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腰痛剣士と肩凝り魔女  作者: 一式鍵


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07-06. リヴィの提案

 だがしかし、そんな幸せな時間は長くは続かなかった。


 ()が――死んだのだ。


 食事を終えて部屋に戻った瞬間に、そりゃもう俺自身がビックリするほどの激痛が(はし)り、全身の力が抜けた。リヴィと腕を組んでなければ顔面強打間違いなしだった。


「よいしょっと」


 リヴィはそう言って俺を横抱きにして、何食わぬ顔で四つあるベッドの一つに寝かせた。大の男が年頃の娘に横抱きにされる図。なかなか……つらいものがある。


「ほな、ママ」

「ああ、ちょいと待ってな」


 タナさんが着替えている音が聞こえる。俺は痛くて顔を上げられず、ただうつぶせで唸っているだけだ。


「エリさんに三日間ぶっ通しの馬車移動はきつかったかねぇ。ウェラ、いつもの、頼むよ」


 タナさんは俺のシャツを脱がせる。それから少しして、背中に(もぐさ)が置かれた――つまりお灸である。ウェラの気配が近づいてきたかと思うと、すぐに背中が暖かくなってきた。


 タナさんが俺のベッドの端に腰を下ろしたのが見えた。


「無茶は承知だよ、タナさん」

「でも動けないのは事実さね」

「騎士は、気合と根性でなんとかするのさ」

「バカだね」


 タナさんは笑う。


「今日は良い月が見えそうだよ」

「まだ山の影やなー」


 リヴィが言う。窓から入ってくるやる気のない秋風が、部屋をゆるゆると冷ましていく。


「なぁなぁ、パパ、ママ」

「ん?」


 俺たちの声が揃う。


「あのな、ウチとウェラ、別の部屋にしてもらおか?」

「どうしてだい?」


 タナさんが訊く。


「あのな、その、二人きりの時間って、今まで全然なかったやろ? それでな、この街が最後かもしれへんやろ? ゆっくりできるのは。……せやから、ウチとウェラ、さっき相談したんよ。ウチら、何もできん。できんけど、パパとママに、二人きりの時間を贈りたいんよ」

「リヴィ、あんた、変なこと期待してないかい?」

「しとる」


 リヴィの「にひひっ」という笑いが聞こえる。


「そりゃ、ウチかて思春期の女子やで。するに決まってるやん?」

「ししゅんきってなに? リヴィ」

「それはな――」

「リヴィ」


 説明しようとするリヴィを、タナさんが制圧する。そして笑う。


「あんたたちの配慮はわかった。隊長たちに言ってきな」

「抜かりないで。もう手配済みや」

「あんたねぇ……」


 そして蚊帳の外の俺。お灸を据えられているのでまるで身動きができない。


 女性陣がなんでもないような話題で盛り上がってるのを聞いている内に灸の時間が終わる。


「さてと、起き上がれるかい?」

「んー、大丈夫っぽい」


 俺は起き上がって、用意されていたガウンを羽織る。


「リヴィとウェラはさ」


 俺はベッドに腰掛けている二人を見る。二人は同時に振り返った。


「この旅が終わったら、どうしたい?」

「あのな」


 リヴィは天井を――ランプの灯りに踊る影を見ている。


「ウチはもう決めてるんよ。旅に出る。ジェノスさんにも会いに行かなならんし。それに、竜族の里を探したいんや。おかんが絶対に秘密を破らなかった――ウチにも教えんかった、その里を見てみたいんよ」

「そうか」

「あ、でもな! でもでもな! これにはな、続きがあるんよ。ウチ、旅に出る。それは決まりや。せやけどな、ウチ、帰ってくる場所が欲しいんよ。ウチの家ちゃう。あんな誰もいてない家やなくて、パパがいて、ママがいて、でな」


 リヴィは少し早口になっている。


「ウチ帰ってきたときにな、おかえり、リヴィって。そうやって迎えてほしいんよ。頼めるやろか……?」

「ダメなはずがあるか。俺とタナさんが、世界が割れるような喧嘩でもしない限り、大丈夫だ」

「それなら安心や! パパは腰が悪いから、喧嘩にならへん!」

「ならへんなー!」


 ウェラが笑っている。色々物申したい気持ちにはなったが、二人の笑顔を見ていたらどうでもよくなった。


「ウェラはね、パパとママといっしょにいたいな。だめ?」

「だめなはずない」


 俺とタナさんが同時に答える。


「あんたたちはアタシたちの娘さね。家族ごっこと言われようと、アタシたちは家族さ。リヴィがいい男を連れて帰ってくるのを今か今かと待つのもいいじゃないさ。ウェラが少しずつ成長していくのを見ているのも楽しいじゃないさ」

「だな。そのためには」


 俺はタナさんを見た。タナさんは頷く。


「エリザを反省会に呼び出さないとな」

「そうだねぇ。と言ってる間に」


 ウェラが俺にしがみついて眠っていた。リヴィは「しゃーないおねーちゃんやなー」と棒読みしつつ、俺からウェラを引き剥がす。


「ほな、ウチら、隣の部屋におるから。王国騎士さんたちもおるし、心配ないやろ」

「あ、ああ……」


 リヴィの手際の良さにすっかり飲まれてしまう俺。


「ウチがパパとママをほんまに、本気で、大好きなのは間違いないんよ。世界で一番好きな男の人がパパ。世界で一番好きな女の人がママ。うちな、それしか言えへんけど。おおきにな」


 リヴィはそう言うと、ウェラを抱えたまますごい速さで部屋を出て行った。


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