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シンガポールのお食事事情 第6章

作者: junju

第1章から第5章までは1ヶ月ずつ過去にさかのぼってましたが、第6章からは普通に時間が進みます。

第6章 ドリアン・ドリアン


 シオとクマの共同生活が始まってそろそろ一週間になる。


シオにとってクマはある意味良いルームメートかも知れない。


クマにはシオの気まぐれやわがままが全く通用しなかった。


 しかしシオには耐えられない毎日だ。


真剣に元のホテルに帰ろうと考えている。


でも、シオは後から来たクマに部屋を追い出される形になることが許せなかった。


クマの方こそさっさと日本に帰ればいいのにいつまでたっても日本に帰るそぶりを見せない。


どこかで親しくなったシンガポーリアンの家に行って晩ご飯を食べてきたり


一緒にドライブして郊外のジュロンまで鳥を見てきたりしていた。まったく図々しい。


シオもしつこく誘われたが行かなかった。


出来るだけクマと別行動するようにしていたからだ。



共同生活は二週間目に入った。


クマはシオの気持ちなんか全く気にせずマイペースな生活を送っている。


 週末クマは中古の自転車を買ってきた。


シオがタクシーを使っている事に、贅沢だ勿体ないといつも文句を言っている。


そのくせ自分の買い物があるときは平気で乗り込んできた。


二人で使えば安上がりという例の考えをシオに押しつけるのだ。


腹が立って大げんかをしたら当てつけみたいに自転車を買ってきた。


いつの間にか親しくなった例のタクシー運転手と朝早くからと出かけて行ったと思ったら


どこからかママチャリを積んできた。


 アホだ。YWCAはフォートカニングの丘の上にある。


毎日この坂道を自転車で上り下りするのか。クマのすることは間が抜けていて笑える。


昨日もママチャリを玄関先の木に立て掛けていたので大量の蟻が座席の中に潜り込んでいた。


それに気づかず自転車に乗っておしりと太ももを激しく蟻に食われていた。


「あのタクのウンちゃん、あたしを好きなんやで。


 チャイニーズタウンをわざとグルグル回ってニヤニヤするんや。

 

 でも私にはクリスがいるからしっかり断ったけど。」


クマが自慢する。アホだ。


クマから金を巻きあげようとしたけどクマが勘違いして気持ち悪かったのであきらめただけだ。


 不細工は三日で慣れると言うのは本当だ。


毎日一緒にいると慣れてきて、シオは最初ほどクマに対して腹が立たなくなっていた。


そして、なんてことだろう。クマの図々しさに助けられる事もあった。



 シオの語学力は妙といた3ヶ月の間に、すっかり退化してしまった。


苦労して覚えた単語も構文も使わなければさっさと忘れてしまうようだ。


そして学校にあまり行っていなかったので授業にもまったくついていけなくなっていた。


「シオちゃん。学校行かへんの?」


「ほっといて。」


「勉強のために親に仕送りしてもろてるんやろ?ええ身分やなあ。うらやましいわ。」


「ほっといてって言ってるでしょ。」


「そやけど気になるし。シオちゃん。全然英語しゃべれへんやん。」


クマの言葉はシオの痛いところをついた。言葉につまって泣きそうだ。すごくくやしい。


「学校ついていけてへんのと違う?あたし一緒に行ってあげるわ。暇やし。」


「そんなの迷惑だよ。」


「えーでも、なんや興味あるし。つきそいや言ったらタダで授業みれるやろ。」


 クマはタダとかおまけというのが大好きだった。


そして勝手に交渉して(勉強について行けない可愛そうなシオの為に付き添い


として一緒に通学する)という事を学校に許可させた。もちろんタダで。


恥ずかしくてたまらない。


「勝手に何してるん!恥ずかしい!」


「そやけどシオちゃんこのまま学校にいかへんつもりなん?


