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2-1 トラウマ直撃

サブタイ前回と今回間違ってました。すいません。

 仮面をつけた神が無言で一歩踏み出した。

 クゥが全力で離脱し、こちらに向かっていたルウラを羽交い絞めにする。

「はなせ!クゥ!コウが!」

「落ちつくっすよ。先輩!アレはやばい!二月席っすよ!」

 クゥがルウラの持っていた通信機をむしりとり、ハヅキに繋ぐ。

「先輩に飛ばしてもらって!準備!先輩!ハヅキさんを早く安全な場所に!」

 クゥの指示にルウラは従い、ハヅキを飛ばした。

「あたしたちも距離をとるっす!先輩もアレとは戦ったことあるからわかるっすよね!?」

 抵抗するルウラを何とか抑え込みながら絶叫。

「あれは最弱にして鉄壁の『祟り神』なんっすよ!」

「コウは!?」

「あたしたちよりも彼のほうが抵抗できるっす!相性の問題っす!あたしたちがここに居たらそれこそ彼も死んじゃうっすよ!」

「くそっ!」

 クゥの言葉に従い、ファクターを使って距離をとる。

 クゥもそれに追随した。



「我が名は『喰らう者』!」

 もはや本能的なものだった。

 とにかく目の前の敵はいやな予感しかしなかった。

 神を超えられる三分間を使用する。

「わりぃけど……速攻で決めさせてもらう!」

 地を蹴り、一気に神に肉薄。そのまま剣を振り下ろす。神は一足飛びに後ろに下がり、その斬撃を紙一重で回避。

 コウは違和感を覚える。

(なんだ?)

 そのまま追撃。いともたやすく接近し、横薙ぎの斬撃を繰り出すと神は『なんとか』といった風に回避した。

 わずか二回の攻撃だが、コウに一つの疑惑が生まれる。

 こいつの身体能力は大したことがない?

 神が人間相手に小細工をすることも考えにくい。

(だったら!)

 コウが思い切った攻撃に移ろうとした時、神は後方へ――。

 ハッキリと逃げた。

 コウは追撃を取りやめ、様子を伺う。

 岩の上に着地した神がコウを見下ろす。

 スッとあげた神の手に握られているのは小さな石ころ。

 そのまま神はその石ころを握りつぶした。

 一見、意味を為さない動作にコウは警戒レベルをあげる。

 この神の攻撃法はわかっていない。

 このまま一気に勝負を決めに行くか、その数瞬の躊躇。その間に神の仮面の下から声。

『これが貴方の未来』

 発せられる不愉快な合成声。

「なめんなッ!」

 コウはわかりやす過ぎる挑発行為に乗ることにした。どの道、三分過ぎれば勝ち目がなくなる。相手の出方を伺っている暇も惜しい。

 コウは神に肉薄しようと足に力を込める。

 その時だ。

 体が悲鳴を上げた。

 ギシギシと錆びた鉄骨が崩壊するような音が体の内部に響き、内臓がぐちゃぐちゃにかきまわされるような動きを――。

「喰らえ!」

 ほとんど絶叫のように喉から迸るファクター最大出力の気合。

 本来、自動で発動するファクターによるファクター喰らい。

 それに思い切り意識を向け、自分の体に異常をきたすあらゆる要因を喰らう。

「っ!はぁ!はぁ!」

 大きな波は既にないが、未だに体のあらゆる関節に異物を差し込まれたような違和感。意識を切れば待つのは死だということが体に汗を噴出させる。

『耐えられるの。すごい』

 合成声だが素直に感嘆しているであろうことをコウは嗅ぎ取る。

「……はっ。なんともまぁ、ケチくさい攻撃だぜ」

 相手の意外な反応に驚きつつ、表面には出さない。相手のファクターを分析。

 確かに呪いだ。

極めて強力な。

 一度発動すれば誰しも逃げだすのもわかる。

 そしてその強力な能力の半面、そのデメリットもはっきりとわかった。

 頭に全てなだれ込んできた。

 二月席のファクター。

 自らの手で起こした現象をそのまま相手に具現させる。

石を砕いた様を相手が見た。

相手は砕かれた状態にされる。

インチキも体外にしろと悪態をつきたかったが、対価が救いだ。

発動時、二月席の半径一キロメートルに入らなければその呪いは発動しない。

二月席は常に相手よりもワンランク低い身体能力に設定される。

二月席に関して既に共有されている情報であればやり取りしてよい。

そして二月席にとっては最悪のデメリット。

呪いを受けたものは以上の情報を得る。

だが、恐らくこの呪いを受けたものは皆、死んでいる。

デメリットがデメリットになっていない。

(とはいえ……さすがにしんどいな)

