extra1-1
『っはぁ…! はーっ、はーっ、はーっ、はっ……』
『ハハ……アハハ……』
『っ…! うっ、うわあああああ!?』
『アハハハ、アハ、アハハ……』
『………つっかまーえた♪ アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』
*
「うわあああああああっ!!」
透は部屋に叫び声を響かせながら飛び起きた。
大量にかいた汗を拭ってから時計を見ると、今はまだ4時半だった。
「はあ……っ、また、あの夢か……」
そう呟きながら、透は近くにあった熊のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。
「あっ、透! おはよー!」
「おはよう、煉馬」
支度を終えた透は、玄関の外で待っていた煉馬と合流して、学校へと向かった。
いつも通りの普通の会話を煉馬がしているのを聞きながら、透は疑問に思ったことを煉馬に問いかけた。
「なあ煉馬、ちょっといいか?」
「んー?」
「どうして今日、玄関の外で待ってたんだ? いつもは俺が煉馬の家の前に来てから外に出てるのに……」
透がそう言うと、煉馬は体を反らしながら両手を腰に当てた。
「ふふん、よくぞ聞いてくれた! 実はさー、たまたま見たテレビで占いをやってたんだよ! そしたらなんと、俺の血液型が1位だったんだよなー♪ だから嬉しくって早く来ちゃったってわけだ♪ どうだっ、偉いだろー!」
「そうだな。嘘をつかなければ偉いと褒めていたな」
「へ?」
煉馬は笑みを浮かべたままとぼけるが、透はそれを冷めたような目で見ながら言った。
「煉馬、お前は確かに演技とかは得意かもしれない。でもな、俺は短いがお前と中学からの付き合いだ。嘘をついているかどうかくらいならわかるぞ?」
「…………!」
透がそう言うと煉馬は目を見開き、その後にさっきよりも満面の笑みを浮かべた。
それを見て透は嫌な予感がしたのでその場から避けようとしたが既に遅く、煉馬は足を地面から離して透へと飛び込んでいた。
「透ーっ! やっぱお前は最高だぜもうっ!」
「うわあああっ!? ちょっ、おまっ、煉馬!? わかった、わかったから離れろーっ!」
「いーじゃねーか別によー♪」
煉馬はそう言いながら逃げようとする透をガッチリとホールドし、これでもかというくらい抱きしめた。
それになぜか鳥肌がたった透は何とかしようと辺りを見渡し……後方のある一点を見て叫んだ。
「神崎ーっ! 清海ーっ! こいつをなんとかしてくれーっ!」
「「へ?」」
透の声が聞こえた後方にいる人物――実乃里と逢歌は目を丸くしながら前を見た。
そしてそれを見た瞬間に逢歌はお嬢様のように口に手を当てて「おほほほほほほ」と笑い、実乃里は俯きながら体をわなわなと震わせ、後ろに真っ黒なオーラを出した。
そしてそれにようやく気づいた煉馬は「ヒッ!」と小さく悲鳴をあげて、すぐさま透から離れた。
その瞬間に実乃里は煉馬に近づき、透が見えない角度で煉馬に腹パンチをくらわせた。
それを遠目で見ていた逢歌は実乃里に近づいて「まーまー」と宥め、地面に倒れこんで必死に悶えている煉馬に声をかけた。
「だから言ったやん。公衆の場で、それでいて実乃里のいる前でそういうことは止めた方がええって」
「だ、て………知らな、かったんだ、よ………こんなことに、なるなんて……」
「せやから公衆の場で止めよと言ったんや。まさか本当にやるとは思っとらんかったけど……」
「悪かった、な………ぐおおおおお……!」
そう返事をしながら遂に堪えきれなくなった煉馬は、回り転げながら小さく悲鳴をあげた。
また、一連を呆然と見ていた透は「うわぁ……」と呟き、実乃里はさすがに強くやり過ぎたと思ったのか「ごめんなさい……」と呟いた。
しばらくして落ち着いたのか煉馬が立ち上がったので、透は首を傾げなから煉馬に話しかけた。
「それで煉馬、どうしてあんなにも早く家に来てたんだ?」
「あー、それはー……放課後になってからのお楽しみ、ってことで! さっ、行こーぜ!」
「「「お楽しみ?」」」
そう言って歩き出した煉馬の言葉に3人は首を傾げつつも、煉馬に続くように歩き出した。
「なぁなぁ、これやってみよーぜ!」
「「「へ?」」」
放課後の誰もいなくなった教室で、煉馬は何も書かれていない1冊の黒い本を掲げながら言った。
それを聞いた3人は朝のように首を傾げながら、煉馬が手にしている本をまじまじと見つめた。
そんな3人の反応は予想範囲内だったのか、煉馬はニッコリと笑いながら説明をし始めた。
「休日に好きな漫画の最新刊が発売されたからさ、散歩ついでに本屋に行ったんだよ。そしたらその本の隣にこの本が置いてあったんだよ。何の本かなーと思いながらページを捲るとさ、何やら興味深い内容だったんだよ!」
「煉馬が思う興味深い内容……? 最近だったら占いとか、そういうのか?」
「透、大正解ー! その開いたページが丁度4人で行うやつでさー! 折角だからこのメンバーでやりたいなと思ったんだよ!」
「もしかして朝上機嫌やったのは、放課後にこれをできると思ったからなんか?」
「そーそー! だから放課後になってからのお楽しみって言ったろー? 本当はあの場でこのことを話したかったんだけどよー、それじゃあやる時につまんねーじゃん?」
そう言いながら煉馬はそのページを開くが、透はふと思ったことがあった。
「煉馬、見たところ、それってタイトルはおろか値段も書いてなくないか? それは一体どうしたんだ?」
「あー、それはさすがの俺でも疑問に思ったから店長に話したんだよ。そしたら『こんな本知らないから無料でいいよ』って言ってくれたんだよ! いやー、得した得した♪」
「………それ、本当に大丈夫なの? なんだか私、嫌な予感しかしないんだけど……」
「確かに大丈夫……とは言い切れへんな。止めといた方がえんとちゃう?」
「まー、大丈夫じゃね? そんな危ない本ならさすがの俺だってやろうって言い出さねーって」
「それはまぁ、そうだが……」
この時3人は大丈夫なのかと不安に思っていた。それと同時に、嫌な予感もしていたからだ。
しかし早くやろうと急かす煉馬を見て、しぶしぶ行うこととなった。
これが、悪夢の始まりの原点になるとは知らずに――――。