第53話 スライム村長
体中にツタを巡らせた女性が、目の前に立つ。青紫色の髪をした、豊満な女性だ。背丈が、誰よりも高い。
町娘風の服まで、自分で木の皮を加工して手作りした。
「コーキ様、このたびは契約を結んでくださって、ありがとうございます。ワタクシは、【ドリアード】のピオナです」
声まで、大人びている。どうもこのスライムは、女の子だったらしい。
「正確にはワタクシ、ドリアード・スライムなんですけどね」
ピオナが、オホホと上品に笑った。
ドリアードとは、木に宿っている精霊のことだ。世界樹とスライムが合わさって、人の形を取っているという。
「キミはホントに、ピオナなんだよね?」
「はい、コーキ様。証拠はここに」
たしかに、少女の頭にはピオーネをかたどった髪飾りが。この少女がピオナなのは、間違いないだろう。
「この髪飾りが、わたしとコーキさまとの契約の証となります」
「他の魔物やシャーマンたちには、ボクとピオナとの関係がわかるようになっているんだね?」
「はい。相思相愛だと」
お、おう。
「ちょっとコーキ、これはどういうことなのかな?」
パロンが、ボクに詰め寄ってきた。
「いきなりドリアードの恋人ができるなんて、お母さんとしてはちょっと見逃せないねぇ」
腕を組みながら、パロンが謎のオカン要素を出してくる。
「ご心配なく、清い交際をお約束いたしますわ」
オホホと、ピオナが良妻ぶりを主張した。
「コーキさま、パロンさま、クコさま。その節は助けてくださって、ありがとうございます。大したことはできませんが、主人コーキ様に成り代わり、ワタクシがここの村長を担当いたします」
ボクたちが旅をしている間、村長として活動をくれるそうだ。
「村長として働いてくれるなら、交際を認めてもいいかなぁ」
オカン、あっさりと陥落。
「でもさ、キミはワタシたちの旅に同行できないんだよね? 寂しくない?」
「ご心配なく、みなさま。コーキ様には、こちらのアイアンゴーレムを」
ピオナが唐突に、ボクの手を取った。反対の手から、水を発する。そばにあった鉄クズに、溢れてくる水をかけた。
この鉄は、機械に改造しなかった余り物だ。クズ鉄なので、溶かして別のものに作り変えようと思っていた品である。
クズ鉄が、青白いアイアンゴーレムへと変わった。
「これは?」
「ワタクシとコーキさまとの、愛の結晶ですわ」
ピオナはオホホと笑っているが、ボクたちは笑えない。
丸っこいアイアンゴーレムが、ボクの肩に乗ってきた。鉄でできているが、全然重くない。すごく薄い鉄で、作ってあるようだ。
「あらあら、ワタクシに似て、甘えん坊さんですこと」
カラカラと、ドリアードのピオナは口に手を当てて笑う。
「ちょちょちょ、コーキ! いつの間にこんなキレイなお嬢さんと、男女関係を持ったの!?」
なんか、パロンが食い気味で怖い。
「フム。実にけしからんっ」
クコまで。
「やっぱりコーキさまは、オトナの女性がお好みなんですね……」
なぜか、チェスナが遠い目をしている。
「胸のサイズも負けてるよ」
自分の胸をペタペタと触りながら、アザレアもシュンとしていた。
「そもそもキミって、ワタシが作ったゴーレムだろ? 元人間とはいえ、生殖機能なんてあったのかい? その辺詳しく聞かせてもらえないだろうか? 錬金術師として、実に興味深いんだけど!」
目を血走らせながら、パロンがボクに詰め寄った。これは、母親として聞いている感じではない。研究者として、知的好奇心がくすぐられちゃったヤツだ。
「いや、ないから。ピオナが勝手に言っているだけだよ。このゴーレムは、ボクの子どもじゃない」
「でも、ドリア―ドはキミと属性が似ているじゃないか。交配できても、おかしくはないんだよっ!」
やたら興奮気味に、パロンがボクの肩を揺さぶった。ゴーレムが怖がっているから、やめてほしいんだけど?
「まあ、それもワタクシのようなものです。みなさまがお留守の間、そのゴーレムがわたしの代わりをしますわ」
「分身みたいなもの?」
「はい。ワタクシの戦闘能力を、その子に反映させた感じですかね?」
ピオナが、種明かしをした。遠方から、ナビゲートやアドバイスなどをくれるという。
「そうなんだ」
「原理としては、ワタクシと構造は同じです。わたしはあなたに知恵をいただきました。この子も、それを引き継いでおりますよ」
「キミは大丈夫?」
村人が来てくれるとはいえ、女の人が一人で村のお留守番なんて。かなり危険だと思うが。トーテム、増やさないと。
「わたしのゴーレムは、あちらです。世界樹の近くに」
ドシンドシンと、世界樹のそばに四本脚の戦車が鎮座していた。あんなガーディアンなら、心配ないね。
「もう一体ございますので」
ピオナが、別のゴーレム戦車を召喚した。四本脚のゴーレムに飛び乗って、鉄の肌を撫でてあげる。
どちらも、遺跡にあった四脚戦車ゴーレムである。
「ありがとう。助かるよ」
「礼には及びません。我が元主であるトレントも、感謝していると」
「そうなの?」
ボクって、そんなに貢献したのか。