 未だに生きていることが不思議なくらいの強力なファクターだ。

 あの二柱が即座に離脱したことが納得できた。

 この神が相手では対峙し続けること自体が難しい。

 そして、デメリットであるはずの相手の身体能力よりもワンランク下になるというのも今では頼りない。

 なんせ体中が軋んでいる状態だ。

 こちらの身体能力自体が落ちている。

 あいにくと『どの状態』で二月席の身体能力が設定されているのかまではわからなかった。

 タイムアップまで後、2分半。

 突撃したいところだが、きっかけがない。

 こいつはさっさと殺してしまうに限る。

 コウの腹奥にどす黒い殺気。

 もっと、もっと、殺す。

 殺し続ければいつかは神共もこちらの力を認める。

 だから、こんなところで俺は死ねない。

 頭を振る。

 自身の頭の中に沸いた衝動を必死に否定する。殺人鬼になるつもりはない。

『嬉しいな』

 二月席が意外な言葉をコウに投げる。

『君は、私の前に立ち続けることができるのか』

「……ファクターきってくれたらずっと立ってやるよ?」

 コウの軽口に二月席は本当に楽しそうに低く笑った。

『そんなに私のことを殺すことばかり考えているのに?』

「……っ!」

 衝動のみで体が突撃をした。

『我が名は』

 黙れ!今すぐ殺してやる!

