87話【嫉妬の渦】
英語のスペルが間違っているかも……
「っ………ハァハァ」
喉の辺りが痛い。
美和は汗の流れる頬に手を当て、拭う。
しかし次から次へと汗は流れてくる。
ワンピースの背中は汗で濃い、紫色に変色していた。
「なんか、スッキリしたかも」
ふと、腕を見るといつの間にか赤い線、が出来ていた。
リストカットの痕のような線だ。
(まさか、無意識のうちに………)
いや、そんな事はあり得ない。
きっと、どこかで引っ掻いたのだろう。
赤くなった手首に手を重ね、隠すようにして歩いていく。
何処にも、行く当ては無かった______
「どうし……よう」
その時、車のクラクションが鳴らされ美和の隣で黒い艶のある車が停車していた。
なぜか、立ち止まってしまい目をやると、窓がスゥーッと開き、中から青い瞳の銀髪の夫婦双子が現れる。
二人とも、人形のような美しい顔立ち。
女の子の方は銀色の髪を長く伸ばしており、薄い柔らかそうな灰色の近い、白いワンピースを着ていた。
少年は少女と同じような色や素材の服のカッターシャツのようなものを着ている。
少年は同じく銀色の髪をボブにしていた。
(なんか、凄い人達……)
「What are you up to」(何してるの?)
え……、えっと……。
美和の額から汗が流れていく。
今まで分かっているつもりだった。
英語はテストだって、90点以上は取っていたのに。
「in answer soon」(早く答えて)
え……answerが、答えで、soonがすぐに、でしょ?
だから、えっとぉ「早く答えて」か。
で、さっきのは………
その時、美和の手が引かれ、体が揺れていた。
美和の頭の中はぐちゃぐちゃになっていく。
知らない少年達に話しかけられ、誰かに引っ張られる。
(何が起きてるのーー!)
ふと顔を上げれば、整った顔立ちの男が立っている。
____涼だ。
「いいから、帰る。英語、無理に使わなくてもいいだろ?めんどくさいし」
少年が苛立っているのが伝わってくる。
2人を睨み、奥歯を鳴らす音がする。
「涼、あの子怒ってるんじゃ……」
少年はまた、同じ質問を繰り返す。
今度は先ほどよりも大きく、聞こえやすいように。
けれども、美和は口を噤んで何も答えなかった。
「in answer soon」
「not doing anything」
涼はそのまま美和の手を引いて歩いていく。
「涼……なんで……」
「なんか、苛ついたから」
なんで、苛つくのよ……
まぁ、あの子は苛つくかもしれないけど。
なんか、やな感じだったな。
あの子は誰なんだろう。
「あんな変な奴によく構ってられるよな」
「何!?どういう意味?」
「変なあの銀髪の奴、だよ」
(なんで、そんな事思うのよ)
美和は手を握り、歩き出す。
(意味が分からない…………)
スタスタ、と足を進めていく。
また、行き先も決めずに。




