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腰痛剣士と肩凝り魔女  作者: 一式鍵


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06-08. ドミニアの顕現

 タナさんは「なるほどね」と満足げに頷く。


「この短時間で、やればできるじゃないか、カディル審問官」

「恐縮です」


 カディル審問官の表情は、もはやどこか吹っ切れていた。一瞬俺と目が合ったが、すぐに()らされてしまった。彼が信奉しているのはタナさんであって、俺たちその他大勢ではないということか。


「タナ様――」

「カディル審問官と王国騎士たち」


 タナさんはカディル審問官の言葉を遮った。


「この広場に誰も入れるんじゃない。全員追い出すんだ。リヴィ、ウェラ、手伝ってやりな」

「しかしそれでは、タナ様を護れる者が……」

「ここにいるじゃないのさ」


 タナさんは静かに、しかしはっきりと言った。それはもちろん、俺の事だ。しかし、カディルは納得しない。


「せめて、騎士を――」

「くどいよ、カディル審問官。魔女は()()()()()が倒す。あんたたちは臣民や信徒を守るのがそもそもの仕事じゃないか」

「ですな」


 王国騎士のリーダーらしい男が低い声でそう言った。


「カディル審問官。この方のおっしゃる通りです」

「しかし……」

「確かにあちらの騎士殿は剣を振るえない」

「……やっぱり、わかる?」


 俺は思わず訊いた。リーダー格の騎士は兜の面頬を上げた。この国には珍しい浅黒い肌の持ち主だった。俺よりいくらか若いくらいだろう。彼が白い歯を見せて笑う。


「腰が悪いのでしょう、騎士殿は」

「まいったね」


 俺は肩を竦めた。騎士はまた笑った。そしてすぐに真顔に戻ると、ガシャリと面頬を下ろした。


「カディル審問官。心配無用。騎士はたとえ腰が痛くとも、気合と根性でどうにかしますゆえ」

「そ、そうか……」


 そうなの――!?


 思わずツッコミを入れそうになる俺である。そんな俺の心を見抜いてか、タナさんが豪快に笑っている。相変わらず気持ちの良い笑い方だった。というより、この状況で笑えるタナさんは、やはりそれだけで驚異的だった。


 闇の中で笑う黒衣の美女。それはそれだけで迫力十分な絵面だった。


「パパ、ママをしっかり護ってや!」

「護ってやー!」


 リヴィとウェラが少し離れたところから声を張る。そう言われちゃ頑張るしかない。何を頑張ればいいのかは、今の所わからないが。


 その時、突如だ。


 突如。


 闇の空が割れた。


 クァドラのものとは比較にならないほどの炎の柱が広場全体を覆った。


「うわ……」


 俺とタナさんは柱の内側に閉じ込められている。リヴィたちの姿はまったく見えない。金色の(ほむら)の壁が、分厚すぎる。今は無事を祈る他にない。


「大丈夫、エリさん。あの子たちも騎士たちも無事さ。間一髪だったけどね」


 そういうタナさんの瞳は、炎を受けて金色に輝いていた。タナさんは右手の短剣をくるりと回した。


「哀れな魔女ドミニア! 怖気(おじけ)付いてないで、姿をお見せ!」

『わたしは貴様らと争う気はない』


 タナさんの前に炎が吹き上がる。それは人のシルエットに変わっていく。


「ほう?」

『このまま去るもよし、わたしと手を組むもよし』


 これは意外な展開だ。俺はタナさんを伺ったが、タナさんは短剣をまたくるりと回し、「はん!」と口にする。


「あんたの目的を訊こうじゃないか」

『人の進化』

「はぁ?」

『人は高みに至らなければならない』


 何言ってんだ、こいつ。俺は思わずタナさんを見る。タナさんも肩を(すく)めている。


『始祖たる魔女ヴァルナティ』

「ヴァルナティ……?」


 魔女の口から、思わぬ名前が飛び出した。俺は思わず繰り返す。


「ヴァルナティが魔女……? 教会の、だよな?」


 ヴァルナティというのは、一千年の昔、教会を組織した聖母の名前だ。処女にして懐胎したという女神だとも言われている。


『いかにも、ヴァルナティは我ら魔女の始祖』

「ははは!」


 タナさんは笑っている。


「それはアタシも知らなかったねぇ! まさか教会の御本尊が魔女だったとはね」

「本当……なのか?」

「疑う理由はないさねぇ」


 タナさんは首を振る。確かに、ここでこの死せる魔女ドミニアが嘘を言うメリットは思いつかない。ドミニアはなんだか印象に残らない、けれど異常に圧力のある声で続けた。


『ヴァルナティが教会を組織して一千年。時は満ち、我ら魔女が蘇る』

「まさか、女公爵エリザも?」

『いかにも、騎士よ』


 ドミニアのシルエットが大袈裟に頷いた。


『そのために、()()()()()()()()


 それを聞いた瞬間に、何かが俺の中でカチリと(はま)った。


『そうだ、騎士よ。そして、()()()()よ』


 ――ついに聞きたくない言葉を聞いてしまった。


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