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腰痛剣士と肩凝り魔女  作者: 一式鍵


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07-09. 刺客

 タガート隊長は騎士たちを集める。そして鋭く目を細め、左手一本で素早く兜をかぶった。


「さすがに、何事もなく事が運ぶとは思っていませんでしたが――」


 他の王国騎士たちもほとんど同時に兜を被り、面頬を下ろす。彼らの白銀のマントが、(とぼ)しくなってきた陽光を跳ね返す。手にした長剣が物騒にして華麗な輝きを放つ。


「リヴィ、エリさんを護っておくれ。ウェラは精霊で騎士を援護」

「よしきた」

「わかった!」


 タナさんが素早く指示を出す。リヴィは抜剣すると、俺の目の前に立った。ウェラはタナさんのすぐそばに移動する。すぐに火の精霊の巨体が現れる。


 攻撃はその直後に始まった。光の槍や炎の球が、俺たちに降り注ぎ始めたのだ。まるで暗雲から降り注ぐ雨のように。


「かなわんな、これ!」


 リヴィはそう言って次々と襲いかかってくる魔法攻撃を弾き返していく。普通の人間には不可能な剣の振り戻しのスピード。地面を(えぐ)るように重く、そして速いステップ。それは俺と自分自身を十分に護っている。ちなみに俺はリヴィの邪魔にならないようにじっとしているだけだ。


「精霊さん! 火の球をなんとかして!」

『承知。我にこのような児戯(じぎ)は通用せん』


 火の精霊が空に向かって炎を噴き上げた。それはたちまち、降り注ぐ火の玉をかき消していく。


「すげ……」


 語彙力が消失して久しい俺である。


「後は光の槍だけやな。どっから撃ってきよるん、これ」


 それは空から落ちてくる。


 だが……。


「見える」


 俺は気付いた。光の槍が生み出される寸前に、波紋のように空間が歪むことに。それも、地上だ。俺はさっきまで干し肉を切るのに使っていた折り畳み式のナイフを握り直す。


 いた――!


 俺は迷わずナイフを投げつけた。重量バランスからして微妙な武器ではあったが、それは狙い(あやま)たず、王国騎士の誰かの横をすり抜けて、その歪みに命中した。


「!」


 姿を見せる黒い人影。ナイフが肩か腕に当たったようだ。ようだ、というのは、その人影は次の瞬間には粉砕されていたからだ。王国騎士の剣技だ。それは切っ先の遥か遠くまでを切り裂いていた。石畳までが(まく)れ上がっている。俺の知っている王国騎士と違う……と、俺は冷や汗をかいた。


「パパ、どうやって見つけたん?」

「空間が歪むんだ。魔法が発動する直前に、水のように揺れる」

「ほんまか! せやけど、地上を見てる余裕はあらへんで!」


 俺たちに集中的に降り始めた光の槍を、リヴィは落ち着いて叩き落としていく。その間にも俺は懐の短剣を取り出して、例の波紋のようなものに向けて投擲(とうてき)した。今度もまた正確に空間を割いて、黒い人影に突き刺さった。直後、今度は腰から真っ二つに引き裂かれる。丁度王国騎士の間合いにいたようだ――というより彼らの間合いは剣十本分以上はあるようにさえ見える。踏み込みが凄まじいのだ。常人の剣技ではない。そして王国騎士には慈悲も躊躇も一切ない。


「パパ、ナイフ投げうまいなぁ!」

「エリさん、こいつを」


 タナさんが俺のところに駆け寄ってきて、ナイフを手渡してくる。それはかつてウェラを矢から救った、そしてタナさんがずっと持ち歩いていたあのナイフだった。


「しかし何人いるのかねぇ」


 タナさんの声を聞きながら、俺はそのナイフを投げる。それは回転しながら放物線状に飛んでいき、またも黒い人影に命中した。今度は額かどこかに刺さったらしく、騎士がトドメを刺す必要すらなかった。リヴィが光の槍を粉砕しつつ言う。


「パパ、もうナイフ投げだけでよかない?」


 三人目を倒したことで、光の槍が目に見えて減ってきた。その頃には王国騎士たちも戦い方を理解してしまっており、彼ら――おそらく魔導師――も迂闊に魔法を撃てなくなっていた。


「魔法を撃ってくれないと、場所が割り出せないな」


 俺は慎重に周囲を見回しながら呟く。


「後は我々が」


 王国騎士の誰かがそう言った。


 そこからは一方的だった。魔導師は所詮は魔導師。護衛でもいれば話は別だったろうが、彼らは魔導師だけで組織された部隊だった。結果として、圧倒的な戦闘力を持つ王国騎士を前に、一人の損害を出させることも叶わずに壊滅した。


「魔導師が七人か」


 跡形もなく消し飛んだ奴も、ちゃんと数えたはずだ。


「すごいわぁ、王国騎士ほんますごいわー!」


 その実戦を目にして、リヴィが目を輝かせている。そんなリヴィにタガート隊長が声をかける。


「リヴィ、戦いは隊長が終わったと言うまでが戦いだぞ」

「は、はいっ。って、ウチ、タガート隊長の部隊にいるん?」

()()()()だ」


 ははっと笑いながらタガート隊長が言う。リヴィは「お、おおきに!」と言ってまた剣を構え直した。その様子を見て、タガート隊長はまた笑う。


「各員、敵の気配は感じるか」

「ありません」


 それぞれが周囲を確認して報告してくる。もう生き残ってる敵はナシということか。つくづく彼らが味方で良かったと思う。


「精霊さん、ありがとうね。これ、どうぞ」


 ウェラはボーナスのカードをあげている。まだ十数枚あるらしい。


『いつでも呼ぶがいい』

「うん!」


 ウェラは笑顔で精霊を見送った。そんなウェラを眺めながら、タナさんが呟く。


「しかし、魔導師を使い捨てとはねぇ」

「もったいないよな。でもこれでエリザの戦力はほぼなくなったんじゃ?」

「だったらいいけどねえ。こればっかりはわからないねぇ」


 そしてタナさんは、難しい顔をして西の空を睨んだ。


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