53話【記事をとてつもない方法でばら撒くそうです】
コピーが終了すると華山は、紙束をかかえて歩き出す。篠川は慌てて後を追った。
「華山!待てって!そこまで、なんでその記事に執着するんだよ!」
「っ………売れるからに決まってるでしょ!?」
華山は冷静さを失っていた。新聞の束をかかえて走り出す。いつもの華山は居なかった______
「華山、追い詰めたからな」
風が二人の間を通り過ぎていく。屋上にて、決戦が行われる。
「嫌だ。絶対に、記事は渡さない。この記事を、この屋上から投げ捨ててやるっ」
それはマズイ。今、放課後の中庭には授業を終えた生徒たちが群れている。そんな所に投げ込まれて仕舞えばぁぁぁぁぁ………
華山はフェンスを登り始めていた。カシャン、カシャン、と1段ずつ上へ。
「危ないっ!」
華山の上半身はいつのまにか外へ出ていた。垂れ下がった髪が風に揺れる。
「_____話して、足を。この記事と一緒に飛び降りれば、記事も注目………」
「何言ってんだよ。死にたいのかよ」
今更だが、篠川はなぜこんな事になったのか訳が分からなくなっている。それでも、華山を止めていた。華山の足を掴んで、行かせないように。逝かせないように。
「いいんだよ、私は。新聞部が大好きだから!」
この新聞部バカを止められる奴は、他にいねぇのか。
「意味がわからないんだが」
「私はね、この記事をばら撒きたいの」
「もっと、安全な方法があるだろう?」
「ないわよ」
華山は、もう一段、フェンスを上がり頂上に達していた。
「降りてこい。大騒ぎになる」
「それをきっかけに、新聞部に入部者が………」
篠川は華山の足を掴む手に力を込めた。
「離してくれないと、道連れにするけど」
「連れてけよ。連れて行けるもんなら」
華山は手に力を入れ、フェンスの上に上半身を乗せた。
そして華山は振り返り、
「篠川君は、この世界の住人じゃないんだよね?ならさ、元いた世界で誰かが待っててくれてるよ。だから、道連れには出来ない」
「お前を、待ってる人もいる」
華山は、篠川を笑った。新聞をかかえて。
「ほんっと、あんたは面白いよ。私を待ってる!?あり得ないよ」
「世界のどこかで、お前を必要としてる人間はいる」
「篠川、あんた厨二病すぎ。病んでるよ、本当………」
華山は体を前に倒す。
「待てよ」
「嫌だね。連れて行く訳ないじゃん、《私の世界》に」
長い髪が風に揺れる。華山は目を瞑り、新聞を抱きしめる。
「ただ、新聞部のために飛び降りる訳じゃない」
「この醜い世界から、抜け出したいだけ」
「醜い世界?」
篠川は顔を歪ませる。華山は篠川が幸せ生きている人間だと、その時感じた。
「私は、虐められています。今、話します。友達は、本当の友達は居ません。この性格が災いしました。欲しかったです、友達が。けれども避けられて……」
「なら、俺が友達になればいいわけ?」
「馬鹿にしないでください」と、華山は笑う。髪を耳にかけながら。
「同情ですか?」
「半分、そうかもな」
面白い人です、と華山は笑いフェンスからゆっくり身を降ろし始めた。
「俺で目の前で、飛び降りるつもり?」
「出ていってくれれば、嬉しいのですが、そうはしないでしょう?」
新聞を華山は一枚、取り出し篠川にフェンス越しに渡す。
「記念に、一枚。タダであげます」
「そりゃ、どうも。んじゃ、{これ貰ってやる}から降りてこい」
「交換、条件ですか。考えたね、でもヤダ。今諦めたら、自分に嘘つくみたい」
「つけば?」(やべ、綺麗事ばっかり並べてる……)
華山は向こう側に着地して振り返った。
「ありがとう。最期に話してくれて」
「最期にさせねぇからな」
俺も、フェンスを登り向こう側に降りる。「危ないよ」と華山は笑った。
「死ぬなって」
「私のストーリーは、エンディングを篠川が作ってくれるんだ」
「まだ、第1章のエンディングですが?」
華山はまた、笑顔を見せた。
「死ぬ前の人間が笑うかよ」
「私は、笑いますよ。楽しく死ねますから」




