6話【涙と、弁当と、卵焼き】
何が何だか……。今までの、生活では味わえない体験をしているからまだ、体が馴染めていないにしても、こんな体験は久しぶりだった。
みんな、笑っている。俺の元いた会社なんか、冷え切っていたのに。このクラスは、温かい。みんな、優しい。人を踏み台にして登りつめようなんていう人間はいなかった。自然に、涙が頬を伝って落ちていく。
『ちょっ!篠川くん!?大丈夫?』
美和は、泣いている俺に驚いていた。俺は、制服の袖で涙を拭き、笑顔を美和に向けた。
「大丈夫だよ!」
その笑顔にホッとした美和は、また前へ向き直った。もう、俺は一人じゃ無い。いつも、仲間がいる。このまま、このクラスにいることが出来れば……
4時間目の授業が終わると、弁当だ。俺は、ハッと思い出す。弁当、あるかな……。
正鞄を開け、中を確認する。すると、なんと紺色の布に包まれた箱が入っていた。誰が、入れたんだろう?鞄の中に手を入れ、引っ張り出し、布を取るとそれは、弁当箱だった。
あの、占い師の奴が入れたのだろうか。そうなると、中身が心配になってくる。ロクな物が入っていなかったりして。
誰にも、見られないように蓋を少し開け、中を覗くと案外普通の弁当だった。白い白米の上には、卵のフリカケがかけられその横には、卵焼きが。卵焼きの近くには、肉じゃがまでもが入っている。蓋を取り、風呂敷の上に置くと、近くの生徒が覗きにやってきた。
「篠川君のお弁当、美味しそう」
みんな、覗いてくる。しかし、問題は味だ。味で、全てが決まる。恐る恐る、箸で卵焼きを掴み口に運ぶ。!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
体の中を、衝撃が走っていった。すぐに、ポケットからティッシュを取り出し吐き出す。(アイツ、砂糖を何杯入れたんだよ!甘すぎだろ‼︎糖尿病にさせる気か!?)
数時間前、占い師は『あの男』の弁当を作っていた。
『えっと、砂糖は………大さじ1杯』
問題の、砂糖ゾーンにさしかかっていた。男は、砂糖の瓶をとり中にアレを突っ込んだ。
『面倒くさいから、おたまで入れた方が早い!』
とんでもない事をしていた。あの、大きなオタマで砂糖を入れたのだ。しかも、アイツは味覚障害も持ち合わせており、最悪が重なった卵焼きとなった。
俺は、弁当の蓋を取り食事を中断した。これ以上、食べてしまえば糖尿病を通り越し死へと行ってしまいそうだからだ。後で、あの男に文句を言わなければ……