81話【お豆腐メンルタ勇者さん】
「なんで、俺がダメでシノはOKなんだよ!」
涼は篠川を睨みつける。篠川は膝に顔を埋めたまま、
「何も言うな……。穴があったら入りたい」
「入りたいのは俺だよ!」
突然態度が変わる涼。
先ほど、プールへ向かったにも関わらず2秒で戻ってきたのだ。
「シノ怪しいから、俺が監視する!」
と、顔面蒼白の涼は篠川を指差す。
引きつった顔のまま指を差し続けた。
「何が怪しいんだよ!」
顔面に血が集まるような感覚に襲われ、頭が重く感じる。
そこへ頭に白と黒のストライプのタオルをかけた誠が参戦。
まだ濡れた髪の毛からしてさっきまで泳いでいたのだろう。
「お前ら何やってるの?なんで、シノ赤くて涼は青いわけ?顔面蒼白だけど、涼大丈夫?」
「嫌われた……。日和ちゃんに完璧に嫌われた」
と、涼は誠に足に縋り付き、日和に視線を移す。
日和は何も言わず、ザクザクとストローをかき氷に突き刺している。
本人は全く気にしていないのか。
「恥ずかしいぃ。なんで、OKするの……」
頭から煙が出そうな篠川に涼は頭突きをして、睨みつける。
その涼から噴き出す黒いオーラに身震いしながら、篠川は立ち上がり誠の背中を押して歩き出す。
涼は誠の足から引き剥がされ、頬を膨らませた後、日和の隣へ腰掛けた。
ドサッという音ともに白いベンチに影ができる。
大きく息を吸い込んだ後、
「ねぇ、日和___ちゃ_____?」
隣には日和の姿はなかった。代わりに水着を着た美和が足を組み、涼を睨んでいる。
「日和?さっき、篠川君達と泳ぎに行ったよ。私はその間の場所取り、さっきまで泳いでたから交代しただけだけど、日和じゃなくてごめんなさいね」
と言ってタオルを顔にかけ、横になってしまった。
運という物は、どうやら涼を見放したようだ。
慌ててプールの方に目をやると……。
楽しそうにはしゃぐ3人が見えた。
「逆ハー……」
バシンッという心地よい程の音がなり、頭に衝撃が走る。
美和が拳を握っている。
「だってそうだろ?事実を言ったまでだよ」
「うるさいって。羨ましいなら、行って来なよ。今、私と二人の時点で周りから見たら十分リア充ですけど」
チッ、と舌打ちをした涼はベンチで頭を掻き、ふわぁと大きく欠伸をして、コクコク、と居眠りを始めた。美和は慌てて左足で涼を抑え、倒れないように支えるが、左足だけでは重い嫉妬の塊を支えきれず、涼の体はこちらへ倒れてきてしまう。
「寝相が悪いんだよっ」
と、叫び涼を押し返す。涼の方は、なんだか蹴られている感を感じていたが、特に気にせず、夢の中で妖精とダンス……厨二病の涼の世界に浸っていた。
「ったく、こいつMかよ……」
心の中で何回舌打ちとツッコミを繰り返しただろう。
心の中は舌打ちのパレードが始まっていた。
ドフッ、と音ともに抵抗に疲れた美和が気を抜いた瞬間、涼が倒れ、体の上で眠られてしまう。
「起きろ!どこで寝てんのよ!さっさと、退きなさいよ!」
腰の上に涼の頭が乗っている。足で蹴りあげようにも、重い体が上に乗られてしまっているため、上がらない。
「ちょっと、さっさと退けって!恥ずかしいから!」
ベンチの前を通る利用者からクスクス、という笑い声が聞こえてくる。美和の顔がカァァァ、と赤くなりその分涼を蹴り上げる力が強くなった。
「退きなさいって!なんでそんな所で寝るのってば!」
髪の毛を引っ張っても起きる気配を見せない。
そんな所で寝ないで!
「ふにゃあ……」
何を話すかと思えば、只の寝言のようだ。
ドスッともう一度蹴り上げるが、効果は全くない。
というより、ほとんど上がっていない。
体を無理やり起こし、涼の頭を引っ張り上げるが力が全く入らない。
頭に腕を撒きつけようとすると、当たってしまうためその方法は無理だし……。
「涼、起きなさいって!」
その時、涼が目を開け顔を起こしていた。
まだ寝ぼけ眼だが……。
「涼、さっさと頭起こして!疲れてるのなら、送って行くから」
美和が髪の毛を引っ張っているのか、皮膚が痛い。
「ふわぁぁ。ほへ?あれ、俺何やってんだ……」
頭は美和の腹部に当たっている。
頭を起こそうにも、少ししか頭が上がらない。
何かに引っかかっている。
美和は起こせ、と叫んでいるが上がらないのだ。
無理に頭をあげると………!?
「ちょっと…………//////////」
美和が顔を抑えて、頭を下げている図が目に入ってくる。
顔が真っ赤だ。何かと思い、見てみると______
顔に何かが覆いかぶさっていた。
頭に血が上り、体が冷たくなる。
全身の血液が頭の方へ集中していた。
「あわっわ!」
「何やってんの!」
美和の拳が顔面に飛んでくる。
「だって、美和が起きろって」
「それとこれとは違う!なんで、こうなった!」
美和は後ろへ飛び退き、岩のように微動だにせずしゃがんでいる。
「そんなつもりじゃ……」
「分ってるヨォ!うぅぅぅ」
涼はただ、美和に頭を下げ続けることしかできなかった。
「本当にごめん!」
美和の短い髪が揺れ、真っ赤な林檎のような顔が覗く。
いつもは見られないレア度MAXの表情だ。
そこへ奴らが到着する。
頭から雫を垂らしながら、こちらへ向かって歩いてきていた。
この状況はヤバイ…。
慌てて美和の頭にタオルをかけ、美和の前に隠すように立つ。
「あっ、あれ?美和は?」
誠が不思議そうに辺りを見渡す。
必死に涼は嘘をつき、
「美和なら先に着替えに行ったよ。風が出てきたから寒いって、入り口の所に居るらしいけどもしかすると、別の場所にいるかも……」
「そっかぁ。んじゃ、俺らは着替えてくる。涼はまだ?」
涼は、「もう少し居る」と適当に答え、皆と別れた。
そして振り返り、美和の元へしゃがみ、近づく。
「美和、ごめんって」
「一生許さない。絶対許さない…」
涼は頭を抱える。どうすれば。
「アイス奢るよ!」「寒いからいい」と、断られ涼のガラスのハートは砕け散り、豆腐メンタルはズタズタになってしまった。風に乗り、ハートの破片が飛んでいく。
「じゃあ、着替えに行こうよ」
「ウザイ」
涼は完敗してしまった。RPGゲームであれば、魔王(美和)にやられて勇者(涼)は現在持ち物や装備を奪われ、コンテイニューだ。




