2-3 三組三様
コウがハヅキに怒鳴ったのは拾われた次の日です。後で修正しておきます。
一晩経ち、動き回るのにはすでに支障はない。それでもどういう訳かサキはメツの家を出る気にはなれなかった。今は階下のリビングで睡眠をとっていたメツが部屋に入ってきて、のんびりとしている所だ。あの日以来、サキに部屋を明け渡してくれるメツには素直に感謝の念がある。
「面白い?」
部屋に置いてあったライトノベルを指してメツが問う。内容は確か青春ものの恋愛話だったはずだ。
「別に……」
そういう割にサキの表情は明るい。
「こういう話、少し前は楽しく読めたんだけど……今はそうは読めない」
「どうして?」
「悪意がないから。フィクションだから仕方ないけど」
読んでいた本を閉じ、表紙を優しく撫でる。その動作には慈しみがあふれている。表情と動作は同一ではないが。
「誰も悪意を持って状況に対峙しようとはしない。夢と善意がこの話にはあふれている。だからみんなこういった青春にあこがれる。現実はもっと違うのにね」
自然とため息。
「現実では上を向くはずの幻想はどんどん歳をとるに従って下向きになっていく。手の届く範囲の幻想はなんていうのかしらね?」
「ええと、サキさん何歳なの?」
「……失礼な人。一応、貴方とは同年代だとは思うのだけれども。そんなに歳くって見える?」
「それにしては言動が随分と……」
「どうせ私にははじける若さなんてありませんよ」
そう言ってサキは布団の中に引きこもってしまった。
「ごめん。謝るから」
無反応なサキをどうしようか考え、閃く。
「この話の最後は……」
「いうなッ!」
布団を跳ねのけて、サキが飛び出した。メツの驚いた顔を見て顔を真っ赤にする。
「……案外、Sなのね」
なんとか冷静さを装い、鼻を鳴らすサキ。
「普通だよ。普通」
笑いながらサキが起き上った時に落ちた本を拾い上げ、サキに手渡す。
「そうは言ってもサキさんはあこがれているんでしょう?」
「夢と希望が詰まっているからね」
手の内にあっても届かない。この話はもう自分には眩しすぎる。
「じゃあ、そうしよう」
「え?」
「今度一緒にデートに行こうよ」
「…………」
「そういう顔されると傷つくのだけどね」
「ナンパヤロー」
「……傷ついた」
「私を助けたのも私の体を狙って……」
「いやいやいやいや!酷くない?さすがに酷くない?」
焦って詰め寄るメツにサキは爆笑。
「はははは。ごめん。ごめん。冗談。感謝しているし、メツ君のそういうところは好きだよ」
「じゃあ、オーケー?」
「前向きに検討しておきます」
胸の痛みをこらえ、笑顔を向ける。
自分の言動がおかしく、誠実さがまるでないということなど分かっている。それでもこの青年が落胆するのを見たくはない。その場しのぎの先送り。どこかで破綻するのは見えているのにどうしてこの生ぬるい関係を続けてしまう。
地下の訓練施設で射撃の練習をするが、どうもすっきりしない。
「荒れているな。暁」
「轟隊長」
野太い声を振り向くと、筋肉質な髭面がこちらに向いていた。
「どうした。人類最強のお前が荒れているときては他の隊員たちが怖がってしまうだろう?」
「皆さんそんなに繊細ではないでしょう」
その言葉を笑い飛ばすと轟きはコウの背中を乱暴に叩いた。
「まぁ、そう言ってくれるな。いつもあの糞共の相手をお前がするおかげで、俺たちの査定がどんどん悪くなっていることに敏感になるくらいには繊細だよ」
「はぁ……」
対ビの実働部隊隊長。
コウが見上げるほどに背の高いこの男の役職だった。
コウが初めて暴れまわったときに現場にいたらしく、それ関係があるかはわからないが、よく現場で彼の指揮系統に入ることもある。
「と、言っても今、お前はビジターどもの相手をしている暇はなさそうだがな?」
「知っているのですか?」
「そりゃあ、知っているさ。対ビの司令官殿は優秀だ。融通が利いて、俺たちを良くしてくれる。南米の時に比べればここは天国だ」
「司令官……か」
そう言えば会ったことが無い。
会ったところで何か変わるとも思えないから面倒なのでいちいち会いに行ってはいない。
「おいおい、そう言う態度は良くないな。人脈は作っておくものだぞ。何が助けになるかわからんからな。と、言っても貴様は司令官殿にはわざわざ改まって会う必要も無いか」
「はぁ……」
言葉の真意は測りかねるものの、とりあえずは興味なさそうな返事をする。
この男の過去のことをコウは一切知らない。
聞かないほうがいいのだろうとコウは考えて聞かなかった。
