76話【雪・凛編終】
寮へ駆け込み、華山を呼んだ。
息を切らしながら、膝に手を乗せて肩を揺らす。
けれども、そこに華山の姿があるわけがない。
雪のいる世界では華山は寮暮らしではない。
「華山、凛いますか!?」
そう叫ぶが、皆首を振る。
冷たい視線が雪に刺さってきた。
変な人、と思われているのだろう。
まぁ、無理も無いか。
寮に入ってい無い知らない生徒の名前を聞かれるんだから。
どうしてだよ……。
なんで華山の存在がないんだ。
なんで『アレ』だけしか残していかないんだ。
雪は肩を落とし、寮の階段を駆け下り、頭を掻いた。
髪の毛を揺らしながら雪は頭をひねる。
なんで、なんで、なんで……。
自転車にまたがり、頭を下げハンドルに額をぶつけた。
額にハンドルが当たり、ゴンッと音がなる。
ベルに指が当たり、風鈴のような音がなった。
華山の昔の住所ってなんだ?
そんなの知るわけ無い。
頭に浮かんだ疑問を打ち消していく。
雪は大きく溜息をつき、自分の黒い自転車に跨る。
そして灰色のペダルに白いスニーカーの足を乗せ、自転車を漕ぎだした。
ユックリ、ユックリ、漕いで行く。
もう、会えないのか____
《短い夢》か。
そう思い、帰ろうとしたとき、
「おい、お前らぁ!さっさと写真とれヤァ!時間がねぇんだよ!」
その悍ましいほどの叫び声になぜか雪は反応してしまっていた。
耳に残るあの声……。
話し方は全く違うけれど、絶対にそうだ。
そこにはカメラ片手に新聞部の部員達に怒鳴り散らす、長い髪の美少女がいた。
制服を着ており、灰色のスカートからは白い細い足が伸びている。
スタイル抜群の少女は目を吊り上げ、デジタルカメラのシャッターを切った。
彼女たちが写真に収めているのは、校門の横に植えられた紫陽花だ。
綺麗に咲き誇っていた。
蒼紫色の花は風が吹くと揺れ、甘い香りを漂わす。
「凛……。華山、凛」
雪の顔に笑顔が浮かんでいた。
頬に赤みが差し、口元が緩む。
そして凛がゆっくりと顔を上げ、此方をジッと見た。
真っ黒で吸い込まれるような瞳が、雪を見つめた。
キラキラと輝く瞳に雪は、ただボォーっと突っ立ってうごけなくなってしまった。
そして凛は雪に向かって夏の向日葵のような笑顔を見せた。
桜色の唇が動き、何かを話したようだが聞こえなかった。
一体、何て言ったのだろう。
雪は大きく口を開き、
「凛、大好き」
と言ってニカッ、と笑顔を見せた。
燦々と輝く太陽の光に雪の笑顔は照らされ、その場にいる雪だけがキラキラと光り輝いていた。




