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腰痛剣士と肩凝り魔女  作者: 一式鍵


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07-07. 約束

 取り残された俺たちは、顔を見合わせる。


「……やれやれ」


 タナさんはそう言うと、いそいそと俺のベッドに上がってきた。


「リヴィお嬢様のせっかくのご厚意だけど、あんた、どうしたい?」

「なんか逆にぎこちなくなっちまうな」

「ちがいないねぇ」


 タナさんは喉の奥で笑った。


「腰でも揉みながら考えようかね」

「なぁ、タナさん」


 俺のガウンを脱がせようとするタナさんを抱きしめる。タナさんは小さく息を吐く。


「俺たち、半月後には死んでるかもしれないんだろ。だから、その」

「時間を無駄にしたくない」


 タナさんは俺の言いたいことを先回りする。そして俺の太ももを枕に、俺を見上げた。


「アタシは、一人の時は時間なんて考えたこともなかったよ」

「俺もさ。冬がなければ年を数えることもなかっただろうね」

「つくづく似た者同士だね、アタシたち」


 本当にな、と、俺はタナさんの髪を撫でる。艶のある美しい髪だった。


「なんとなく終わるんだろうなって、俺は思ってた。けど、敵とならざるを得なかったとはいえ、そのハイラッド公爵によってまんまと生かされてるんだってわかって、正直悔しいやら……」

「ハイラッド公爵とやらは、あんたとどういう関係が?」

「王家で居場所のなかった俺を世話してくれた人さ。王家はそれを利用した。いよいよ戦線が維持できなくなって、王家はハイラッド公爵に俺の首を取れと命じた」


 そして、「ベレム砦の戦い」に至る。


 ハイラッド公爵は命を賭して俺を助け、同時に公爵家の名誉も護った。俺が足を向けて寝られる相手ではなかった。


「俺の剣の師匠でもあったよ。もっとも、それはもう使えないけどな」

「いいのさ。きっと、必要ない」


 タナさんは俺の頬に手を伸ばす。


「アタシはあんたのおかげで、今のアタシも、過去の――あのアタシも認めてやれた。だからそうさね、アタシはそのハイラッド公爵にも感謝しなきゃならないね」


 タナさんはそう言うと、身を起こして俺をゆっくりと押し倒した。そんな俺に、タナさんが覆いかぶさってくる。


「タナさ――」


 俺の口をタナさんの柔らかい唇が塞ぐ。


「エリさん、いやかい?」

「まさか」


 だけど。


「その前に、言わせてほしいことがある」

「うん?」


 俺の首にキスを降らせながら、タナさんは俺を見上げる。


「俺が言うのも変なんだけどさ。その――正式に、結婚して欲しい」

「け……結婚……?」


 タナさんはキスを止めて、目を見開いた。ランプの炎が、タナさんの瞳の中で揺蕩(たゆた)っている。俺は頷いて、タナさんを見つめる。タナさんの唇が震えている。


「おかしいね……。一生一緒にいるって決めてたし、そういうものだって知ってたし。だけど、いざそれを聞くとさ、なんか、こう、胸が苦しい」

「こんなの、ただの傷の舐め合いかもしれない。だけど」

「あったかいね、エリさん」


 タナさんは俺の胸に頬をつけて、そう言った。


「だけどエリさん、あんたの心臓、今にも走り出しそうなくらい、だよ?」

「そりゃあね」


 俺はタナさんを抱き寄せる。


「ねぇ、エリさん。アタシは」

「タナさん。この言葉は一生覚えていてほしいんだけど」

「ん……?」

「何があろうと、一生、一緒にいて欲しい」

「……奇遇だね」


 タナさんは俺の耳に囁いた。


「アタシもそう思ってる」


 タナさんはそう言って服を脱ぎ捨てた。


「あんたみたいな、顔以外はカンペキな男をさ、手放すはずがないさね」

「一言余計」

()()()()()()()()()になんて、魅力はないのさ」


 まったく、この人は。


 俺は苦笑する。その時、俺の頬が濡れた。


「ううっ……」

「タナさん?」

「涙が、止まらない」

「奇遇だな」


 ――俺もだ。


 そうか、これが、愛、か。


 俺はようやく、この感情を理解できたのかもしれなかった。


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