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腰痛剣士と肩凝り魔女  作者: 一式鍵


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09-01. 対価と願掛け

 外に出た俺たちを待っていたのは、六人の王国騎士と、御者と、馬車だった。王国騎士たちの鎧はそれぞれ傷つき、マントもいっそうずたずたになっていたが、それでも誰一人欠けることなく俺たちを待っていた。


「ただいま」


 ウェラがまっさきに声をかけた。タガート隊長が面頬を跳ね上げて、右手の親指を立ててみせる。


「こっちも今しがた片付きました。もう少し暇が出来ると思っていたのですが」

「重傷者はいないかい?」


 タナさんが王国騎士の傷付いた鎧を見回しながら言う。ちなみに俺は地上に転がされている。


「全員負傷者ですが、なに、かすり傷です」


 タガート隊長は明るく言う。他の王国騎士たちも「問題なし」のような発言をしている。


「さて、さっさとこんな辛気臭い場所から離れましょうか」


 馬車に隠れていた御者が、定位置に戻って言葉を発する。タガート隊長も同意した。


「ちょっと待ってもらっていいかい?」


 タナさんは俺のところへとやって来て、腰を下ろした。王国騎士たちが「ごゆっくり」とか言っている。なんだか恥ずかしい。


「ねぇ、エリさん。すごい空だと思わないかい」

「ああ。本当に」


 星々の間を薄い雲のさざなみが(よぎ)り、空はますます鮮やかに煌めく。わずかに満月に満たない月の輝きは、それでもいっそ眩しいほどだ。タナさんの髪が、音もなく風に爪弾かれている。


「ご褒美、かねぇ」


 タナさんは大きく息を吐いた。少し冷たい夜風と、タナさんから漂う(ほの)かに柔らかい香りが、俺の中に溶け込んでくる。


 その時、ウェラが俺の視界に入ってきた。


「あの、あのね、ママ」

「どうしたんだい?」

「対価が……足りないよって。精霊さんが。あの、カードは全部もうなくて、それで、どうしよう……」


 泣きそうな声だった。


「まったく、()()()()()精霊たちさね」


 タナさんは立ち上がり、どこかへ行ってしまった。ウェラは俺の隣にしゃがみこんで(うつむ)いている。


「ほら、これを」


 ほどなくして戻ってきたタナさんは、大きな水晶玉をウェラに手渡した。それが俺の頭上を通った時、星空が急に近くなったような気がした。


「え、これは、すごく、その」

「これは荷物の中で一番邪魔だったけど、処分できずにいたのさ。魔力が強すぎてね」

「だったら、その、これ大事な……」

「たいしたもんじゃない」


 タナさんは笑う。


「ちょっとした思い出の品だけど、アタシ、魔女は引退したんだ」

「じゃ、じゃぁ……もらうね?」

「ああ、精霊も腹ペコさ。食わせてやりな」


 ウェラは小さくお礼を言うと、水晶玉を空に掲げた。それは見る間に消えていく。


「えっ? え……ええっ?」


 ウェラは目を丸くした。近付いてきたリヴィが「どうしたん?」と訊いている。


「多すぎって、精霊さんたちが騒いでる」

「ありがたく貰っておきなって伝えな。ウェラとリヴィを護ってくれたお礼だよって」

「わ、わかった!」


 ウェラはそう言うと、俺たちには聞こえない言葉で何かを言った。


「とりあえずもらっておくって。何かあったらいつでも呼べって」

「ふふ、それでいいさ」


 タナさんはそう言うとウェラを抱きしめた。


「いいかい、ウェラ。精霊の巨人の力はね、自分と――将来、誰か本当の本当の、本当に。大切な人ができた時に、本当に本気でその人を護りたいと思った時に使うんだよ」

「うん……!」


 ウェラとタナさん、そしてリヴィが並んで立っている……のを、俺は下から見上げている。動けないのだから仕方ないだろう。


「あのさ」


 俺は腰に響かないように気を付けつつ声を出す。


「この時間は、ある意味エリザのおかげでできたんだよな。あ、皮肉だぞ?」

「そう……さねぇ。因果だねぇ。だけど、この一点に関してだけは感謝しても……いいさ」


 タナさんは頷いて微笑む。今まで見た中で、最高に優しい微笑だった。


 俺は、今が一番幸せかもしれない。いや違う。幸せなんだ。過去は――罪は消せない。消すつもりもない。だけど、だからといって今の幸せを否定しなきゃならない理由はない。そして、俺の周りの者たちの笑顔を拒絶しなきゃならない理由も、そうして良いという理由も、俺には思いつけなかった。


「タナさん」

「なんだい?」

「願掛けは、叶ったのかい?」

「さぁねぇ」


 ククッと喉を鳴らすタナさん。


「叶っていれば、いいねぇ」


 タナさんが何を願っていたのか。


 俺がそれを知ったのはその数カ月後だった。


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