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1-3 俗神来訪

今回の女主人公登場

 二人と別れ、夕飯の献立を組み立てながらコウは河原を歩く。

 さんざ手を抜いたが、結局のところ順位は変わらず。それどころか後半無駄にやる気を出したアイがボールをあさっての方向に何度も蹴り飛ばすのでコウとメツは何度もとりに行かされた。「おりゃー」だの「とりゃー」だのと雄叫びをあげながら元気がいいことこの上ない。もう少し大人しければ恋人の一人もできるというのに……。

 命が惜しいのでいちいち口には出さなかった。

 だが幼馴染としては不安なのだ。

 傍にいれば彼女のいい所に気付くのだが、いかんせん、あの暴力癖が抜けないことには気づいてはもらえないだろう。

 あの暴力を我慢しきる男はきっと仏のような心をもっているに違いない。

 もしくは極度の特殊な性癖をお持ちの方か。

 他愛ない思考を続けていたコウの視界に一人の女が入る。

(……さっきまでいたか?)

 緩んでいた思考を引き締め、警戒レベルを悟られないように上げる。

 後ろで束ねている髪がひょこひょこと揺れている。

 醒めるような青い色を湛えた眼がこちらを捉えた。

 ニカッと元気のよい笑顔がコウに向けられる。

「やあやあ、そこの道行く若人」

 やたらフレンドリーに話しかけてくる女性にコウは応える。

「なんでしょうか?」

 精いっぱいに愛想をこめた受け答えは完璧だ。

「ふ~ん。君が……暁コウっすか?」

「ええ、そうですよ。貴方は……会ったことありましたっけ?」

 警戒の度合いをさらに強める。

 口ではありきたりの言葉を出したが、コウにはこの女と会ったことがないという確信があった。

 この女の匂いは初めてかぐ匂いだ。

 まるで変態みたいだな、とコウは心中で自嘲した。しかし、ファクターのおこぼれで人を判別することができるようになったのは中々に便利だ。

「いえ、初対面っすよ。ただ、君は強いって聞いて……」

 女がスッと自分の胸を強調するように腕を組む。

 豊かなそれが谷間を作る。

 その見せつけるような様は普通の男ならば誘惑されるものでもあったし、それなりの妖艶さはあった。

 だが、思い出してほしい。

 コウは女が出てから一度もその豊満な胸に対して一度も感想を漏らしていないのだ。

「私はクゥって言うんっすけど……どう?少し時間くれないっすかね?」

 どう考えても演技な行為にコウの熱が急速に冷え、そして――。

 本来、触れ得ざる部分に火がついた。

「あんまり舐めるなよ。女」

 コウの体から発せられる得体も知れない威圧感にクゥは緊張する。

「本当のお前はそんなものではないだろう?」

(感づかれていた?)

 クゥは思考を張り巡らせる。何とかここは穏便に済ませてしまいたい。いきなり襲いかかってくることはないだろう。だがコウが襲いかかってくれば後々かなりやりにくい。

 だからこそクゥはあえて自分の正体を自ら明かそうとした。そうすればこの男は必ず思いとどまる。

「さすがっすね。伊達に……」

 神を喰らっただけのことはある。

 そう続けようとした。

 しかし、その言葉はコウの一言で遮られる。

「その盛りまくった胸で人を誘惑しようとは……恥を知れッ!」

 クゥは固まった。

 開いた口がふさがらなかった。

 つーか、そっちを見破られる方がはるかに傷つくんですけど!

「な、なにいってんっすか。盛ってないんかないっすよ」

「ふん。見苦しいぞ。Bカップ」

 咄嗟に胸を隠した。

 カップサイズがばれている。

 見破ったと言うのか!

 隠蔽は完璧だったはずなのに!

