が注文をして、暫くすると2人の頼んだものがテーブルに並べられた。
美和は、小さなカップケーキのようなものと、元々出されていた水で済ませる。
涼は、美和とは違い、高そうなチョコレートケーキを頼んでいた。
(うぅ……安いと味があんまりしないなぁ)
「美和、それ美味しい?」
涼に考えていた事がピッタリと当てられ、美和は困惑する。
不味いとは言えないし、どうすれば良いのだろう。
美和は首を傾げ、
「うん……美味しいんじゃない?」
「そっか。じゃあ、交換する?」
涼のは美味しそうだが、交換は……。
美和は俯き、黙って皿を差し出す。
涼も、皿を差し出し、美和は慌ててそのケーキにフォークを刺し、一口食べると、直ぐに誠へ返す。
(何これ……。口の中で溶けて、チョコレートの香りが広がって、甘すぎず、苦味が入ってめっちゃ美味しい)
ふと、見上げると、美味しそうに美和の差し出したケーキを食べている。
(美味しいのかな……?)
涼は食べ終えると、美和に皿を戻し、自分のケーキを食べ始めた。
美和はまた、あのケーキかと溜息をつきながら口の中に運んでいく。
さっきのケーキの甘さとこのケーキの何もしない味が混ざり、口の中は訳が分からなくなってしまった。
(うぅ……私が自分のケーキ出すからって言って、高い奴頼めば良かった)
すっかり皿が空になっても美和は満腹感を味わえず、口から魂が出て行きそうな口を開けてソファーにもたれる格好をしていた。
「美和、会計してくるから」
「いいよ。私の分……」
美和はメニュー表で自分の分のケーキ代を確認して涼の手に握らせる。
「でも……」
「いいから良いから」