『望み叶え……』

 ギシリ、と大気が悲鳴をあげる。コウはその全てを無視した。

 眼の前の神が目障りで仕方なかった。

 完全に頭に血が上っていた。

 神の命名が告げられればコウはここで死ぬ。

命懸けの場では冷静さを欠いた者から死んでいく。

しかし、神の口から出たのは意外な言葉だった。

『……もういいかな?』

 右腕が二月席の胸元を掴み、地にねじ伏せる。そのまま馬乗りになってマウントポジションへ。

 腕に柔らかな感触。

「これから喰らう奴の顔ぐらい覚えておいてやるよ!」

 力任せに二月席の仮面を剥ぎ取る。

 意外にあっさりととれた。

 ここでコウの時は止まった。

 全ての音が聞こえなくなり、遠のきそうになる意識が何故未だにとどまっているのか不思議だった。

 本能が見ろと言っているのだ。

 呼吸すら忘れてその顔に見入る。

 赤毛。

 努力家というよりはがんばり屋さんと評した方がいいような愛くるしさ。

 小動物のようにくりくりとした可愛らしい大きな目。

 コウのトラウマ。

「殺さないの?」

 エリコの顔、そして生気のない目と声で二月席はそう問うた。




 小高い丘に立ち、2柱は戦場を観察した。

「先輩。呪いはどんな状態っす?」

「二月席の周囲一キロをくまなく覆っているよ」

 ルウラは己のファクターを使い、二月席の呪いの伝達を観察した。

 コウは生きている。

 彼のファクターは二月席の呪いに拮抗することができたらしい。自分たちでは3秒も持たない。

 クゥの判断は迅速で的確だった。

「オーケイ。先輩」

 ぐっと握りこぶしを作り、大声で宣言。

「私にいい考えがある!」

「さっさと言え」

「先輩。一瞬だけでもいいので、ここからコウ君のところに届く道を作ってくださいっす。一瞬あれば――」

 クゥの背後にマテリアルが出現した。

 自身のファクターを十全に行使する神がもつ神器。

 色は灰で質感は鋼。

 三対の翼はハングライダーを左右に両断したような形をしている。

 それが戦闘機の翼よろしく稼働し、主の命を待ちわびている。

「彼ごと離脱できるっす。かなり荒っぽくなるっすけど」

「……頼んだぞ」

 ルウラもマテリアルを発動。

 背中から碧の流体があふれ出し、翼の形を形成する。

「二人でする初めての共同作業っすね」

 軽口を叩きつつ、クラウチングスタートの体制をとる。

 眼前ではコウが二月席に切りかかり始めたところだ。

 まだ駄目だ。

 あの神を殺すのは早すぎる。

 クゥが奥歯をかみ締める。

「展開が速すぎるよ。アリス……っ!」




 咄嗟に逃げるように、いや逃げた。

 逃げたくて後方へ大きく跳んだ。

 頭の中はぐしゃぐしゃだ。

 自分に残された残り時間などとうに把握できていない。

「あ……あああ……ああああ……」

 口から出る言葉は意味を為さない。

 両手で頭を押さえる。

 蹲りたかったが辛うじてとどまる。

 頭が警報を鳴らすが、何とか目線を上に向ける。

 エリコ。

 殺した。

 もういない。

 だからあれは偽物だ。

 言い聞かせるが、頭は正常に働いてくれない。必死に相違点を探しても、後ろに束ねて巻いたポニーテールという髪型くらいしか違いがない。

 脳裏に浮かぶ失われたエリコのいる日常。

 図書室での料理談義。

 そういえば国語の宿題助けてもらっていたっけか。

 ああ、告白した時のエリコは可愛いかったな。

 エリコの最後は……。

「どうしたの?殺さないの?」

 エリコが話しかけてくる。

 あり得ない。

 あってたまるものか。

 あれはエリコじゃない。エリコは俺が殺した。殺した。殺した。

 命の味をしゃぶりつくした!

 美味かった!暖かくて最高だった!後悔はしたよ。けど美味かった!だからこそもっと後悔したんだ。あんないい子は死んじゃいけなかった。死んでいい理由がまるでなかった。それなのにあんなものに取り込まれて死んでしまった。あれ?死んだ?俺が殺した。そうだ。味がしたんだ。だから俺が殺した。そうわかったんだ。だから彼女のことで俺は苦しまなければならない。それが義務だ。命を奪った責任だ。けどなんで彼女は今、目の前にいるんだ?死んだから、俺は苦しんでいたんじゃないのか?死んでなければ苦しまなくても……。

 ブチン。

 ああ、そうか。それがお前たちのやり方か。俺の日常を奪って、今度は最低限の罪の意識すら奪おうと言うのか。

 だったら――。

 死んでしまえ――。

「うああああああああああああああああ!」

 思考を放棄。

 乱暴に振るった右腕から放たれたのはアグニート。二月席はかわそうともしない。二月席すぐ右側に着弾。

「おおおおおおおっ!」

 アグニートの投擲軌道に体を乗せ、接近戦の距離へ。

「喰らえ!」

 ファクターの力を宿した血液が左腕を覆う。

 喉を狙うが、時間が来たのか途中で消える。

 体が悲鳴を上げる。

 どうでもいい。

 目障りだ。

 早く消えろ。

 左手のアグニートを振り下ろす。

 この距離なら外れない。

「死ィねえええぇええええええ!」

感情を炸裂させる。

 持ち主の殺意を乗せて熱剣が虚空に身を躍らせた瞬間、横から激しい衝撃。

 コウは何が起こったのかわからなかった。

 自身の眼にはしっかりと獲物が捉えられていた。

 続いて自身の体に叩きつけられた衝撃も理解の外だ。

 出所がまるで見えなかったため対応できない。

 気付けば自身の体に甚大な被害を与えられ、地面に激突した。

「あ、やば……」

 緊張感にかけた声とともに、大地が崩れた。

 そのまま、水が叩きつけられる。

 どうやらそばの川に転落したらしい。

誰かが自分の手を握っていることをかろうじて認識し、そのままコウの意識は闇に消えた。

 



 ハヅキは飛ばされた高台からそれを見ていた。

 クゥがルウラによって創られた呪い無き道を弾丸よろしく、一直線に突撃した様を一部始終みていた。

 クゥのしたことはあの場では適切だったと思う。

 しかし、クゥの体は大地をえぐり、そばを流れていた増水した川にコウもろともに突撃する結果になった。

 巻き込まれるように二月席も川に転落していた。

「……神様っておぼれるのかしら?」

 現実逃避じみた一言を搾り出し、自分を落ち着かせることくらいしかハヅキにはできなかった。


続きは二日以内!

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