この男が、現場でかもし出す空気はカタギのそれではないし、コウ自身、あまり昔のことは聞かれたくはないので、わざわざ聞くこともマナーに反すると思ってそういった話題に触れなかったのだ。
どうやらコウのその態度を轟は気に入ったらしく、こうして目をかけてもらえるようになった。
「最近、貴様が訓練に顔を出さなくなったからな。司令官殿に聞けばすぐに教えてくれたよ」
コウは人間の数倍の身体能力を持っているにせよ、技術までは経験に含まれていない。一度、ルウラに無理やり知識を頭に入れられたことはあったが、それでも不十分だった。
戦場では何が役に立つかわからない。
とにかく技術が欲しかったコウは、軍隊さながらの訓練を行っている対ビの実働部隊の訓練に頻繁に顔を出すように努めていた。
軍隊で一番やらされるランニングなどの基礎体力作りは常人の人間のためにあるものであり、コウはコウだけの特別メニューを渡され、勝手にしていろ、といったような場ではあったが近接格闘訓練だけは轟本人から直々に教えてもらっていた。
対神戦で武芸があまり役に立たないということに変わりは無い。あいつらが上空を飛ぶ爆撃機とするなら、攻撃自体が届かないからだ。それでも接近戦しか自分を生かす道が無いコウにとってはとにかく接近した後に確実に敵を葬れるようにしておきたかった。
ダンクの最後の際にも組み付かれたときの対処を体にしみこませていれば、対処の使用もあったかもしれなかったというのも大きい。
訓練に参加してわかったのだが、格闘戦に対する意識が変わった。
それまでは突っ込んだ、跳ねたでチンピラのような動きだったが、洗練されたように思う。
力が強ければ強いというのは小学生の理論だ。
実際、コウは轟隊長に対して一度も勝ったことが無かった。
「貴様はいつも猪突猛進であしらいやすいこと、この上ない。生き方に関しても、戦い方に関してもな。その癖、また下手に考えて悩んでいるのだろう」
コウは手にしていた9ミリベレッタの弾丸を引き抜いて置くと、ため息をついた。
「そんなに俺、猪突猛進ですかね?」
「うん?なんだ。貴様。自分の性質に関して悩んでいたのか?」
轟のあきれたような顔にコウをむすっ、とした顔で返答とした。
「ははははは。何だ。青少年。貴様もその辺に歩いているガキとそういう所は変わらんのだなぁ」
「……変わらないですかね?」
あまり現実感の無い言葉である、とコウは考えたが、轟は違った。
「おおとも、自分を特別扱いし、自分の性質に悩むのは誰しもが通る道だ」
そして、また背中を派手に叩かれる。
「悩めよ!悩むことが後の財産になる!」
「俺には悩む暇が……!」
「だったら短く悩め!状況は常に動いているんだ。同じところでじっとしているほど、お前の人生は穏やかではないだろう!」
そう言うと、轟は訓練室を出て行った。
「なんだったんだ?」
ぼんやりと出口を見つめていると、ルウラが入れ違いに入ってきた。
三日も寝れば完全に回復する。サキはベッドの上で体を伸ばす。
「いい加減に、決めろ、私」
生ぬるい生活は終わりだ。あの青年とは二度と会わない。
すくり、と床の上に立ち、二階の窓から向かいの道路を注意深く眺め、通行人がいないかをチェックする。早朝ジョギングをしている人間や、井戸端会議をしている人間がちらほらと見え、二階から抜け出す方法を断念。
(……本当ならば気遣うこともないんだろうけど、ね)
その気になれば今は閉じている服従因子を解き放ち、弛緩した平和な日常を一気に緊張感あふれる状態に持っていくことだってできる。街中に神が出現したとなればあの男はすぐさま飛んでくる。
とても簡単なこと。
それでもサキはそれを行うことを良しとはしなかった。
自身を助けた男の日常を壊してまで己の望みをかなえるほどに傲慢にはなれかったのだ。
足を玄関へと向けて音をたてないようにドアを開ける。
階下のソファーで寝息を立てているであろうメツに気取られないように細心の注意を払い、階段を音もなく降りる。
(意外に難しいな)
神であるサキにとってこそこそした動作というのは非常に難しいものがあった。
階段の前はもう玄関だ。
安堵の息を吐き、慌てて気を引き締める。この扉を開ければ安息は終了だ。最後に良い思いをさせてもらった。今にして思えばあんなにリラックスして他者と会話したのはかなり久しぶりだ。
(いい子だったな)
この身に待ち受けるは凄絶な死だ。
そうでなくてはならない。
戦いの果てに戦って格好よく死ぬ。