「何を証拠に言ってんすか!断固抗議するっす!」

「ブラのラインが不自然だ。しかも体格と微妙にあっていないし、なにより演技が不自然で無理している感がありあり。普段はこんな真似はしないという線も考えられるが、その割にノリノリだ。新しいおもちゃを手に入れた子供のような振る舞いは本来、持っていないものを早速試したいという行動原理と同じだ。状況証拠だけでもこれだけある。なにより……」

「なにより?」

「俺はこの一点の真偽を確かめる点においては神すら凌駕する!」

 コウの自身に満ち溢れた宣言にクゥは思わず一歩後退していた。

「女。そこに座れ……」

 コウは指を地面に刺し正座するようにと……命令した。

「ええと……私、一応……」

「いいから座れ」

 コウの射るような眼光に、

「はい、座ります!」

 クゥはあっさりと屈した。

 今のコウから発せられるのは得体のしれない威圧感だ。時には命の危険すらもかいくぐってきたクゥがいともたやすく屈服させられたということ自体にクゥ自身が驚いていた。

「いいか。胸というのは神聖にして慈愛に満ちた部位なのだ。古代ローマでは豊穣の象徴ともされたありがたい部位だったりする。だからこそ世の男はそこに夢を見ずにはいられない。胸は夢が詰まっている。ともすれば身を滅ぼしかねない魔性すらあわせもつ。見誤れば破滅へ向かって転落するのみという結果すらありえる。哲学的な要素すら含んだそれはそれほどまでに重要な命題なのだ。その重要なセックスアピールは確かに男を誘惑するのに有用だ。しかし、貴様はあろうことか贋物を我が物顔で使おうとした。痴れ者め」

 コウの蔑んだような眼にクゥは反論。

「では胸がない女は盛ってはいけないと言うんすか!それはあまりに……」

「否定しないッ!」

 コウの一括にクゥは浮いた腰を留められる。

「俺が怒りを感じたのは贋物を利用しようとした一点のみ。パッド、豊胸クリーム、豊胸手術。その一切を俺は否定しない。無乳、貧乳、ツルペタ、まな板、絶壁、その全てを俺は肯定する!世の男の多数が自身のとある部分の大きさを男たるバロメーターとしているように、世の女もそれと同じく胸囲をバロメーターとしている。そのデリケィトな部分は目立つため、一方の女達には不幸であり、一方の女達には幸福という不平等を生みだした。それは悪だ。実際、俺も本買うときはつい大きい方を選んでしまうし。だが、パッドという世紀の発明はその不平等を無くし、なおかつ男達も幸福にする互いの理にかなった素晴らしいものだ。それに胸囲のみで判断して寄って来た輩を判別するのにも使える。パッドであるとわかった時の男の反応を見れば一目瞭然だ。その反応で愛情を量ることができる脅威の判断材料になる。胸囲だけに」

「だれうま!」

「胸の魅力を引き出すことを知らぬ貴様にしっかりレクチャーしてやる。貴様のようないわゆる貧乳といわれる類。いや貧乳というのはいささか失礼な言い方だな。例えるならば鈴蘭のような慎ましやかで、それでいて清らかさと凛とした強さを連想させるそれは鈴胸と言うべきか。横から見た時の形もなんか似てるし」

「えへへ、そんな持ち上げても何も出ないっすよ……」

「馬鹿面さらして照れるんじゃあない。Bカップ。鈴胸の称号はその名にふさわしいものにしか与えられない。今の貴様は厚化粧の乗った哀れな胸だ。哀胸といってやる」

「あ、哀胸……。つーか、ここまで下ネタな人と話すのは初めてっすよ!」

「何を言っている。上の話しかしていない」

「変態と言い換えます!」

「褒め言葉だな」

 ハンッとクゥの抗議を鼻で笑う。

「昨今、大きいは正義という風潮はすでに廃れ、鈴胸を愛する人口は巨乳好きと同等なほどに規模は大きくなっている。しかし、人はこの言葉を聞いた時に巨乳を連想せずにはいられない」

 スッと眼をつむり、静かに、厳かに、神聖な言葉を口にする。

「おっぱい」

 その様は見たクゥは不覚にも見とれてしまった。

 まるで信託を述べる聖職者のような美しさがコウにはあった。

 本人は神様嫌いだし、口にしているのは変態趣味全開トークだけど。

「なんて……説得力…………」

「その神聖なる四文字を耳にした男は神聖なる果実を夢想する。耳にした瞬間においてどんな男でも愛を感じずにいられない。この言葉があるからこそ巨乳好きの男はどんな苦難も乗り越えることができるし、明日を信じることができる。しかし、それは差別的な用語として取って代わられることもある。なぜなら神聖なる言葉は一定以上の格を有する者にしか微笑むことがないという誤解が世に広まっているからだ」

