extra2-1
「「うわああああっ!?」」
「きゃああああああっ!!」
「なっ、何よこれーっ!?」
「……っ!!」
「あはは、なんかすごいなぁ」
どうしてこんなことになったのか。
それは、ほんの数時間前のことだった――――。
*
「……皆って、絵画とか興味はあるか?」
「「「へ?」」」
放課後の帰り道、燐がそんなことを切り出した。
その言葉の意図がわからなかった5人は首を傾げたが、最初に理解した小雪が「ああ」と呟きながら言った。
「もしかして燐、ゲルテナ美術館の無料チケットをもらったの?」
「ゲルテナ美術館? そんな美術館ない………あ、もしかして、新しくできるって噂の美術館か?」
「……そう」
透の言葉に燐は頷きながら鞄をあさり、6枚のチケットを取り出した。
「……その美術館に父上が関わっていて、もしよかったらということでチケットをもらえることになったんだ。だから皆で行けるなら行こうかなと思った」
「なんか今日はやけに饒舌やな? でも、ウチは美術館とかそういう静かなところは好きやでー♪」
「私も、絵とかを鑑賞するの好きだから、行けるなら行きたいかな」
「私は燐が行くならたとえどこだろうと行くわ!」
「あ、相変わらずだね……」
女子達が盛り上がっている中、煉馬は何かを言いたげに顔をしかめてそっぽを向いていた。
それに気づいた透は煉馬に近づいて「どうした?」と声をかけた。それに便乗して燐も近づく。
「んーにゃ、俺ってそーゆーの興味ねーからどうしようかなって思ってたんだよ」
「……確かに、煉馬はそういうの興味なさそう」
「興味がないっていうより、美術館とか静かなところが苦手ってだけだろ? 騒いだりうるさくなきゃそこにいづらいっていう」
「ま、そーともいう。悪いけど俺はパス――」
「そうか煉馬はパスなのか、残念だな」
「――へ? 残念って、何が? なんかあんのか?」
煉馬がそう言ったのに被せるように透がそう言い、それを聞いた煉馬は目をぱちくりさせながら問いかけた。
「その美術館の近くに、巷で有名なクレープ屋があるんだよ。なんでも『あそこのを食べたら他のところが美味しく感じられない!』ってくらいらしいぞ?」
「えっ、何それ!? うっわすっげーそこのクレープ食べてみてぇ!」
「でも行かないなら仕方ないよな? じゃあ、俺達5人だけで行ってくるから。ついでにクレープ屋も」
「だあああああああ!! 待てよ待ってくれ待ってくださいお願いします俺も行きます!!」
透の最後の一言で『行かない』という気持ちがポッキリと折れた煉馬は、土下座をする勢いで頭を下げた。
そんな煉馬を見た透はニヤリと笑い、小さく「してやったり」と呟いた。
また、近くでそのやり取りを見ていた燐も、透と同じように小さく「……やっぱり透にはかなわないな」と呟いた。
こうして、透達は美術館に行くことになった。
これが、あの事件の始まりとは知らずに――――。
*
「「「うわぁ…!」」」
「……すごい」
「さすが、新しくできた美術館なだけあるなぁ♪」
「へー………なんだ、美術館も案外おもしれーじゃん?」
美術館の様々な作品を見て、透達はとても感動していた。
透と実乃里と小雪は思わず声を漏らし、逢歌と燐は素直に感想を言い、煉馬は呟きながら絵に興味を持ち始めていた。
「『深海の世』か……。確かポスターになってた作品だな」
「あっ、見ろよ透! 『せきをする男』だって! おもしれ♪」
「……かなり手を凝っているな」
「ひゃっ!? 何この絵…! 『吊るされた男』? 顔が怖い……」
「へー、ここの作品って、全部『ゲルテナ』って人が作ったんやな」
「こんなにも様々な、しかもたくさんのパターンの作品を作るなんて……。すごい……」
そんな風に話しながら、6人は2階の奥まで来た。
するとそこには、透達が隣同士で並んでも大きい絵が飾ってあった。それを見て煉馬以外の全員は首を傾げる。
「……おかしくないか?」
「ああ。確かにこの美術館は他のところに比べては大きい」
「せやけど、こんな大きい絵を飾れるほどの大きさはなかったはずやで?」
「そうだよね……。この絵を飾るなら、もう少しこの美術館が大きくないと……」
「………何かあるとしか思えないわね」
5人が真剣な顔になってそう話し合っていた時、何の違和感も感じなかった煉馬はその絵に近寄っていた。
「えーっと、何々……? ん? なんじゃこりゃ? 文字が滲んでて『〜の世界』しか読めねぇ……」
そう煉馬が言った瞬間、美術館の電気がチカチカと一瞬だが暗くなった。
しかしそれだけでなく、微かに聞こえていた人の声すら聞こえなくなってしまったのだ。
それに気づいた5人は顔をひきつらせ、煉馬は小さく「やべ」と呟いた。
「煉馬、お前……やっぱりフラグを立てるんだな……」
「わっ、悪かったなぁ! 俺だって、好きでフラグを立ててるわけじゃねーよっ!」
「でも、基本は霧谷君がフラグを立ててるよね……」
実乃里の的確な一言に煉馬は「うっ」と呻き、透は静かにため息をついた。
その一連を見ていた逢歌は、もういいかと思って口を開いた。
「それで、どうするん? こうなった以上、どうやら探索するしかなさそうやけど?」
「そうね……。2手に分かれたらどうかしら? 一応圏外になっていないから、連絡に関しては携帯でっていうのは」
「そうだな、そっちの方が進展とかも早いだろうし」
「そんじゃーチームは俺と透と神崎、燐と清海と霞、でいーか?」
「……それでかまわない」
「私もだよ」
「燐と一緒ならどのチームでもかまわないわ」
こうして、透達は2手に分かれて美術館を探索することとなった。
しかしこの時、既に透達には魔の手が迫っていた――――。
これからは本編と同時進行となるので不定期更新となりますが、どうぞよろしくお願いします。