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68話【赤面おんぶ】


「え……」

凛は消えた筈だ。なのに、今目の前にいる。あの時より、すこし大きくなったように感じられる。雪もまた、目を覚ませば少し体が大きくなった様に感じた。どうしてだろう。

「っ………雪くん。あぅ…雪くん。私……」

雪は咄嗟に凛の体を支えた。危うく、転倒するところだ。雪は凛を支えたまま立ち上がり、歩き出した。ゆっくり、ゆっくり。凛のふらつく足の歩幅に合わせて歩いていく。


「保健室、行こう」

雪は階段をなるべく避けるルートを選びながら、1階の保健室へ向かう。パタ、パタ、パタン。二人の足音がリズムの様に聞こえてくる。保健室へ最短で向かうならば______


頭の中で校舎の地図を浮かべ、歩いていく。

「ゅあぁつ!」

雪は突然、凛を支えたまま叫び、顔を赤くした。そして俯き、廊下の右側を向いて凛には頭の後ろの方を見せながら歩いていく。顔が火照って熱い。カァッ、と顔が赤くなり目に涙がたまってくる。

「雪、くん?」

(凛に不審がられている!困ったなぁ。このままじゃ……)このままだと、体が当たっちゃうよぉー。それは避けたいけど、背負ったらもっと駄目だし、もっと当たるし、他に方法はないんだよなぁ。


目に涙を溜めながら、階段を降りていく。ゆっくり、慎重に。掃除の後のため、濡れているから滑りやすいのだ。ましてや、重心が変な方へ行っている俺だと凛を巻き込んで滑る可能性がある。

「ゆっ、きくん。ごめんね…」

「え?あ……大丈夫だよ。心配しなくていいから」

天に助けを求めるが、救世主は現れない。どこからもやって来ない。


階段を降りれば、保健室は直ぐそこだ。しかし、雪の体力はもうほとんど残っていなかった。雪ごと倒れてしまいそうな状態だ。

「っ〜」

顔を林檎のように真っ赤に染めて、凛に問いかける。一旦足を止め、凛の方へ顔を向けた。運がいいのか、電気が付いていない廊下は薄暗く赤い顔を見られずに済んだ。

「せゅ、剃って、背負ってこのままどっ……このままだとさ、俺ごとっ……倒れそうだし」

凛には雪の言葉が理解できなかった。全くもって意味が頭に入ってこない。訳も分からず適当に頷くと、雪はシャッ、としゃがみ腕を後ろにして、

「どっ、どうぞ」

と呟いた。しかし、薄暗くて良く見えない。雪がしゃがんでいるのはわかる。ふらつく足で雪の近くまで行くと、雪は、

「背負うにょで、どうぞ乗ってくにゃはい」

呂律が回らなくなってるよ、雪くん。凛はそっと近づき、雪の背中に体を乗せた。


すると、雪は勢い良く立ち上がりタタタ、と走り始めた。雪の頭が近くにある。また、顔が赤くなり頭から煙が噴き出すような勢いだ。

「おっもくない?」

雪は「全然」と答え、走り続けた。周りの景色はほんの数秒で後ろへ流れていく。ビュンビュンと風を切る音が耳元で聞こえてきた。


数分後、保健室の前に2人は到着した。廊下に雪は倒れ込み、凛は口から魂が抜けたのか放心状態でその場にうずくまっていた。ハァハァ、という荒い呼吸が薄暗い廊下に響いていく。

「雪くん、ありがとう」

雪は「うん」と頷くだけで、ハァハァという呼吸に戻っていった。凛は壁を使い立ち上がり、

「ジュースでも買ってくるよ」

とだけ伝え、歩き出した。本当は凛も歩ける状態ではなかった。身体中が痛み、足取りもおぼつかない。それでも、雪くんの為ならばと数メートル程離れた自動販売機に向かった。自動販売機に着いたのは、約5分後。普通の人間であれば、1分もかからずに着ける場所である。そこで小銭を入れて、自分の分をまず買い_______


「雪くん、ナニが飲みたいんだろう」

聞いてくるのを忘れてしまった。雪くんのイメージでは、牛乳って感じだけど、案外フルーツミックスジュースを飲んでいるかもしれない。

仕方なく、自分の分の水を買ってもう一度雪の元まで歩き出した。また、5分。歩き出した。そして、保健室前に着くと、雪に問う。

「なっ……何が飲みたい?」

雪は下向けていた顔を上げ、

「わざわざ、聞きに来てくれたの?ありがとう。そうだな……なんでも良いけど。強いて言うなら、オレンジジュースかな」

と、茶色い髪の毛をワシャワシャ、と動かしながら照れ臭そうに笑った。その笑顔見れれば、速攻で買ってきます!


凛は慌てて身を翻し、自動販売機まで駆けて行った。

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