06-06. 魔法は、使わせない
タナさんはしばらく毅然とした態度を維持していたが、不意に額に手をやって目を閉じた。小さな呻き声も漏れている。
「タナさん、大丈夫かい?」
「肩が凝るねぇ」
タナさんの口元は少し笑っている。俺は「はいはい」と言いながら、タナさんの後ろに回って、肩に手を当てた。相変わらず石のような硬さだ。
「いいねぇ。気持ちいいよ、エリさん」
「それはなにより」
俺はそう言って、少し強く揉んでやる。タナさんは「あたたたた」とか言いながらも逃げようとしない。
「しかしアレだね、エリさん。演技ってのも面白いものだねぇ。この戦いが終わったら、アタシ、役者にでもなろうかねぇ?」
「演技やってわかってても、ママ、本気で怖かったわぁ」
「リヴィとウェラには刺激が強すぎたかねぇ?」
「ウチはマジびびったけど、ウェラは?」
「ウェラは、こわくなかった!」
ウェラはニッと笑った。なんかリヴィに似てきた気がする。ウェラはタナさんの前まで来て、またニッと笑う。
「ママやさしいから、ウェラはこわくなかった!」
「良い子だねぇ、ウェラは」
タナさんが頭を撫でている。その様子はまさに母と子だった。
「ところでタナさん。あいつにあんな事言ってたけどさ。あいつに魔女を探せるとは思えないぞ? 僧兵もほとんど死んじまっただろ?」
「いいのさ。目的は異端審問官が走り回ることさね。今となっちゃ、そこらの娘を魔女だとは言えないだろう? だから、カディルは延々走り回るハメになるのさ」
「つまり、囮?」
「そ」
タナさんは一音で肯定する。
「エリさんだって知ってるだろ? 異端審問官は無能じゃないってことくらい」
「ま、まぁな。武のエリートが王国騎士だとすれば、知のエリートは異端審問官だ」
「だから、ドミニアもその正体を看破される危険性に思い至るだろうさ」
「なるほどね」
それでドミニアが何らかの形で姿を見せると。
「まだ封印の力がある程度残っているうちに出てきてもらったほうがありがたいさね」
「確かに」
俺は頷く。だからといって、俺たちがどうにか出来る保障などないわけだけども。
「ところでさ、エリさん。頼みがあるよ」
「ん?」
少し早口なタナさんに、俺は思わず眉根を寄せる。
「アタシが魔法を使ったら、あんたはアタシを殺すんだ。その剣でね」
「な、何を言ってる?」
動揺する俺。立ち上がるタナさん。タナさんは俺の耳に口を寄せた。
「殿下」
「……やめろよ」
「あんた以外の誰にも、アタシを本当に殺すことはできない。誰かに首を刎ねられたとしても、アタシは蘇るだろう。そんなのは、ごめんなのさ」
魔女は死なない――。俺は額に嫌な汗を感じる。
「でも、あんたになら、アタシを殺せる。それを忘れないでおくれ」
「……例えそうだったとしても」
俺の指先がほんの少し震えていた。
「大丈夫」
タナさんはそんな俺の手を取った。
「アタシだって、みすみす魔女に戻るつもりはないよ」
美しい微笑みが目の前にある。すぐそばにある。
「絶対に、魔法は使わせないからな」
「努力する」
タナさんはそう言って、また微笑み、俺を軽く抱いた。タナさんの体温が確かに伝わってきた。




