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64話【雪くん】

華山は、化学の授業中だった。四角い木の椅子に腰掛け、ノートを書いている。

カリカリ、という音が教室に響く。

「何が……起きてるんだ」

授業は一度習っているものだった為、聞かなくても大体分かった。


私は、本当に「リセット」したのかしら。

(これって、生きてきた今までの時間を戻したって事だっけ?)

時計を見れば、15時15分。6時間目が、終わった。チャイムと同時に華山は立ち上がり、ノートを片付け教科書に挟み筆箱を抱え、椅子を戻して歩き出した。

途中で誰かに呼ばれたような気がしたが……。

扉を開け、廊下に足を踏み出す。


パタパタと廊下を歩き、頭を抱える。(何が起きてるの…)

「私は、リセットをしてこの世界に戻ってきてしまって……」

訳が分からない。頭の中がおかしくなっている。

私は、この世界の人間じゃない。


どういう事。

私はこの世界に居ていいの?華山は髪を耳にかけ、俯いた。

「前の世界に居て、楽しいって思えなかった。けれども、本当の世界じゃないこの世界は楽しいの?」




華山はベンチに座っていた。

「戻る日は、いつか来る……。この砂時計が落ち切った時」

ポケットから砂時計を取り出し、手を開く。小さな砂時計が手の中に転がっている。

空を見上げ、雲を見つめた。ゆっくり、空を流れていく。

「この世界で、精一杯生きたいのに」

精一杯、生きていきたいのに。なのに、砂時計に人生を操られてるみたいじゃん。


私の人生は、私の人生なのに。

砂時計を確認すると、残りは半分。一個しかないから、もう帰らないといけないのよね。ふぅ、とため息をついていると、いつの間にか目の前に誰かが立っていた。

同じクラスの「檜垣雪」という男子生徒だった。茶髪の不良の生徒だ。評判も悪く荒れている。木の陰になって顔がよく見えないが、緊張しているように思える。


「何?なんか用?」

目線を上に上げ、雪を睨んだ。

「凛、っ……」

華山は唾を飲み、睨み続ける。何か話してくれないと、この空気嫌なのに。華山の額に汗が滲んでくる。ベンチから立ち上がり、スカートのプリーツを直し睨み続ける。変な話だったら、回し蹴りしてやる。とそんな事を考えながら。

「凛さ、すっ……」

「何?サッサとしてくれないと休み時間終わるんですけど」

腰に手を当て、大きくワザと溜息をつく。

「ずっと好きだったんだけど。さ、華山は_____」

華山の頭の中は真っ白になっていた。「好きだった」?意味が分からない。なんでですか?私の何処が良い?こんな女っぽくないし、どちらかといえば男だよ?


「私は別になんとも思ってなかったし。話した事もないでしょ?」

「ないけどさ、ずっと良いなぁって」

何この急展開。頭大丈夫かしら。付き合っても良いけど、私帰らないといけないし。もし、帰る時がきた時に彼はどうするだろう。悲しんでくれるだろうか。それとも、馬鹿にするだろうか。どちらにしよ、短い期間しか付き合う事はできない。

「短い期間しか付き合えないよ?」

「なっ……なんで?」

華山は唇の前に人差し指を出し、「ヒ・ミ・ツ」と言って笑った。途端に雪の顔が赤くなる。林檎のようだ。可愛いんだけどね。


「教えて。教えてくれたら、なんでもする」

「教えたら、私今、消滅しちゃう」

「消滅?」

雪は顔を顰め、笑う。「凛も冗談言うんだ」と。

側から見れば、冗談に見えるだろうね。

華山は両腕を後ろに回し、溜息をついた。

「とにかく、短い期間しか付き合えない。

いい?それでも良いなら、付き合ってあげる」

華山は雪を見つめた。これで、「無理」と答えればそこで終わり。

「良いよ!凛、付き合って下さい」

凛の表情は変わっていた。(コイツ……)

その時、背後から声が聞こえていた。

2人は振り向き、声の正体を見た。

「うぅぅあぅあぁ……。私の、私の雪くんが……」

「誰?」

ショートカットの少女だ。

体を震わし、目に涙を溜めている。

雪はピクピク、と頬を動かし少女を睨んだ。



「愛羅、良い加減にしろ!2年前に別れただろ!」

2年前って、オイ。この少女、大丈夫だろうか。

なぜ、別れても雪に執着するんだ。

気持ち悪い。

「凛、あんな奴ほっといてくれ」

「私は…………!」

答えようとした時、凛の体は地面に倒され、頭を強打してしまった。

見上げれば、愛羅という少女が髪を掴んでいた。

鷹のように鋭い視線を華山に向けてくる。

「私の雪は渡さない」

「っ………」

気持ち悪い。ストーカーかよ。

華山は起き上がり、愛羅の手首を掴み捻り、抑える。

「変な事しないで。私の人生の邪魔をしないで」


「それは、私のセリフ。お前みたいな奴に雪くんは渡さない」

凛は奥歯をギリッギリ、と鳴らす。私には時間がない。こんな時間も無駄だ。

砂時計は『止まらない』

「愛羅、諦めて。お願い」

その時、凛の腕は誰かに掴まれていた。黒く焼けた大きな手に。茶髪の生徒に。

「雪、くん__」

愛羅は目を輝かせ、雪に飛びついていった。

しかし、雪に引き剥がされる。

「ウザい」

その一言は、愛羅の心を砕いていた。

ボロボロに砕けパラパラ、と散っていく。

「雪、くん。嘘でしょ?嘘でしょ?愛羅の事、好きでしょ?ずっと好きって言ってくれた。私の事、大好きって……」

「過ぎた話だろ」

愛羅は固まり、目を見開き拳を握り足を震わせ目から涙を流し、口をあんぐり開けて雪に訴え続けた。しかし雪は愛羅を無視して凛の元へ走り、手を引いて走り続けた。雪の大きな背中が揺れている。息を切らしながら雪は走り続けた。


校庭から校舎の中へ入り、廊下を駆ける。階段を駆け上がり屋上まで走る。

足が痛かったが、走り続けた。遠くから愛羅の声が聞こえる。が、雪は無視して走り続けた。手首を掴んだ雪の手に力が入っていくのを感じた。

「なんで……私を」

雪は華山の言葉を無視して階段を駆け上がった。


そして屋上の扉を開け、外に出る。その瞬間、風が2人を包み込んだ。愛羅がついてくる様子は無かった。見失ったのだろう。

「なんで私を、選んだの」「気になったから」「ハァ、ハァ。なんで……」

「お前が一番目立ってた」

「目立つ?」

「一番、光ってた」

光る?私が、光る?そんな事、あり得ないよ。私は光る人間じゃない。どちらかと言えば、黒く濁っている。良い子でもない。気がつけば、体が締め付けられていた。肩に雪の頭が乗っている。引き剥がしたい、でも出来ない。

「雪……」

放心状態の凛は何も出来なかった。なんでこんな事するの?見せつけるため?


その時、屋上の扉が開け放たれていた。愛羅が追いついたのだ。

「雪!愛羅が来たっ。ダメだって____」

俯いた愛羅はまだ、顔を上げない。顔を上げる前に離してほしい。

「いいって」

雪は愛羅を睨んだ。まだ、しんどいのか顔を上げない。肩で息をしている。しかし、愛羅は額から汗を流しながら顔を上げた。目に飛び込んできた光景に目を見開く。

目の前であの2人が。何してるの?なんで、なんで、雪くん。あの(オンナ)を抱締めてるの。

「雪くん、何してるの?」

雪は凛から離れ、溜息をついた。

「分かるだろ?諦めろ」





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