82話【仲直り、早くしておけば良かった】
結局、ギクシャクした空気のまま、解散となった。
美和は大きく溜息を吐き、ビーチサンダルに足を入れ歩き出す。
涼はウゥぅ、と唸りながらスニーカーのかかとを踏みながら、扉を開けて出て行った。篠川は大きく欠伸をしつつ、涼の後を追っていく。
夕方の燃えるオレンジの空には、大きな空の色に染まった入道雲が浮いている。
「美和!」
「こっち来るな!」
大声で叫ばれ、耳の中の鼓膜が破れそうだ。
背後から視線を感じ、振り向けば篠川達が冷たい視線を送っていた。
そして両手を合わせ、頭を下げている。
「チーン」
「死んでねぇよ!二人とも、辞めてくれ!」
「ご愁傷様でした」
「でした」
涼はストライプのシャツの襟を掴み、困惑した表情を浮かべる。
「俺と、アス……シノは、美和と仲直りしてほしいだけなんだよ」
「遠回しすぎだろ」
篠川は誠と肩を組み、ニタニタと涼を見る。
チッ、という舌打ちが聞こえたかと思うと、目の前から涼の姿は消えていた。
「仲直りしてくる!んじゃ!」
薄暗い景色に涼の姿は小さくなり、霞んで行った。
そして、姿は消え静寂が市民プールへ戻ってくる。
「シノちゃん、帰ろうか」
「誠、お疲れ」
二人は涼の成功を祈り、手を振り解散した。
涼はというと、美和を探して雫が垂れる頭のまま、ずっと駆け回っていた。
そして、遠くに美和の姿を確認したのだが、横断歩道を挟んだ向かいだ。
大きく手を振るが、携帯に夢中の美和は気が付かないよう。
涼も携帯電話を出し、美和に連絡するが出る気配はない。
(近くに、何かないか……)
しかし、歩道橋は何処にも見当たらない。
歩道橋の「ほ」の字もない。
(道路を渡るか!)
スニーカーを履き直し、紐を結び直す。
そして車が途切れた瞬間、飛び出した。
風が体の横を通り過ぎていく。
後少し、向こう側の道が目の前に迫っていた。
歩道へ飛び出そうとした時、涼の姿は消えてしまっていた。
道路には血の後もない。
肉が飛び散った様子もなく、ごく普通の道路だ。
涼のすぐ横を通り過ぎたバイクは、数メートル先で止まり戻ってくる。
「いっ、今………ここに居たよな」
バイクの運転手は近くにいた人に問いかけるが、何も得られない。
「今、ここに、中学生くらいの長身の男の子がいたよな?」
近くにいた人々は、運転手を睨みながら去っていく。
美和はその言葉に反応していた。
(……?)
しかし、実体が無いのであれば確証はできない。
でも、もし追ってきていたのだとすれば……
涼、まさか。
ボスッ、という音がして美和の手からバックが滑り落ちていた。
中のタオルや日焼け止めが転がっていく。
それでも、美和は慌ててその運転手の元へ走った。
既に走り出していたバイクをサンダルの足で追いかけていく。
ワンピースが大きく膨らみ、足に張り付きうまく動かない。
「すみませーん!さっきの話、本当ですかぁ!」
驚いたようにバイクの運転手は振り向き、美和を見る。
口をあんぐり開けている。
バイクは道の端に寄り、そこでエンジンが音を立てて止まった。
「なん、だよ……」
「さっき、道路で中学生くらいの男の子を見たんですよね!?」
「え?何、カレシ?」
ボッ、と顔が火照り美和は必死に体の前で手を振る。
運転手は、「見たよ」と言った。
「その、男の子……は、その後どうなったんですか!?私を追いかけてきていて、道路に飛び出したみたいなんです。私のせいで………」
困惑した表情の運転手は、内容を話してくれた。
その時は、ちょうど仕事帰りの時間帯だった。
いつも通り、夕食を買うためスーパーがあるこの街道を走っていた。
すると、横断歩道を通り過ぎた時、道の右側から中学生くらいの少年が飛び出し、撥ねかけ避けようとすると、少年は幻のように消えたのだ。
「なんで……」
美和の体は地面に崩れ落ちていた。
「なんで、消えたの……」
「よっ、よくわかんねぇけど、死んでないみたいだし俺、帰るな」
運転手は大きく蛇行しつつ、去っていった。
「私が、悪かったからぁ!!」
ジリッ、と爪が煉瓦の様なもので作られた地面を引っ掻く。
地面は雫で変色していた。
その雫は美和の目から溢れていた。
「なんで、なんで……」
美和の丸くなった背中に雫が当たり、ピトピトと音を立て、途端に大雨となってしまった。
「嫌だ………」
なんで、消えちゃうの。
このまま、ずっといないの………?