それだけが、私の最後の願い。
扉の前にたどり着き、最後に振りかえった。
(さよなら)
メツが眠っている部屋に視線を送り、胸の奥で別れを告げる。
もう二度と会うこともない。
哀しさに自身の胸が苦しめられる感覚に驚いたが、サキはドアノブに手をかけようとし、
「やあ、おはよう」
ドアから入ってきたメツに挨拶をされた。
「…………おはよう」
間の抜けた顔で挨拶を返す。
「こんなとこで何やってんのさ。傷はもう平気?」
こくり。
「そっかよかった。さあさあ。早く入って。朝ごはんにするよ」
「あ、ちょ、ちょっと……」
「うん?」
朝から活気に満ち溢れた眼がサキの眼をまっすぐに捉え、サキは二の句が継げなくなった。
「あ、ええと、その」
しどろもどろになるサキにメツの顔が曇る。
「もしかしてまだ傷が……」
「違う。それは大丈夫。……ええとね、何でそんなに朝から元気がいいのかなって思って」
「ああ、サキさんが元気良くなったら連れて行きたい場所があってさ。昨日約束したデート。どうかな?」
「いいよ」
何とかにこやかに返し、サキは自分の馬鹿さ加減を呪いたくなった。
場をとりつくろうことに執着したお陰で、退路を断ってしまった。
(違う違う!そうじゃなくて!)
廊下を進むメツに声をかけ呼び止める。
「ねぇ、メツさん。私ね」
「ん?」
生気に満ちた眼がサキを射た。本人はなんの意識もしていないだろうが、自身にはない光のような輝きを放つ双眸に見つめられ、サキは数瞬言葉を失う。そして口を衝いて出た言葉は、やはり場をとりつくろうものだった。
「私、オムレツ食べたいな」
「よしきた」
彼のにこやかな笑顔を見ると自身も元気が湧いてくるような感覚がある。さすがにもう認めるしかない。自分にとってこの青年の横は居心地がいいのだ。
神と神の戦闘は慎重を喫して行わなければならない。
一度始まれば、周りの死の世界になる。その後の統治のことも考えないのは愚の極みだ。だからこそルウラが裏切り、向こうに着いた今、慎重に事を運ぶことはとても最善なこと。服従因子を垂れ流して狂乱状態を作り上げ、そこでそのまま戦闘に入るのは回避してしかるべきだ。何せあちらとこちらの戦力は拮抗している。自身が出向けばそのバランスも崩れるのだろうが、神の戦闘に割って入るほどの資格をこの身は有していない。
アパートの一室、ロウアーは頭を抱えていた。どうしようもないくらいに彼女は手に負えない。
「だーかーらー。生きているっすよ」
そう言いつつ、クゥは携帯ゲームの画面をピコピコといじっていた。
ハヅキに条件の修正を提示したところ、思いのほかあっさりと受け入れた。
『ごねても無駄でしょう?』
と、彼女はあきらめ混じりに言った。
あの人間は自分のことをよくわかっている。
そんな神は現在、ロウアーが調達してきた隠れ家の一角でのんびりと過ごしていた。いきなりここに訪問してきたクゥは『人間と協調路線をとる』と言った。
天界と人間界が融合し始めた際に、はじめに取り決めた契約を反故にするといったのだ。
他の神全てに対する裏切り行為といえるが、他の神も一癖も二癖もある連中ばかりなので、十月席、十二月席の反逆はむしろ喜ぶのかもしれない。
ロウアー自身、神の身の回りの世話をするというのが役割な為、クゥに対して裏切り行為などと言った勘定はまるで無かった。
個人的に苦手ではあった。
「そうは言いますが……あの方は他の方達を比べて虚弱で……」
「あ、ミスった」
電子音が爆発音を奏でて、クゥのゲームオーバーを知らせる。
「クゥ様。心配ではないのですか?」
クゥが二月席を気にかけていたのはロウアーも知るところだ。
「あんな濁流にのまれたくらいで死なないっすよ。ああいうので死ぬのは彼女の本意ではないだろうし」
「本意?」
「ロウアー。人間の技術ってすごいっすね。こんな小さな液晶がすごく楽しいっすよ。ええと、上上下下左右左右AB……っとぉ。ここにもネット環境があればここの暮らしも文句ないのに……」
「クゥ様……」
四六時中こんな感じだ。こちらがほしい情報を彼女は決して渡そうとはしない。
どうやら人間の味方をするといっても、こちらと断絶する気は無いようだ。
「ん~ほら。私、ロウアーのこと好きっすよ。けど好きと同じくらいに嫌いなんっすよね」
「統合して普通ですね」
ロウアーの返答にクゥはケタケタと笑う。
「優等生っすねぇ!もっと腹の下のものさらけ出してきてくれってかんじっすよ」
一瞬、氷のような冷やかな目が自分を捉えたのは錯覚だったか?
