プロローグ
とりあえず一章が書きあがったのであげていきます。
右腕に人体のぬくもり。
右腕は自分のことを好きだと言ってくれた女の子の体に突き刺さっている。
物言わぬ物体になり果ててしまった女の子をコウは茫然と見つめる。
「まだ俺は人間か」
そう呟いて、コウは眼を開けた。
先の呟きは夢の中で口にしたのか?
現実で口にしたものか?
判別できぬままに体を起こす。
既に慣れた悪夢はコウにとっての精神安定剤となっている。
あの後悔がまだこの身に残っていると確信できる重要な夢だ。
この夢を見ている限り自分は人間だ。
寝汗が気になり、シャワーを浴びる為にベッドから出る。平常を保とうとしても知らずに手足は震えたままだ。自然、ベッドからは這い出るようになる。
震える膝を何とか支え、直立し、深呼吸をする。
(まだ……か)
コウは夢の狭間に浮かべた自身の呟きに自嘲した。
まるで自分が近い将来、人間ではなくなるようではないか。
異能の力、ファクターを身につけて最強である神を喰い殺し、まだ一週間。
学校に顔を出した時は大騒ぎだったが、今は皆が以前と変わらずに接してくれている。
ビジターの活動は活発になっているし、コウも相変わらず戦場に身を置く立場だが、それでもコウに文句はなかった。今の暮らしはあの状況下における最善の選択の結果だ。
望んだ日常。
人を殺したのにまだ自分はここにいることができている。
そしてエリコを殺したという事実が真綿で首を絞めるように未だにコウを苦しめている。
「どうすればいい?」
コウの問いに答えなどない。
これは、青年が全てを失う物語。