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腰痛剣士と肩凝り魔女  作者: 一式鍵


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02-03. 襲撃

 冷や汗だか脂汗だかよくわからないものにまみれて辿り着いた先には、ボロ布を()()ぎにして作られたテントのような何かがあった。とてもじゃないが、「家」とは呼べない。だけど、焚き火の跡や、古びた鍋の類があるところから、ウェラは間違いなくこの場所で長い間生活していたのだろうとわかる。


「ここがウェラの家か?」

「なーんにも! ないけどね!」


 わはははとウェラは腰に手を当てて笑う。一方で、その時の俺の頭の中は「立ったままでいるべきか、座るべきか」でいっぱいだった。正直に言えば、このまま石像と化してしまいたい。許されるなら、今すぐタナさんのマッサージを受けたい。そんな俺の気持ちを察したのか、タナさんは俺の腰に触れる。衣服越しにも何故か暖かさが伝わってくる、不思議な感覚だった。タナさんは周囲を取り囲む木々をぐるりと見回しながら尋ねる。


「ウェラは、食べ物とかどうしてるのさ?」

「森が色々分けてくれるんだよ。だから、食べるのに困ったことはないんだよ」

「冬はどうしてるんだ?」


 思わず訊く俺。このあたりでも、冬は結構厳しいことになるだろうと想像できる。雪が降るかはわからないが。


「冬はね、寝てるよ」

「寝てる?」


 クマ?


 思わぬ回答に俺は思わず腕を組もうとして、やめた。代わりに自由な左手で頭に手をやった。右手は剣を杖にしたままだ。


「冬はこんな小屋じゃどうやっても生きていけないから、水の精霊さんに守ってもらって寝てるんだよ」

「この辺は雪が多いそうだしねぇ」


 タナさんが頷いている。雪、多いんだ。割と南国なはずなんだが。


「冬に寝るのはよく聞く話さね。エルフの血……というより、精霊使いの力が強いんだねぇ、ウェラは」

「そういうことなのか?」

「そうだよ、パパ」


 ウェラは俺を見上げながら言った。パパという表現がくすぐったい。


「エルフって、ほとんどが冬は眠ってるんだって本当のママに聞いたよ。狩りして過ごす部族もいるみたいだけど」

「自然信仰さね」


 タナさんはまた頷いた。


「春とともに目覚め、冬とともに眠る。自然の恵みを糧に生き、何ものにも縛られない。それがエルフという種族なのさ」

「でも、ウェラのパパは……」


 言いかけてやめる俺。どういう事情があったにせよ、今、当事者を前にする話でもないだろう。


 それにしても、三十七年生きてきたし、政治の世界も見ては来たが、エルフと関係があったことは一度もない。どころか、エルフについての情報は、王都にもほとんどなかったはずだ。謎に包まれた種族――その程度の認識しかない。


「ん?」


 俺は右足をわずかに引く。虫の声が止んだ。鳥の気配もなくなった。耳を澄ますと、かすかな金属音。


「タナさん、なにか来るぞ」

「そうみたいだねぇ」


 タナさんは悠然と腕を組んで大樹を背にしている。俺はこの気配をよく知っている。いわゆるひとつの、()()だ。明確な殺意が俺たちに向けられている。


「また来たんだぁ……もう」


 ウェラは風に向かってなにか語りかけつつ、首を振った。()()って言うけど、こいつら、本気で殺す気で来てるぞ?


「魔女狩りさね、エリさん」

「魔女狩りだって? 俺たち目当てか?」

「いや、違うね。ウェラさ」


 こんな小さな子を殺しに?


 魔女狩り名目で?


 眩暈(めまい)を覚えるほどバカバカしい話だった。魔女を狩る奴らの方が、よほどの鬼畜生じゃないか。


「ハーフエルフの女の子ってだけで、奴らにしてみたら都合が良いのさ」

「酷い話だ」


 俺は剣を抜こうとして、やめた。敵の気配は四人。一人は少し離れた木の陰に隠れていて、三人が接近中。まもなく茂みから姿を見せるだろう。


「ウェラ、俺の後ろに」

「うーん……パパこそ、だいじょうぶ?」

「うっ……」


 この子も刺さるなぁ。心配されてしまった。


 俺は深く深くため息をついてから、近付いてくる気配の方を睨んだ。


「パパ、四人。一人は後ろの方」

「なんでわかった?」

「土の精霊さんが教えてくれた」


 すげえ、精霊使いすげえ。語彙力が消失しつつあったが、とにかくウェラはすごい子だということがわかった。今まで一人で生きて来られたというのも納得だった。


「さて、と」


 そろそろ俺の虚勢(ハッタリ)タイムである。タナさんよりも前に出て、俺は剣を(さりげなく)支えにして立った。茂みから姿を見せたのは三人の男。それぞれ年季の入った革の鎧を着けているのだが、その身なりも相まってひどく臭そうに見えた。大方()()を狩って小銭でも手に入れようという程度の小悪党だろう。


 とはいえ、四人もの盗賊を相手にできる状態ではない(腰が)。


 剣を持ったリーダー格の男が俺たちを見て下品な笑みを浮かべる。


「昨日も来たんだよ、このおじさんたち」


 ウェラがぶすっとした声で教えてくれる。


「凝りずにやってきたってことか」

「昨日は二人だったけど」


 ウェラは斧を持った男を指差す。なるほど剣と斧が首謀者か。そしたら、残りの鎌使いと、隠れてる一人は増援というわけか。こんな女の子一人相手に大の男が四人。情けない話だ。


 ウェラは「あんまりやりたくないんだけど」と言いつつ、俺の右袖をつまんだ。タナさんは鋭い視線を男たちの背後に飛ばした。


 俺も瞬時に状況を悟り、慎重にウェラを後ろに(かば)う。


「魔法を使わせるな!」


 リーダー格の男が怒鳴った。矢が空気を裂く音が聞こえてくる。俺は剣を鞘ごと持ち上げようと試みるが、そもそも間に合う間合いではなかった。


 仕方ないなぁ。


 気乗りはしないが身体で受け止めるしかないだろう。鎧を着ているわけでもないから、致命傷になる確率は低くない。


 でも、それならそれで。


 俺は飛来する矢を目視するのと同時に、覚悟を決めた。

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