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80話【カキゴオリチョウダイ】


寮へ着いた頃には8時を過ぎ、外は闇に包まれ、小さく燃える星が目に入ってきた。

星はチカチカ、と点滅を繰り返しこちらへ信号を送っているようだ。

たしか、モールス信号。

次第に信号の数は増えていく。


篠川はカーテンをピシャッと閉め、折りたたみ式のベットへ体を投げ出す。

しかし、その後すぐ起き上がり、制服を脱いでハンガーへかけていく。

皺のついた制服を着たくない為だ。


制服をハンガーに掛けた後、Tシャツを取り出し着替え、カレンダーへ目をやった。

明日から、本来は夏休みである。

しかし残念な事に記事が仕上がっていない生徒は夏休みも登校しないといけないわけだ。


大きく肩を落としながら篠川はノートを取り出した。

表紙には数学と書かれ、その横に「夏休みの宿題」と書かれていた。

机に額をゴツン、とぶつけ大きく溜息をつく。

なぜ、宿題というものをしなければならないのだ。

訳が分からない。


「まぁ、いいか。まだ夏休み、あるし」


その時、携帯電話が震え、画面が白く光る。

机に頭を付けたまま腕を伸ばし、指先をカバーに引っ掛け近くへ寄せてくる。

そして画面を見ると、無料通話アプリのメッセージが届いたという表示だった。

そのままの体勢でメッセージを開き、目を動かし読んでいく。

送り主は、「美和」になっていた。


{篠川君、もし良かったら明日みんなでプールに行かない?誠君とか涼君も来るらしいよ}


プール、かぁ。何年ぶりだろう、10年以上は行ってないよなぁ。

んー、と唸りつつ、重大な事を忘れていた。

水着を持っていないという事。

まぁ、元から泳ぐ気は無いしベンチに座って眺めてても良いんだけど。


{多分、ベンチで寝てると思うけれど行く}


と、返事をして1階へ夕食を食べに向かった。



翌日、朝の6時に起床してメッセンジャーバックに携帯電話と濡らされた時用のタオルや着替えを詰め込んで、市民プールへ向かった。


アスファルトの地面はジリジリ、と熱く、元気な蝉の声がしてくる。

ふわぁ、と欠伸をしてスニーカーの足を地面に叩きつけるように歩いて行った。

途中で暑さに敗北して、アイスを食べ復活した後また歩く。


20分程で市民プールに着き、日陰の場所の壁にもたれていると、涼や誠も次々と到着してくる。そして、俺が泳がないと分かるとダダをこねる子供のように、


「およごぉよ。勿体無いよ」


と話し始めた。心の中で2人に舌打ちを返しながら、口を開き返事をする。


「いやぁ、見てるだけで良いから……」


と返し、残りのメンバーの到着を待つ。その間にも気温は上がっていき、額から汗が流れ頬まで伝ってきた。タオルで汗を拭きながら日陰に入る。その間に涼が、


「よしっ!誰の水着が一番か決めっ………」


目を輝かして、拳を握っていた涼は視界から消え、代わりに日和が立っていた。


「遅くなってすみません」


と、拳を握り隣では、涼がうずくまっていた。誠はそれを見て笑い、俺も笑う。

チッ、と涼は舌打ちをして立ち上がった。その後、美和も到着する。

これでメンバーは揃った、はず。



________


青い空に白い水飛沫が飛ぶ。空に高くビーチボールが上がった。


「美和、スパイク決めろ!」


涼の叫びとともに美和がボールに手を押し当て、スパイクが決まる……しかし、そこを誠に拾われボールは返ってくる。

その様子をベンチで大きく欠伸をしつつ篠川は眺めていた。隣では日和がカキ氷を頬張っていた。


「日和は入らないの?」


と、篠川は楽しそうに遊ぶ4人を見ながら問う。


「はい。日焼けします」


と言って水色のパーカーをフードまでかぶる。そして体育座りをしてプールの方を眺めた。体育座りをすると、パーカーの裾が上がり、黄色い水着がチラチラと見える。


「じゃあ、ずっとこのパラソルの下に居るつもり?」


篠川が問うと、カキ氷の入ったカップを目の前に差し出し、中のピンク色の小さな氷の粒を見せつける。そして、ニコッと笑い、


「いえ、この後カキ氷のイチゴシロップ味も試しに行くのでずっとではないです」


そう言って日和はカキ氷のカップを口に押し当て、最後の溶けた氷まで飲み干し、ビシッと立ち上がった。ビーチサンダルの足でプールサイドを歩き、カキ氷の屋台へ歩く。

篠川はほぼ、監視役である。

その時、涼がプールから上がり、さっきまで日和が座っていたベンチに腰掛けた。

髪の毛から雫が垂れ、全身ずぶ濡れである。当たり前だが……。

俺から水色のタオルを受け取ると、頭に乗せ日和のベンチに横になった。


「そこ、日和の場所」


と、呟くと涼はタオルで頭を拭き、


「帰ってきたら、俺が寄ればいいだけ。明日夏も入りなよ」

そう言って横になった。


「その名前で呼ぶな」


と、イラつきながら答え青空を眺める。その時、日和が帰ってきて先ほどまで居た自分の席が取られたことに気がつき、涼を横から蹴りベンチから落とし、自分が腰掛けた。「ふげっ!」と叫びながら涼はベンチから落下して、アスファルトの上に倒れる。


「日和、あぶねぇだろ!」

「うるっさい。人の場所」


そう言って、ザクザクとカキ氷のカップにストローを突き刺した。涼は溜息を吐き、日和の横にしゃがみカキ氷を見つめる。しかし、グイッと体の向きを変えられ、


「カキ氷はあげません」


と言われ、ブゥっと涼は頬を膨らませた。リスの様な涼を笑いながら、篠川も日和に、


「カキ氷、頂戴」


と言ってみる。すると、日和はカップを差し出していた。途端に耳まで熱くなり、涼へ救いの視線を送る。涼はギャハハハ、と転げながら笑い「じゃねー」とプールの方へ歩いて行った。


「あっ、別にダイジョーブ」


と返し、篠川は膝に顔を埋め恥ずかしさに耐える。恥ずかしさの悪魔は、まだ篠川の背中に乗ってギャハハハ、と笑っていた。その悪魔が次第に涼なのではないかと感じつつ膝に額を付けた。


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