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86話【美和の闇】

大きな通りに出ると、丁度バスがバス停に到着していた。

篠川は財布を出し、電車に乗り込み冷房の効いた車内で大きく欠伸をした。

電車の窓には簾のようなものがかかっている。

そのお陰で電車内は涼しく、汗ひとつかかなかった。




その頃、美和は誰かと連絡を取っていた。


「………の事、バレたら終わりなのよね……私は夏休みが………ったら………するの?うん、うん………………ったよ。準備しておく」


所々、美和の声は小さくなっていた。

まるで誰かに聞かれるのを恐れるかのように。


携帯電話を水色の鞄に終うと美和はもたれていた壁から体を起こし、立ち上がった。

そして散らかった段ボール箱だらけの部屋をクルクルと回り、その後床に座り込む。


「もっと………ったな」


美和の足の下には、アルバムが無造作に置かれている。

それに手を伸ばし、ページを捲った。


それは小学校の卒業アルバムだった。

写真の中でストライプのワンピースを着た美和は、3人の友人と肩を組み、仲良さそうに笑顔で並んで、ピースをしている。


これは修学旅行だろう。

何も知らなかった綺麗な心の自分が嫌だ。


美和は段ボール箱へ手を伸ばし、銀色の光に反射し、光るハサミを手に取った。

そして大きく手を振り上げ、写真の中の自分を抹消…………した。


「さようなら、美和」


楽しそうな自分が嫌い。

他の奴らは別に興味ない。


ただ、


ただ、


ただ、


____________笑顔の自分が大嫌い、なんだ。


また、ページを捲る。

大きくアップで美和は写っていた。

友人と楽しそうに水泳を楽しんでいる写真だ。


「………消えろ」


また、ハサミを自らの顔に突き刺していった。


グサッ


という音と共に、美和の顔は写真からは居なくなる。

グチャグチャになった自分の写真が目に入る。


楽しそうな自分は嫌い。綺麗な心の自分は嫌い。何も抱えていない自分は嫌い。


全てが嫌になる。




篠川は学校前のバス停で降車した。

篠川は、何も知らなかった。

この後、大変な事が起こるなんて。


また、寮への坂道を登っていく。

汗が滲む額にTシャツの袖を当てながら、スニーカーの足を地面にぶつけていく。

その時、目の前から誰かが走ってきているのが見えた。

大きく揺れるセミロングの髪の毛の少女。


「?」


(なんだ、ありゃ………)


深い紫色のワンピースが揺れ、次第に姿が見えてくる。

ものすごい速さでこちらへ来ている。


「…………!!!!!美和!」


美和は一瞬、篠川を見たがすぐに前へ進んでいった。


興味がないというように。



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