時間がたてばたつほど行きづらくなるよって。」


「クマちゃんに関係ない話でしょ。早く日本にかえってよ。


 いつまでここで居座っているつもり!」


「もうちょっといるわ。シオちゃんほっとけんし。


 それに恥ずかしいや思てたら、いつまでたってもしゃべれへんよ。」


クマは本当の事だから仕方がないやんと言ってシオの気持ちなんてまったく気にしていない。


シオはクマに引きずられて毎日通学するようになった。



共同生活は三週間目になった。


シオの生活はすっかりクマのペースに巻き込まれていた。


年もクマの方が5歳上だし、シオは元々人に影響される性格だ。


しっかりしているように見えるが、一人っ子のお嬢様体質でいつも周りの人間に依存している。


その点クマはしたたかでたくましかった。


クマはシオを近所のホーカーズや道ばたの露天屋台に連れて行って無理に


ローカル・ミートを食べさせようとする。


「シオちゃん。郷にいれば郷に従いってこうゆうことや。


ほんまにおいしい物はシオちゃんの好きなホテルやレストランにはあらへんで。」


「なんじゃそれ。」


シオは渋い顔で鼻をつまんだり顔を背けたりして嫌々食べていたが、


ある時、「あれっ!おいしいかも。」と思う事があった。


それから少しずつナンプラーの臭いにも慣れるよう努力した。


納得すれば結構素直な所もあるのだ。



共同生活は四週間目になった。 


クマと学校に行くようになって今まで話したこともないマレシア人のリンちゃんや


中国人の陳君と昼御飯を食べるようになった。


 クマが誰彼かまわず話しかけるせいだ。


みんな母国語が英語では無いのでシオと同じ悩みを持っていたりした。


クマはシオがしばらく休んでいたのは勉強について行けなかったせいだと言いふらしている。


可愛そうなので自分は親切で一緒に通学していると言っているのを聞いた時、


正直むかついたが、言い返す語学力が無かった。


くやしい。ほんとにくやしい。


でもそれを聞いた陳君が


「僕も同じだった。もう国に帰ろうと思った。」


と言った。


警戒して今まで学校で友達を作ろうと思わなかったが、案外みんなシオと同じかも知れない。


外国で緊張して生活しているんだ。


シンガポールには周辺の東南アジアの国から学生が集まってきていた。


ここは国際都市なんだ。公用語もマレー語・中国語・タミール語ぐらいにしか


思っていなかったが、中国人同士でもマンダリン(北京語)と福建語・広東語では


ほとんど通じないらしい。


シオのまわりが突然賑やかになった。学校が楽しい。くやしいけどクマのおかげだ。


「ブキズ・ビレッジに行こう。」


「何しにいくの?」


「ドリアンでしょう。やっぱり。」


「ドリアン?」


「ドリアン!」


ドリアンは果物の王様。今がシーズンだ。女王様はマンゴスチン。


シオはマンゴスチンは好きだがドリアンは敬遠していた。


 リンちゃんの提案で授業の後、ブギズの屋台に行くという。


そこは通称オカマ・ストリート。


よくある噂は、観光客が美しい女に誘われて酒を飲まされ、その気になってついて行ったら男だった。


ボコボコに殴られて金を取られたというたぐいの場所だ。一人なら行かない。


 ブギズ・ビレッジはビクトリアSTとクイーンSTに挟まれた、


わずか百メートルほどの通りいっぱいに出る屋台だ。


中華風スナック・点心・CD・衣料品・土産物・時計・屋台風バー・レストラン、


ありとあらゆる物がごちゃごちゃに並んでいる。


道は、屋台の排水や客の投げたゴミでドロドロになっている。


リンちゃんが言うには、ここではゴミを捨ててもつばを吐いても警官は知らん顔らしい。


オーチヤードがシンガポールの外面ならここは裏の顔だ。


もしオーチャドでゴミを捨てたら罰金だ。


 ブギズ・ビレッジのウオータールーST側は


ドリアン・マンゴ・マンゴスチン・ランブータン・ライチ・ドラゴンフルーツ


と果物市場の様になっていた。


 シオは「ぐうっ。」とうなった。


あたり一面に広がるドリアンのかぐわしい香り。


それは限りなく○○○に近い。やばい。シオは急いで鼻をつまんだ。


まったく平気なのはクマとリンちゃんで、早速屋台で品定めしている。


シオと陳君は腰がくだけて後ずさりした。


 それぐらい強烈なにおいだ。めちゃくちゃ臭い。


だからバスやホテルではドリアン持ち込み禁止のマークが貼ってあったりする。


公共の施設はほとんどアウトだ。


 クマは味見をしようとして屋台のおっさんに怒られた。


お金を払う前に味見はしてはいけないらしい。


当たり外れがあってクジ引きみたい。


中を割ったら必ず買わなければいけないルールらしい。


素人にはちょうど食べ頃がさっぱりわからない。


ドリアンはイガイガの恐竜の卵のようだ。見た目は食べ物ではない。


テーブルの上に無造作に山盛りにしていて売ってる人間が見えない。


取りあえず十ドルぐらいのを一つ買って開けてもらった。


シオはにおいで頭がくらくらした。クマが食べろと言うので嫌々囓った。


強烈な臭いが口から鼻に抜ける。


シオは明日からどんなに臭いナンプラーも平気だと思った。


偏食ショック療法だ。


はじめて食べたドリアンは、ネットリとして甘いバターのようだった。


鼻がぼけてしまってまったく平気だ。


味は・・・おいしくて何個でも食べれそうだ。


「郷に入れば、郷に従い。」


そうだ。悪くない。


物語はそろそろ後半にはいります。


誰か読んでますか?さびしい。。。。

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