07-01. 決意
第七章:旅は続き、そして。
広場の俺たちのところに、カディル審問官がウェラとリヴィを連れてやって来た。王国騎士たちも六人、全員無事だったようだ。
「よかったよ……」
タナさんはウェラとリヴィを順番に抱きしめて呟いた。そんな三人を見遣りながら、カディル審問官が言う。
「ウェラ様に助けられました」
「ウェラに?」
「危ないからもっと離れろと。おかげで――」
「市民の犠牲も少しは抑えられたでしょう」
クラインが兵士や若い役人を引き連れてやってきた。
「ウェラ様が都市全域に警告を。風の精霊ですかな?」
「うん。精霊さんにお願いしたの」
なるほど。あの衝撃波の範囲外に人々が逃げられるようにと、精霊を使って伝言したのか。
「よくやったな、ウェラ」
「えへへ」
はにかんだ笑顔を見せる精霊使いの幼女は、しかし、どこか得意げだった。
「我々はまだまだ仕事がありますゆえ、後ほどまた」
クラインはそう言うと、部下たちに指示を出し始める。確かに、今は話をするタイミングではないだろう。
「カディル審問官、あんた、ボロボロだねぇ」
タナさんがそういって微笑んだ。カディル審問官は少し慌てて服を整える。
「でもあんた、良い顔してるよ」
「そ、それは……」
「あんたはこれからが大変だよ。あんたがこれから何を考えて何をするか、それはわからない。アタシたちがどうしろこうしろ、なんてことも言えない。いや、違うね。もはや言う必要もないのかねぇ」
タナさんはカディル審問官の右肩を叩いた。
「あんたさ、どんな世界を作りたい?」
「ど、どんな世界……?」
動揺するカディル審問官。彼の答えには興味がある。俺はよいしょと立ち上がってタナさんの隣に並んでみた。
「私は、その、しかし……」
「魔女狩りは?」
俺が訊くと、カディル審問官は少し鋭い表情を見せた。
「教会とそのありようについて協議します」
「ありよう?」
タナさんが言うと、カディル審問官は頷いた。
「魔女は、そして、悪魔は厳然として存在しています。そして悪しき魔女はやはり看過できません。しかし、我々教会の本来の仕事は、咎人を裁くことではなく、咎人を生み出さない世界を作ることだと……私は思い至りました」
「咎人を生み出さない世界、か」
俺は少し意地悪な気持ちになった。
「その世界に、すでにいる咎人はどうする?」
「エリさん、難しいこと訊くねぇ」
「いいじゃないか」
俺は腕を組んできたタナさんに少しだけ体重を預け、カディル審問官をうかがった。カディル審問官は引き締まった表情で応える。
「咎人を裁くのは法。我々教会は、裁かれた咎人を導くのが使命だと。再び罪の轍を歩かせぬように。私は、そのように思います」
「へぇ」
俺とタナさんは同時に声を出した。
「元魔女からでよければ、合格をくれてやるよ。手を出しな、カディル審問官」
タナさんはそう言うと、カディル審問官の左手の包帯――タナさんが付けた傷によるものだ――に手を触れた。
「傷は治せないけどね。魔女の印は消しておいたよ」
「え?」
「え、じゃないだろ」
タナさんはふわりと微笑む。カディルの表情は今ひとつ晴れない。俺はカディル審問官の右肘アタリを軽く叩く。
「審問官、どうした?」
「私はまだ、何もしていません」
「するんだろ?」
「はい、必ず」
即答する若きエリート。その表情に嘘はなさそうだった。
その言葉に俺は頷いてから、カディルをまっすぐに見た。
「それならいいじゃないか」
「しかし、うまくいく見込みは――」
「教会のこのていたらくに、一石を投じるつもりなんだろ?」
「はい、それは」
「それでいいじゃないか。それは命がけの大仕事になるんだろ?」
「そう、なりますね」
カディル審問官の表情は硬い。それはそうだ。これから教会という伏魔殿に単騎突入しようというのだから。




