238話【出発】
「山の上……あの、幽霊屋敷の事か?」
どうやら一般市民は、あの屋敷の事を幽霊屋敷、と呼んでいるらしい。
まぁ、似たようなものだろう。
外観は古い洋館でほとんど、紬もいない為日中は真っ暗。
幽霊噂が立てられても仕方ないような立地だ。
「そこに、檜垣さんはいる………いえ、可能性の話です」
パソコンの電源を落とし、ハーちゃんは立ち上がるとベックシュッ、とくしゃみをして部屋の端に置いてある埃かぶった赤いソファーに横になり、黙ってしまった。
このまま、ここで帰ってくるのを待つのももアレだ、行って見たほうがいいだろう。
ガチャリ、と扉を開けて外に出ると薄暗い部屋の中とは違い、月明かりで明るかった。
「ぇ、ちょっと待って下さいよ。篠川サァーン。
まさか、今からお2人で向かわれるわけではないでしょうね?
そんなの許しませんよ?」
半開きのドアの隙間から顔を出し、じゃあ、来るの?と問うと勿論です!っと叫んでソファーから飛び降りて駆けてくる。
あんまりにも、急ぎすぎた為ドア付近でローブを引っ掛けてしまい、ビリッという心地よい音が耳に入る。
それでも、気付いているのかは分からないがドアの鍵をかけて、大きく深呼吸をした。
「いいですか!?もぉ、本当に何があるのか分からないんですからね!
もしかすると、リセ警…いやいや、怪物、占い師狩りだっているかも知れません!」
「占い師狩り?」
「占い師を狩る、殺す事を目的としあらゆる手段を使って近寄ってきます。
ハァハァ……紬の家にも、その反応がありました。
紬がいる様子はない為、詳しく調べた所雪と、占い師狩りがいるとわかりました。
そこに、雪が、います……」
華山はビクリ、としてハーちゃんを見る。
ベージュのセーターを強く握り締め、真剣な表情だ。
非日常なのに、なんで、こう、慣れている感じがするのだろう。
雪で、慣れてしまったのだろうか。
ジリリリリ、と虫が鳴き茂みが揺れる。
3人が乗った自転車が、山を探して亀のスピードで進んでいく。
ギコギコ、とできるだけ人通りが少なく、尚且つ近道を探す。
3人乗りが見つかれば、雪の元へ行けなくなってしまう。
「山なんてねぇじゃねぇか」
「山ってさぁ……大分、西の方行かないといけないんじゃないっけ。
山のある方から来てる子、電車乗ってたと思うけれど」
携帯電話を取り出し、ホーム画面に表示された時間を見ると10時になろうとしている。
終電も8時に終わってしまったはずだ。
電車がダメならば、タクシー……無理だ。時間がかかりすぎる。
となると、やっぱり占い師の力が必要になってくる。
自転車は再び、あの道を逆走していった。
*
「んで!l頼むから、山へ飛ばしてくれ」
「どうせ、そういう事だろうと思いましたよ。
占い師でしたら、空を飛ぶ、空間移動で30分程で行けますよ?
ですが、あなたはどうです。あーあー。
脳内縄文時代になってませんか?」
バリバリ、とポテトチップスを喰い散らかし、炭酸飲料で流し込んでいく。
健康にいかにも悪い暮らしをしている。
「わぁったって!だから、紬の家に飛ばしてくれよ」
「嫌ですね。無駄に魔術を消費できないので!命かけてまで、他人を守る意味が有りませんし」
ローブの下の手首を握り締め、口をへの字に曲げる。
仕方ないじゃないですか、もう、寿命が来ちゃうんですから。
もう、一回分の魔術しか使えない。
それを、今使って終えば篠川さん、帰れなくなるかも知れない。
そんな事したら、もう、どう謝れば…………。
「酷いじゃないか。ハーちゃん♪被験者の願いだ、聴いてやれよ」
アハハ、と甲高い笑い声が聞こえたかと思うと、いつの間にか黒いローブを着た占い師が冷蔵庫を開けて笑っていた。
冷蔵庫の中から、ビールの缶を取り出してプシュッ、と開けるとまた、甲高い声で笑い始める。
泡がブクブク、と膨れ上がり指で掬い上げるとペロリ、と舐めてにまぁ、と笑う。
「アハハハハハハハ。なんだ、聴いてやらないのか?それでも、占い師なのか?
ま、私はその職を捨てて遊んでいるがな〜。アハハハハハハハ。
魔術が使えなくなって、死ぬのが怖いか?何てったって、仲間がいないもんなー!
分け合える、そんな仲間がいないもんなー!」
華山は呆気に取られた様子でペタリ、と床に座り込んでしまっていた。
篠川も靴箱に寄り掛かって、口を開けて目を泳がしている。
「アハハハハハハハハハハ。久しぶりだよなぁ、ほんと!
何年ぶりかなぁ??住んでいる次元が違うと考え方も違うようだな。
被験者に忠実に、っていう世界はどうやら、まだ先のようだ。
今の世界は【やりたい放題】ってわけか」
甲高い笑い声は響き渡り、黒いローブの占い師の後ろにはカゲが蠢いていた。
黒いカゲはユラユラ揺れて、占い師を覆っているように見える。
「ろくに助けもせず、死んだら悔しがる、そんな世界なんだな!ここは。
被験者が可哀想だねぇ。アハハハハハハハ。
飛ばして欲しいのは、そこの2人かな??」
黒いローブの占い師は異常な速さで話し続け、缶ビールを投げ捨てるとアハハハハハハハ、とまた笑い2人に歩み寄ってくる。
そして、黙り込み白いチョークで魔法陣を描くといってらぁ、と手を振って黒い霧となり、消えてしまった。