 コウは慈愛に満ちた眼をクゥに向けた。

「おっぱいに差別はない」

「……真理が見えた気がするっす」

「機会があれば小さな胸を前に聖なる言葉を口にしてみるがいい。そのような固定概念がいかに愚かであるか思い知ることになる。その言葉はいかなる胸でも史上の高みへと持ち上げることができる。しかし、それの言葉は努力を怠る者には微笑まない。日々のケアから食生活、運動、ダイエット。その全てを行使した時初めて!史上のモノへと変貌を遂げるのだ!」

 拳を握りしめ、コウは力説を続ける。

「そんな境地に達した鈴胸は巨乳を凌駕するほどの魅力をもつ。掌に収まる心地よさ。ハリ、カタチ、テザワリ、三拍子そろった狂気で凶器だ。恥じらいがそこに加わればともすれば人を殺しかねない。お前はその境地に達する努力をしているのか?毎日、おっぱいに気をまわしているのか?」

「そ、それは……」

 していない。

「だから、お前はその程度なのだ。だがまだ遅くはない」

「…………私を……許してくれるんすか?」

 コウは鷹揚に頷くと、クゥの前に座り、クゥの手を握る。

「反省は成長につながる。これからはもっと高みを目指すがいい」

「せ、先生……!」

 気づけばクゥは力強く両手でコウの手を握りしめていた。

 そして、コウはそんなクゥに一言。

「で、貴方は何者?」

「がぁ!」

 クゥは固まった。それはない。さすがにない。誰かもわかっていないのにあんな言葉をつづけていたのか。

 クゥは溜息をつきながら立ちあがった。どうにも自分はノリが良すぎるらしい。

「ええと、私は……」

 ピシッと天を指でさし、高らかに名乗りあげる。

「天が呼ぶ。地が呼ぶ。人が呼ぶ!自由を得んと我を呼ぶ!」

 指が上から下に降り、コウを指差す。

「十二神が十二月席!ディセンバー・クゥ!」

 得意げな顔でコウの反応を伺う。

(決まった……!)

