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魔物な彼女の異世界ライフ  作者: あかね
Hello World!!
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落ちてきた異界人

 ある晴れた夏の日だった。

 国中の鐘楼の鐘がガランガランと一斉に鳴り始めた。定時を知らせる夕方の鐘にはまだ遠い。

 誰の手も触れず何らかの意志をもって鳴り出したそれはすぐにぴたりと止まる。

 ただ一つ、王城の鐘以外は。

 王城からほど近い森で少年は鐘の音がうるさそうに顔をしかめた。

「うるさい。指定が大まかすぎるのかな」

 呟きながら遠くを指さす。

「止まれ」

 最後の鐘も音を止まった。代わりに今度は森の中を鈴の音が囲む。彼は額に手をあて、ふざけるなと吐き捨て、止めることを諦めた。

 この分ではさらに五重のお知らせ機能がついていてもおかしくはない。現在、第三段階に突入している。

 拡張に拡張を重ねた奇っ怪な代物になっているのがこの森を囲む結界だ。どういった機能があるのか少年には知り得ない。

 元々は少年らを閉じ込めるために作られたものだったのだから。

 原因を排除しない限り、鳴り続けるに違いない警報。既に隠し立ても放棄するしかないものだ。力あるものには知られていると思ったほうがいい。

 どこに問題があるのか。彼には察しがついていた。異質な者が落下して、たどり着いた。それが最悪なことにこの結界の中であったことが、問題であった。

 迷いなく森の中を一直線に歩く。ためらいなく、確信を持つように。

 少年がそれを見つけるまで時間はかからなかった。

 身動きもせず、落ちていた。

 水場として使っている池がそばにあり、そこに落ちなかっただけましだろう。

 それは、全力で警報中の結界など知りもせずに死にかけていた。

 推定、女性、おそらく、人。

 眉間にしわをよせてそれに近づく。おそらく、若い。そう感想を付け加え、少年はため息をついた。

「運の悪い」

 彼は空を見上げた。結界は異常なく機能を回復している。そのさらに上空では黒い穴が閉じていった。空の裂け目といったほうがいいものは、誰にでも見えるものではない。

 彼の目には魔力がない部分が裂け目がうつるだけだった。

 おそらく、この世とは別のところと接したのだろう。推定、魔力という概念のない上界から。今まで落下物はないこともない。この数百年に数えるほどの頻度には。

 しかし、人が落ちてきたことは二度目。

 一度目は何をすればいいのかもわからないうちに死んだ。

 その後よくよく考えて、魔力の欠如を疑うべきだったとささやかな後悔をしている。半日も生きなかったのだから、出来る手など限られていた。

 今、この現状でも何かができるというわけでもない。

 放っておけば速やかに死ぬ。

 この世のありとあらゆるものに含まれる魔力を持たぬ者。魔力を見ることができる者には恐ろしいくらいの空白がそこにある。

 なにもない空っぽ。それは、魔力の失った大地と同じように見えた。大きな大きな底なしの穴。

 この世の理から外れるがゆえに、この世から滅されるのだろう。

 それが、かすかに声をあげ身じろぎをしようとしていた。

 少年は顔をしかめ開こうとしていた目に手をかざす。体の周りに空気の幕を張る様に結界を作る。不本意ながらこういったものは得意だ。魔力を意図的に遮断するものは普通は攻撃的すぎて人に使うものではない。

「もう少しお休み」

 言葉が通じるとは限らない。しかし、それは少しうなずいた様に見えた。

 少しずつ息が穏やかになっていくことを確認しかざした手を離す。

「アッシュ」

 遠くから聞こえた声に少年は頭を振った。

「静かに」

 彼は声の主に向けて歩き出す。季節を考慮していない黒衣を纏う男は口をつぐんでいたが、表情に不満を滲ませていた。短い黒髪がやや寝癖がついていることが、警報によりおきたことを物語っている。寝起きの彼にしては、驚異的な早さでここまで来たことになる。

「生きているうちに食べて、知識を吸収すべきかと思うのだけどね?」

 にこりと笑って少年--アッシュが、男に問う。

「そのような冗談は余裕のあるときにしてください。星が落ちたのかと思いました」

「ああ、外からはそう見えたんだ? 頭上すぎて気がつかなかった。暫定、魔力除去結界を張ったから触ってはいけないよ」

「貴方ではないのですから。大人しく待っていたでしょう? それで、これはどういったことですか? 陛下が気にされていました」

 男は言外におまえとは違うと言っているようなものだ。否定する気もなく彼は首をかしげてみせる。事態は明快だ。対処は困難を極める。

「過去の事例から考えると上界、異界からの落とし物。絶望的に魔力がないから、この世界で生きていくのは難しい。前は半日で死んだ」

「……ああ、空に亀裂がありますね。意識しないと見えないですが」

 二人が見上げた上空では亀裂が閉じて、消えた。

 困った問題はそのままで、放っておけば死んでしまう。が、まだ、生きている以上、対処はしなければならない。

 善良と言い難いアッシュと言えども、食べて証拠隠滅するには時を逸したコトを知っている。そもそも、警報が鳴ったのだ。何もなかったと言うことはできない。

 なにもせずに死なせたら、責任を取るのは国王となる。この森の管理においての最高責任者であるから。

 それは、少しまずい。今、ここではとても。

「対処方はご存じ、ではありませんね?」

「魔力のあるものを食べさせて、体を慣らす。といいたいところだが、たぶん、受け入れる体ではないんだろう。ためる様な性質ではないようだ。こんな密度の魔力地帯で、息をして魔力をためないってことはないだろう。今までの推論上。許容限界を超えた状態とはこういう症状がでない」

「ええ、魔力を使用する結果になります。ならば?」

 男は解答を想定はしていたのだろう。やや固い声で尋ねる。

「ヒトであることをやめてもらいましょ」

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