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腰痛剣士と肩凝り魔女  作者: 一式鍵


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06-10. 悪魔の子

 ドミニアのシルエットを形作る炎が勢いを増す。俺は、見ているだけだ。


「だけどねぇ、ドミニア」


 燃え上がる炎に向けて、タナさんは顎を上げる。


「あんたには(つい)理解(わか)らなかったかもしれないけどねぇ。アタシには守りたいものができちまった。だから、アタシにどんな過去があろうと、どんな罪があろうと、アタシがこの世界の人間の愚かさとかそういうものにどれほど疲れ切っていようと、実にどうだっていいのさ。アタシの行動原理はただひとつ!」


 啖呵を切るタナさん。少し前まで漂わせていた疲労感は、すっかり失せていた。金色の炎に(あお)られたタナさんの髪は、まるでオーラのように揺蕩(たゆた)っている。


「アタシにとって大切なものを傷つけるもの。生き様を否定しようとするもの。アタシはそれら一切を、いかなる手段を(もっ)てしても排除する!」


 電光石火の踏み込みで繰り出されたタナさんの短剣が、炎のドミニアの首を薙ぐ。人間なら即死に値する一撃だ。だが、実際のところ、ドミニアの輝けるシルエットがほんの僅かに揺らいだだけだ。


「タナさん、手から血が……?」

「まじないみたいなものさ」

「魔法じゃなくて?」

「魔女の血は魔力で満ちているのさ。そしてこいつには普通の武器は通じない」


 自分の血で魔力を纏わせたっていうことか。だが、ドミニアに効いている気配はない。


『どうした、魔女よ。その程度の力で――』

「今の一撃で、あんたの中にアタシの力が入った。わかるね?」

『……いざとなれば道連れだと?』

「そういうことさね」


 などと二人は会話をしていたが、俺には意味がよくわからない。ただ、俺たちはむざむざやられるわけではないような、そんな気がした。


「タナさん、魔法は――」

「そんなことより、エリさん。……いや、違うね」


 タナさんは目を細めて俺を見た。


「正統国家聖堂騎士団団長、血のエライアソン――」

「……まいったね、こりゃ」


 俺は頬を掻いた。気付いてるだろうなとは思っていたが、その名をズバリ呼ばれると、やはりドキリとさせられる。


「そして、二十年前、王家を追われた第五王子。行方知れずという話はあんたと出会う前に何度も聞いてきたからねぇ」

「否定はしないさ。だけど、それが今役立つとは――」


 俺は剣を杖にしたまま、肩を竦める。ドミニアのシルエットが、俺の方に向き直った。まぁ、今更どうこうしても仕方ないか――と達観する俺だったが、ドミニアにとっては今のタナさんの言葉は衝撃だったようだ。


『正統国家聖堂騎士団――エリザの組織した騎士団……』

「俺を利用して反乱を起こした将軍が、勝手に名乗らせた名前だったんだが。まさかそんな()()()つきの名前だったとはね。でもまぁ、そうだな。その呪われた由来には納得だ。俺以外、ただの一人も生き残っていないんだからな」

『全ては運命。神により()り合わされた運命――その(つるぎ)、ガルンシュバーグがその証左』

「この剣? ガルンシュバーグ?」

『それすら知らなかったのか、我らが子よ』


 なんか混乱してきた。


『ガルンシュバーグはエリザの愛剣。幾千幾万もの人間の首を落とし、なお切れ味の鈍らぬ栄光の剣!』

「栄光っつか、呪いじゃねぇか!」


 俺にとっては(腰的に)クソ重たいだけで何の役に立たない長剣。それが俺が持つ以前から、大量の人間の血を吸ってきた代物だったとは。


「さぁ、殿()()。この不遜(ふそん)な魔女をどうしてくれようかねぇ?」

「殿下とか言うなよ」


 俺は肩を(すく)める。ちょっとだけ腰が痛くなってきた。


「ともかくな、ドミニア。俺はラッキーだと思ってるぜ」

『どういう、ことだ』

「これで俺は、俺の血塗られた過去に向き合わなきゃならない理由ができただろう? 今まで逃げてきたけどな、もうどうやらそれはできそうにない。それはな、ありがたい話なんだよ、俺には」


 罪の清算だの過去の(みそぎ)だの――そんなチャチなことはもとより考えてはいない。


「それにな、残念ながら、俺は世界がどうなろうと知ったこっちゃない。確かにこの社会にはうんざりさせられもする。だが、それを変えられるとか、そんな傲慢な考えは持とうと思わない。俺はな、この元魔女を幸せにできさえすればそれでいい」

『はははははは! それは異なことを! その罪に(まみ)れた貴様らが、幸福を望む権利があるとでも?』


 ……確かにね。


「罪が許されるとか許されないとか。そんなことだってどうでもいい。過去は変えられない。奪ってしまった命も戻ってはこない。だがな、魔女さんよ。今の俺たちは、これから奪われるであろう命や幸福を良しとしていない。俺たちの罪咎(ざいきゅう)は減らないにしても、これ以上積み増しさせられるのはごめんだね!」

詭弁(きべん)を抜かすか!』

「ああ、詭弁だとも」


 俺はタナさんの隣に並ぶ。


「なぁ、タナさん。どこまで気付いている?」

「今のアタシに()いてる?」

「ああ」

「……悪魔の子」


 タナさんは短く言った。それだけで十分だった。タナさんはやはり全て知っている。俺は思わず「やれやれ」と口にした。タナさんは静かに真実を告げる。


「ベルゼダ王妃は処女のまま懐胎し、子を……つまりエリさんを産んだ。それ故にベルゼダ王妃は、ヴァルナティの再来とも呼ばれた。眉唾もんだねと思っていたけど、案外そのとおりだったりするかもしれないねぇ」

「俺を産んだと同時に心が死んだ――と言われている。俺が物心ついた頃にはすでに幽閉の身だったから、俺も実情は知らない」


 だが、母は魔女だったのだろう。前王妃であるシャサは四人の王子を産んだ後に病死。直後に現王妃、ベルゼダが輿(こし)入れした。だが、シャサの服喪の期間を経た直後に――そして王との(ちぎり)すら交わしてないうちに――俺を身籠ったのだとか。


「ベルゼダが自らの人生とエリさんの人生を捧げたってわけだ、悪魔に」


 タナさんは俺を見上げていた。ドミニアの影が揺れる。


『全てはエリザの復活のために――!』


 空間が激しく揺れた。


 ガルンシュバーグがカタカタと音を立てた。


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