確実に決まった。

「はぁ?」

 コウの馬鹿にしきった反応が返ってきた。

「ちょ……なんなんすか!その反応は!」

「嘘つくならもっとまともな嘘つけよ。じゃあな。誰かさん」

 そう言うとコウはクゥの横を通り抜けようとする。

 そんなコウにクゥは右腕を抱きしめる形で引き留めた。

「あ、あんまりじゃないっすか!断固抗議するっす!」

「ああ、もう離せ。うっとうしい!」

「離さないっす!信じてくれなきゃこいつをばらまくっすよ!」

 クゥがズボンのポケットから取り出したものはICレコーダーだった。中に入っているのは恐らく先程のセクハラ演説だろう。

「て、てめぇ!なんて用意周到な!」

「神っすからね!人間を手玉に取るなんて簡単っすよ!」

「こんな俗っぽい方法とっといて何が神だ!はーなーせー!」

 男女で取っ組み合いをする光景がこれほど騒々しく映る光景も中々にない。

 揉み合い、圧し合い、初対面にしてはやたらと砕けた二人の応酬は新たな来訪者の言葉で中断した。

「クゥ?クゥじゃないか!」

 凛と透き通るような声に男女は意識を向ける。

「ルウ……」

「先輩!」

 コウを放り出し、クゥはルウラに飛びついた。首にだきついて、遠慮なく親愛を表現する様子からみて明らかに親しい間柄だと判断できる。

「会えてよかったっすよ!ロウアーと二人っきりにされるとどうにもやりづらくって!」

「……なぁ、クゥ」

 ほんの少し、ルウラがためらいを含んだ声色を出す。

「その、私とお前が分かれてまだ一カ月ほどしかたっていなかったが……その……」

 ルウラにしてはえらく歯切れが悪い。視線の先には盛りまくったクゥの胸部が。

「あ、気付きました?私も遅れましての成長期で……」

「嘘を言うな!」

 コウの言葉にクゥが拗ねたような顔をする。

「…………先輩が人間界に飛ばされた後に手に入れたパッドです」

 クゥの言葉にルウラが少し安心したような息を漏らす。

「安心したぞ。クゥ。もしもそれが本物だったら少し凄いことになっていた」

ルウラの声に寒気を感じ、クゥはルウラから離れ、コウの背後に隠れる。

「……知り合いか?」

「ああ、この子は十二月席の神だ」

 ルウラの言葉にコウは天を仰いだ。

 ジーザス。マジかよ。神は嫌いだが、こればっかりは神にもの言いたくなるね。

「始めからそう言っているじゃないっすかぁ!」

 その神が抗議の声をあげる。

「へったくそな誘惑に、どっかからぱくって来たような名乗り口上に、ICレコーダーで脅迫とか、どこをどう取ったらカミサマらしく見えるんだよ!」

「見てわからないんスか?」

「俗っぽさしか溢れてねぇよ!」

 真っ向から対立するコウとクゥ。数秒間睨みあい……。

「………………せんぱぁい!」

 涙目になったクゥがルウラに飛びついた。

「おお、よしよし。すまないな。コウ。そう邪見にしないでやってくれ。クゥはいい子なんだ」

「…………」

 いい奴は脅迫なんかしない、と言いたかったが、話がこじれそうなので黙る。地雷原に突っ込むこともない。

「で、クゥ。久しぶりの再会は嬉しく思うが……ロウアーに私のことは聞いているだろう?どういった要件だ?」

 ルウラはクゥがこちら側に着くという楽観的な意見を述べなかった。口調は柔らかに、しかし、視線は油断なくクゥを捉える。場合によってはここで戦闘が始まるかもしれない問いだ。

 クゥが人間サイドか。神サイドか。早急に見極めておく必要がある。

ここで聞いておかなければ大量の破壊を伴っての宣戦布告すらあり得る。幸い町から外れているため人通りは少ない。比較的穏便に済ませるタイミングはここしかないだろう。

「いやぁ、とりあえず五月さんを倒した人間ってどんな人かと思いまして」

 コウの背筋に悪寒。

 口調とは裏腹にクゥの眼は非常に冷ややかだ。

 先程の馬鹿っぽさが嘘のような全てを見透かしたかのようなまなざし。

 コウをじっと見つめる。

 視覚から得られる情報を最大限に手に入れんとする狩人の眼だ。

 神と神の殺し合いを近くで見たからこそわかる。今、この場にいる者たちが真正面から衝突すれば大惨事になる。災害がぶつかり合うのと同じだ。一度ぶつかりあえばどちらかに大きな傷跡を残さなければすまされない。

「感想は?」

 ルウラは不敵に笑ってクゥに先を促す。

「う~ん。まぁ、これからに期待ってとこっす。とりあえず、あたしの方も人間たちの言い分を聞く準備があります。できれば話応えがある人と話したいっすね」

 十二月の神は上層部を出せとは言わなかった。

 あくまで欲したのは話ができる人間。神と話ができる人間。

 服従因子が機能しておらず、かつ事の全容を把握している人間を出せということだ。

 そんな人間は一人しかいなかった。

「先輩もそういう人間がいたから今の立場に自分をおいたというのなら……すごく興味あるっすね」

「……今から案内するということでよいか?」

「ええ。文句ないっすよ」

 どうやら今までの神との殺伐とした交流はある程度の目を吹かせていたらしい。ある程度の格はあると認められているようだ。

 クゥがニカッと笑う。

「いや~本当はそこの若人に伝聞を頼むつもりだったんすけどね。ちょっと焦りました。この子信じてくれないんですもの」

「そう言ってやるな。これでも人類最強だ」

「最強のくせに、私のこと信じてくれなかったんすよ!」

「まだまだ修行中だからな」

 3者は移動を開始した。



 