「クゥ様は非常に変わっておられる」
苛立ちがあまり隠せていない。
腹の中をさらけ出さないのはクゥも同じだ。
「ふつーっすよ。ふつー」
「貴方様は全ての神に面識がある。非常に顔が広いお方だ。だからこそ解せない」
クゥの手に持つ携帯ゲームからボス戦の曲が流れる。
「何故、誰ともまともに戦わないのか」
「まともにやってあのざまっすよ」
「相手のファクターを把握しつつ、そして自分本来のファクターは未だに明かされていない。これは強力なアドバンテージです。何故、それを生かされないので?」
「……君はそれほどまでに戦いの舞台が好き?」
ロウアーは無言で肯定。
「私はどうでもいいんっすよ」
「どうでもいい?」
「神の使命とか。役割とか。だってそうでしょ?やりたくもない領地の統治とか、めんどくせぇ、って言っているのにアンタが押しつけるもんだから」
「次の日には貴方はルウラ様に全てを譲ってしまったでしょう」
「めんどうっすからねぇ」
クゥの言葉にロウアーは若干苛立った。自分でも珍しいと思う。
「私は戦いが嫌いだ」
クゥの言葉が唐突に真剣みを帯びる。
「殺し合いなんて始めればしがらみに取り込まれる。暴力はいつだって平等にすべてを破壊する。復讐にもっぱら使われるのは暴力で、贖罪にもっぱら使われるのもやっぱり暴力。誰も幸せにならないのにね」
クゥの指が素早く動き、画面上の大型ボスを破壊。クリアのファンファーレが鳴る。
「だからね、ロウアー」
クゥの双眸がロウアーを捉える。
悪寒。
青の瞳が絶対零度の光を帯びてロウアー射る。
「あたしを勝手にあんたの舞台に上げようとしないで欲しいな。でないと、しがらみから何から何まで、あんたを縛られなくしてやらなきゃならない」
沈黙は一瞬だったが、ロウアーには酷く長いものに感じられた。
「さて、と」
クゥは液晶画面を折りたたみ、ジャケットを羽織る。
「買い物、ついてくるっす」
先程の冷やかさが嘘のようにクゥはロウアーに笑いかける。
「……また、ですか?」
「ええ、そうっすよ。今は日常パートでロウアーの舞台にも必要な場面でしょうが」
先程、自分は舞台に上げるな、と言いながらもこの物言い。
ロウアーは溜息をつき、視線を横にスライドさせる。クゥの部屋。その一角でロウアーの視線は固定された。
ゲーム機。パソコン。漫画。やたらと薄い冊子。うすらでかいパッケージ。
「また私が荷物持ちを?」
ロウアーは本気で嫌そうな顔を浮かべる。
「あんたの仕事は神の世話でしょーが」
クゥの一言にロウアーは珍しくため息をついた。
先日もきたショッピッング・モールの正面ゲートを見てコウは舌打ちした。
神が襲撃してきたというのに人でにぎわっている。
そもそも、襲撃が来たという情報すら一般市民には回っていないのだ。
勿論、理由はある。
神に敵意を向けたものは最後には発狂に至る。もし大がかりな避難を行えばその何割が『原因』に対して敵意を向けてしまうかわからない。今のところ無差別に襲ってくるような神ではなかったためにこのような処置をしているが、この状態が良くないことぐらい誰から見ても明らかだ。ただ日本という国は責任の押し付け合いが常であり、だれも責任をとりたくないからこその保留案として今の状態が出来上がってしまったというだけだ。上の連中にとってはありがたいことにスケープゴートとしてハヅキがいる。ハヅキが対神の作戦に口を出すのは対ビ研究室室長の肩書ではなく、神に敵意をもっても影響されない優秀な人物という側面が強い。そして肩書は責任を伴って肩にのしかかる。
(お陰で失敗すれば責任はこちらに来るか……)
