表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腰痛剣士と肩凝り魔女  作者: 一式鍵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/67

05-04. それでもいいよね

 俺は両手でタナさんの頬に触れる。


「俺にとっての正義は、常にタナさんと共にあることだよ」

「ええっ……?」

「そんなに驚くなよ」


 苦笑せざるを得ない、まったくもって。俺はタナさんを再び抱きしめる。抱きしめずにはいられない。


「あんたさ、本当にいい男だよ」

「顔以外は、か?」

「ふふ」


 タナさんは肯定も否定もしなかった。タナさんは囁く。


「もう一つ訊いていいかい?」

「もちろんだ」

「……いや、やっぱりいい」


 タナさんは首を振った。俺はタナさんを抱く腕に、少しだけ力を入れる。タナさんの熱を、少しでも引き受けたいという思いもあった。


「追求しないのも、あんたの素敵なところ。アタシの大好きなところ」

「そういうのは全部まとめて、黒幕をぶっ倒してからの話かなって」

「――大魔女エリザ」


 タナさんはその名前を噛みしめるようにして口にした。俺は頷く。クァドラの発言から、黒幕がはっきりしてしまったのだ。よりにもよって、()()()()()()()()、エリザ・レヴァティン女公爵であると。


「でもね、エリさん」


 タナさんの声が少しだけ軽くなった。


「そのおかげなのかどうかはわからないけどさ。今のアタシには、心の底からの望みが一つあるのさ」

「俺に叶えられるものかい?」

「あんたにしか、できないこと」


 タナさんはそう言ってまた俺にキスをした。


「でもこれはね、願掛けさ」

「願掛け……?」

「ああ、違うよ。魔女の()()()()の類じゃない。人が誰しも普通にやる、()()とやらへのお願い事さ」

「それならよかった」


 俺が頷くと、タナさんは小さく笑った。


「魔女が神様にお願いするだなんて、滑稽の極みだろう?」

「まさか」


 俺は首を振る。


「神様ってのがどんなやつかは知らないけど、魔女になるまで助けようともしなかったくせに、魔女の祈りの一つも聞けないとか抜かしやがるなら、俺が一発ぶん殴ってきてやるよ」

「頼もしいねぇ!」


 タナさんは一度身体を離し、そして再び抱きついてきた。正直に言うと、俺の心臓は爆発しそうなほど激しく拍動していた。年柄(としがら)もなく、のぼせあがっているのだと、俺はようやく気付く。


「ともかくさ、アタシは神様に祈った。多分、一生で一度きりのお願いさ」

「それはどんな?」

「願掛けってのは、アタシと神様の間の秘密だよ」

「知りたいんだけど」

「だめ」


 タナさんは俺の唇に人差し指を当ててくる。目を細めたタナさんのその表情は、いたずらを思いついた子どものそれにも見えた。


「でも、その時が来たらわかるよ。その時はさ、一緒に神様とやらに感謝しようよ、エリさん」

「わかった」


 俺はタナさんと見つめ合う。ランプの炎はまだ揺れている。


「エリさん。愛しすぎて、ごめん」

「なんだい、藪から棒に。なんで謝るんだ?」

「もしかしたらこの気持は、愛なんかじゃないかもしれない。アタシはずっとそれを恐れているんだ」

「奇遇だね、タナさん」


 俺はそう言ってベッドの端に移動した。タナさんもついてくる。


「俺にも、わからない。この気持ちが本当に愛なのか。タナさんを愛してるってことなのか。本当のところは、俺にもわからないんだ」

「アタシたち、似た者同士なんだね、やっぱり」

「ただの(あわ)れみ合う関係なのかもしれないな」

「それでもいい」


 タナさんはベッドの(おわり)に腰掛けて、遠くを見るような目をした。


「エリさん、それでもいい、よね?」

「ああ。それで、いい」


 俺はタナさんの美しい髪を撫でる。


「タナさん、気障(キザ)なこと言っていい?」

「め、珍しいね、そういうこと言うの」

「かもね」


 俺は頷いて、そしてタナさんを立たせた。


「俺たちのこの気持ちが()だって確かめるために、エリザは蘇ったんじゃないかな」

「はは!」


 タナさんは笑った。


「あははははは!」


 豪快に。


「そりゃいい。アタシたちの愛のために、エリザは甚大な代償を捧げてくれたっていうわけだ」

「それだと罪に(まみ)れた愛になっちまうかな?」

「お似合いさ、アタシたちには」


 タナさんはそう言って、俺の手を引いて扉へと導いた。


「温泉に行こうよ、エリさん。裸の付き合いといこうじゃないのさ」

「喜んで」


 俺はタナさんと共に、ゆっくりと浴場へと向かったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