すれ違い
「おはようございます!」
いったとおり、お前は元気に出勤してきた。まだ、うっすらと暗い顔を隠してるのは見えるが、ましにはなった。よかった。
「おはよう!」
あああ。どうすっかなー。俺この気持ちと向き合わなくちゃいけねーかな。
日に日に増していく光への罪悪感と、大事にして話したくない思いで魂がまるで二つあるようだ。仕事には身が入らないし、本当に情けない。くっそイラつく。自分の手を持ってる包丁で刺してやりたくなる。まあそんなことする勇気もねーけどな。ただ…自分がたまらなく許せなくなる。それさえもただのきっと偽善なんだろうけど。なー、おまえはこの俺の気持ちにはみじんも気がついてねーのだろうな。まあ、気づいてくれなくていい。こんなに素直なやつを困らせたくはねーからな。本当にいうこと聞けねーし、ガサツなんだけど、良い子なんだ。それだけは言える。だから、彼氏が離したくないんだろうな。なー?能天気な笑顔のお前。はは。なんだろうな。俺には初めての気持ちすぎて追いつけねーわ。
「河原さん。河原さん!大丈夫ですか?」
不意に、呼ばれる。あーなんかもう色々反則。いや、こっちが勝手にそう思っているだけなのだけど。
「おう!人のことなんて良いからお前は、自分の仕事しろ!」
「はーい。」
お前は無邪気な笑顔で、自分のポジションへともどっていった。何一つ仕事に身が入らないまま今日一日が終ってしまった。
「おつかれさまでーす。」
仕事が終って、携帯を見ると光からのメールが来てた。
〈今日もお疲れ様!あんまり無理しちゃダメだよ。洸ちゃん。〉
そのメールを見た瞬間どうしようもなく悲しい気持ちになった。なんで俺こんなに、大事な子傷つけようとしてんだ?なんでこんな俺に優しくするんだ?
そう思った時に俺はもう気づいてしまった。あー俺は本当にあいつが好きでたまらないということに。だけどそれ以上に光を傷つけたくなくって、前に進めない自分にただひたすらに腹が立つ一方だった。
「河原さん。今日一日なんかボーッとしてませんでした?大丈夫ですか?」
携帯を見つめる俺を心配そうに見つめるお前。はー。なんかこいつ見てると悩んでるの馬鹿らしくなってくるわ。笑顔が無邪気すぎてさ。
「ん?大丈夫!あーこの道帰りに、公園あったんだな!ちょっと寄ってこうぜ。真っ暗だけどさ。なあそんなことよりもお前の方は、もう大丈夫なのか?」
帰り道を歩きながら、さりげなーくそれを聞いた途端、笑顔が曇る。あ、俺まずったかな?
「実は少し前から、ちょっとうまくいってなかったんです。それが昨日たまたま、重なっちゃっただけだと思うんです。でも、でも…こんな私を。私…。」
目にいっぱい涙をためるお前。そして少し嬉しくなった俺にとても腹が立った。もう次の瞬間俺は抱きしめてた。
「辛かったら泣けば良い。無理して笑うな。大丈夫だから。ちゃんと仲直りできるよ。だって大好きなんだろう?彼氏のこと。こうやってたら泣いてる顔とか見えないからさ。なっ。」
次の瞬間川西さんはいろんなことがはじけたようにわっと泣き出した。おれは、ただひたすらに泣き止むまで、ぎゅっと抱きしめていた。
「落ち着いたか?お前本当に…。いや、何もない。」
「はい。ありがとうございます。」
赤い目をこすりながらお前はぽそりとそう呟いた。プルルルルルル…。川西さんの電話がなった。着信には悠さんと書いてあった。お前は、より一層不安そうな顔をする。
「大丈夫!出てみろよおれここにいてやるから!」
そういって頭をポンポンとしてやると、恐る恐るお前は着信に出た。
「もしもし………………。はい…。うん。今?今は………駅前の近くの公園だけど。え?あ、……………………。うん。」
何を話していたのか、わからないが、川西さんはキョトンとして
「今から彼………ここに来るって…。ごめんって。」
そう呟いた。あ、ほらやっぱり大丈夫じゃんか。
「ほらな!大丈夫だったじゃん!」
俺は泣き出しそうになりそうな思いをぐっとこらえて、おもいきりわらってみせた。十分くらいたっただろうか、
「由奈ーーーー!」
川西さんの彼氏が走ってきた。寒いのにあせをかくぐらい全力で走ってきたのだろうか。
「あ、悠さん…。」
俺に見向きもしないで、川西さんを抱きしめた。
「あの…悠さん…。せっ先輩が…。」
そこでようやく落ち着いたのか、こちらを見て、赤面した。
「あ、えっと、すみません!お見苦しいところを。由奈こちらは?」
「職場の先輩で河原さん。私の相談を聞いてくれての。」
「そっそうでしたか。すみません。僕が不甲斐ないばかりに。」
「あ、いえ…。」
なんだか、こいつの能天気な顔をみてフツフツと怒りが湧いてきた。だいたいこいつがこんなにくるしんでんのになんだよこいつの顔は。
「っざけん…なよ。」
「え?」
川西さんの彼氏がまたキョトンとした顔をする。あ、だめだとまんねー。
「ふざけんなって言ってんだよ!お前さー彼氏ならこいつのことちゃんと見てやれよ。こいつどんだけ無理してたと思ってんだ?今日だって無理して仕事で笑顔作ってたんだぞ?なんでそんな能天気でいられんだよ。こいつのきもちなってやれよ!あんたがどんなふうに思って、喧嘩してたか知らねーけどよ!さっきまでお前のことで、すげえなやんでたんだぞ!もうちょっと……。」
あーやっちまった。
「あ、すみません。失礼します。」
俺は逃げるように、その場を離れた。あーあ、嫌われちまったかな。とにかく見えなくなるまで、俺は駅まで走り続けた。