どこまで行っても人は己の利権を守るのに必死で、胸が悪くなるタテの構図は変わることはない。だからこそ負けないように訓練を少しでもしておきたかったのだが、昨日、訓練所をルウラにつぶされてしまった。 コウがルウラを邪見に扱ったためルウラがキレて訓練所をしっちゃかめっちゃかにしたあげくに、付き合わなければ訓練所を直さないなどと言い始めたからだ。
あの神の力をもってすれば破壊も修繕もあっという間だ。
(それにしても……)
今思い出しても体に震えが来る。あんな怒り方をしたルウラは初めて見た。
「おはよう。コウ」
ルウラの声の方に体を向ける。
「おっす」
表面上は平静を装ってはいるものの、胸の高鳴りは自身には隠せない。普段はシンプルな服を好むルウラであったが、どういう訳か今日に限ってフリルがついた服装でまとめ、非常に女を感じさせる出で立ちをしていた。
「む、そう見つめられると照れるな」
知らないうちに眺めていてしまったらしい。少し顔を赤らめて恥じらうルウラに軽く謝罪を入れつつ、新鮮な空気を冷静になるために体内に取り込む。
「で、態々ここに呼び出して理由はなんだよ」
「デートだ」
「はぁ?」
怪訝な目でルウラを見やる。言っている本人の顔は真っ赤だ。
「…………ハヅキに殺されろ、ってか?」
「ハヅキのお墨付きだ!二度も言わせてくれるな。私だってデートなんて初めてなんだ。とりあえず照れくさいんだ。は、早くいこう」
後頭部を右手でかきつつ、思案。とてもデートなんてしている気分ではないのだが、今日ルウラに付き合わないことにはどうしようもないのだろう。見た感じ、デートという状況そのものに緊張しているらしく、ガチガチに体が固まっている。
「……予定とか考えてんの?」
「コウに決めてもらえと言われた!」
(ハヅキめ……)
彼女のことだからおそらく今のコウの状況に関しての一手なのだろう。
自身の今の状況がよろしくないことぐらいコウ自身、わかっている。
それでも、怒りは自身の力だ。
それを無くしてしまえば何を持って敵と相対しろというのか。
(……今は忘れよう)
努めて明るく、ルウラが楽しむ様に。
そうすればこの儀礼的なものも終わりだ。
「さて、それじゃあデート定番の映画に行ってみようか。この間、テレビにかぶりついていたCMの奴でいいよな?」
「ああ、そうだな。それがいい」
これで二時間の時間つぶしという打算的な計算がコウの頭をめぐる。モール内に入り、長い通路を歩きながら適当に今日の段取りを頭の中で組み立てているコウに背後から付いて来たルウラが声をかける。
「ところでコウ」
「ん?」
「映画とはなんだ?」
振り返ってまじまじとルウラを見る。
「な、なんだ?」
「マジでいってんのか?」
「仕方ないだろう!私はこの世俗に疎いんだ!神だからな!」
バカにされたと感じたのか、異様に喰ってかかるルウラをなだめる。
「映画ってのはでっかいテレビだよ。それを金払ってみるの」
「そうなのか?だったら家でもいいと思うぞ。無駄遣いはよくない」
「神のくせに何でそういうところはケチくさいんだよ……」
あまりいい顔をしないルウラにコウは説明を続ける。
「テレビと比べて迫力は段違いだけどな。かなり盛り上がる。映画として創られたものはやっぱり映画館で見てしかるべきだと思うね。そう言えるくらいに映画ってものはすごいんだよ」
「そうかなら期待させてもらっていいかな」
「ついでに質問。デートって何だ?」
「男女が色んなことをする」
間違ってはいない。
「オーケイ。分かった。今日はルウラにデートとは何たるか教えてやろう」
「任せる」
そして相まみえるは三組の男女。
その出会いがこの戦いの決着を加速させる。
連投は続くよ終わるまで