 ハヅキは自分の創ったものを目の前にして困惑した。

 こんなはずではない。

 こんなはずではなかったのに。

「お姉ちゃん……」

 横では妹が哀れみのこもった視線を向けてくる。

「お、落ち着きなさい。アイ。この程度、どうにでもなるわ。ここをこうしてこうすれば、甘さが中和されて……」

 ハヅキの指が塩分を求めて、空中をさまよう。

 アイはその手を優しくとる。

「アイ?」

「もう諦めようよ。おねえちゃん。反省は後の役に立つはずだよ」

 アイは言っていて空しかった。姉が料理に関して壊滅的であるということが胸示唆を加速させていた。

「諦めが何かを生むことなんて無い!」

「だってもう生地がぐちゃぐちゃなんだもん」

 アイの言葉にハヅキが押し黙る。

 お好み焼きを創ろうと想い、妹と一緒に料理を始めたところまでは良かった。料理は苦手なので、自分の恋人ほどではないにせよ料理が上手い妹が居るところで開始したことも評価していい。

 不味かったのはその後だ。

 てんかすが無いことに気づき、妹にその調達を頼んだ。

 妹は渋った。

 この時点でアイは自分が調理場を離れるとどういう運命が待ち受けるかわかっていたのだ。しかし、完璧主義ハヅキは姉の威厳を見せたいという無駄な虚勢をはってしまい無理やり生かせてしまった。

 お好み焼きで失敗などするものか。

 いつも料理では侮られているが、そろそろそれを払拭することもいいだろう。

 そんな気持ちがあったのだ。

「いいから行きなさい」

「ええ……」

「行きなさい。ここは姉に任せなさい」

 何時のもやり取りだ。

 我が家のヒエラルキーははっきりしている。

「……わかったけど、絶対にレシピどおりに創ってね?絶対だよ」

「わかっているわ」

 わかっていなかった。

 さも不本意そうな妹を無理やり出した姉は何も忠実に再現できていなかった。

 生地を作っている最中に砂糖と生クリームを投入してしまった。

 ドバー。

 効果音をつけるとそれくらいの勢いで投入した。

 作っている最中にケーキを作っているようだと考えた時点でアウトだった。

 天才というものは1つのことを考えてしまうと、試してみたくなるものなのだ。

 甘いお好み焼き。

 意外にいけるのではないか?

 ここでの一番のミスは何故作った生地全てを使用したのか。

 これだろう。

 一枚焼いて異変に気づいた妹が絶叫したのがほんの三分前の出来事。

 自分も食べてみて絶叫したのが二分前。

 どうしようか途方にくれ始めたのが一分前。

 そして現在、妹は空しい笑いを浮かべるだけだった。

 食えない事はないが、ねぎ、てんかす、たこ、その他さまざまな具が砂糖や生クリームのせいで気持ち悪い。

「こうなるってわかっていた!わかっていたのに!」

 無念の涙を浮かべる妹に姉はかける言葉を持たなかった。

「……食べるしかないわ」

「……本気で言ってんの?」

 アイはハヅキが吐いた妄言を信じたくなかった。

 こうなったときに貧乏くじを引くのはいつも妹の自分なのだ。

「私はいやよ!こんなカロリーの高そうなもの!お姉ちゃんが食べてよ!」

「食べるしかないわ」

 ジロリと睨むようにハヅキはアイを威嚇する。

 しばし、抵抗を試みるが姉には勝てないことを悟り、肩を落とす。

「せめて半分こに……」

「じゃんけんにしましょう。負けたほうが全部食べるということで」

「ええ!?」

 姉はじゃんけんが強い。

 今までの戦績は8割方向こうが勝っている。

 しかし、ほかの勝負事にすると9割強を姉に持っていかれるので渋々とその条件を飲んだ。

 どうせ分配を主張しても押し切られる。

「それじゃあ、いくわよ?じゃんけ~ん……」

 ここで姉の携帯が鳴り、姉はそれに出て何かを話し込んだと思ったら、エプロンを取ってジャケットを羽織り始めた。

「ごめん。ちょっと急用」

 それだけ言うとハヅキは家を出て行ってしまった。

「ええ~」

 アイは途方にくれることしか出来なかった。

 これを全て自分で処理しなければならなくなったのだ。

続きは一週間以内に!

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