43話【美和の過去ー前編ー】
43話【美和の過去】
ビクンッと、俺の体が跳ね上がる。耳元で悪魔が俺を睨みつける。
「はいっ!無事ですっ」
声が裏返りながら、俺は敬礼をしながら叫ぶ。疑心暗鬼な美和は俺を睨みつけながら、溜息をついた。
「その様子なら、大丈夫そうね。でもね、もし喋ったら______」
美和は俺の肩を掴み、白い印刷室の壁に押し付けていた。逃げられないようにして。そして、制服の内ポケットから工作用のカッターを取り出し俺の頬に当てる。そこから刃を滑らせ唇に当てる。
「喋ったら、この口を切り刻んで3回の窓から突き落とすことも可能だから」
いつもの美和では、なかった。
「いっ、いえぇ……喋りまへんよ」
自らの死体を想像しながら声を出す。俺の肩を掴む手の力が強くなる。俯いた美和はカッターをしまい足を戻した。声は出なかったが、美和の目からは涙が溢れている。
「喋られて、バレたら____転校になっちゃう!もう、それは嫌なの」
目に涙を溜めて話し続ける。
「私は_____」
---美和の小学生の頃の話。
美和は、“なんでも出来る子"として生活していた。
スポーツも、勉強も出来て友達も多かった。
けれども、病気ガチでよく休んでいた。
そのせいで、受けたかったT中学は受けることができず。
2次受験でS学校に、行く事になった。
が、2度目も高熱を出し試験を受ける事が出来なかった。
美和は神を恨んだ。自分よりも出来ない子が受かっているのに。
悔しくて……。
他に行く学校が無くなってしまった美和は、ある日親に呼び出される。
「美和……もう、ウンザリだわ。どの学校も行けないなんて。情けない」
母親は、美和に「最後の手段よ……」と一つの書類を取り出した。
その書類は、裏口入学の手続きの書類だった。T中学への、手続き書。
「お母さん!嫌だ、裏口なんて……」
美和は叫び、母親の服の裾を掴んだ。が、
「あんたが、悪いのよ」
そう言い母親はリビングから出て行った。美和の前には、裏口に中学の書類。
母親に嫌われて、捨てられるのが怖くて書いた。
ペンを走らせた。
私が書き終えると、母親はその書類を持って出かけて行った。
美和は、無事T中学へ入学した。
が、その生活は数日で幕を下ろした。
バレたのだ。裏口入学が。
入試の振り返り、という授業があり美和は焦っていた。
入試を受けなかった者にとって、大変な事。
そして、
「次は、秋田美和。問10の答えは?」
聞かれても、答えられなかった。意味のわからない計算式が目の前で渦を巻いている。その間に、ヒソヒソという声が聞こえ始めた。
『あの問題、Lv.1の簡単な問題よ?』
『本当だー!式見ただけで、答えわかるよね』
『あの問題さ、俺問20解きながらでも考えれたぞ』
『それな!俺も、問19解きながらでも出来た!』
受験をしなかった人間にとって、その囁きは恐怖でしかなかった。
ガタガタ、と足の震えが止まらずスカートをギュッとにぎる。
(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い)
周りの生徒が皆、怖かった。
その時、隣の席の眼鏡の賢そうな少女が立ち上がる。ネームプレートには、「伊馬澤」と書かれている。
「答えは、59.289です」
そう言うと、席についた。美和が少女に礼を言おうとしたが、
「ありが_______」
美和の声を遮り、少女は唇の端を吊り上げクスクスと笑った。
「馬鹿なのね、あんな簡単な問題も解けないなんて」
照れながら、美和は頷く。
「後、助けたつもりはないわ。ただ単に、隣の席でウジウジされているのが目障りだったから、さっさと座って貰いたかっただけ」
一瞬にして美和の彼女への尊敬の壁は崩れ落ちてしまった。それも、簡単に。濃い紫に近い髪を揺らしながら少女は馬鹿にしたように笑った。
それにつられて、周りの生徒も笑い始める。
「馬鹿じゃないの?」
伊馬澤は椅子から転げ落ちそうになる高笑いをし、美和に喋りかけた。
「どうせ、馬鹿は勉強しても無駄なのよ。ストレスが溜まって、逆に馬鹿になる」
美和は立ち上がり、少女に叫ぶ。
「馬鹿馬鹿、うるさいっ!信頼の壁なんか、もう崩れたよ!」
「あなたに、信頼なんかされたくない。どうせ、下等種族の信頼なんて依存と同じ」
アハハハ、と伊馬澤は笑い笑い、笑い、笑った。
辛かった。
その時、
「この程度の勉強ができない人間は、どうせ裏口入学ね」
伊馬澤は美和の椅子を蹴り転倒させる。
伊馬澤は、なんて頭の切れる少女だろう。
なぜ、裏口入学を知っていたのだろう。
その後、美和の裏口入学の話は学校中に広まっていった。
______「もう、この学校には居られない」______




