04-13. 役人との対話
爆炎――そう呼ぶのが相応しい炎が広場を包み込む。俺はウェラを背中に守ろうとしたが、全方位が炎に彩られてしまっている。もはや逃げ場はなかった。
「パパ、精霊さんも、限界……!」
「そうだろうな」
精霊の守護が破られた時、この広場に俺たちや役人、異端審問官の焼死体が出現することになる。
「ウェラ、すまないな」
「なんてことないよ」
ウェラはそう言った。その声は小さく震えていた。
「ママがなんとかしてくれる。ウェラは知ってるんだ」
「……そうだな」
俺はウェラの小さな手を握りながら頷いた。時々熱風が俺たちの周囲を回っていく。ウェラの美しい髪が焦げないか、心配だ。
「パパ、座る?」
「座らないよ」
ウェラは俺の腰を心配しているのだ。確かに猛烈につらいところではある。が、座ってのんびり見物だなんて、さすがにそんなことはできやしない。タナさんの戦いは俺の戦いでもある。せめてこの程度の痛みには打ち勝たなければなるまい。
そして俺たちの見つめる先には、地獄の炎に包まれているクァドラと、少し距離をとったタナさん、そしてリヴィがいた。
「辛いものですな」
役人が話しかけてくる。俺は「ああ」とだけ答えた。ついでに言うと、異端審問官は兵士たちに護衛されていた。兵士たちは「死なば諸共」と言わんばかりの気迫だった。彼らは、そしてこの役人を含めて、こんなところで失うのには惜しい人材に違いない。
「私もまさか、クァドラ様……いえ、クァドラが絡んでいるとは思いませんでした」
「それは仕方ないさ」
俺は答える。
「つかぬ話ですが、あの女性は、魔女ではないのですか」
「元魔女、だ」
「元、ですか」
「そうだ」
俺は言う。役人の意図は不明だが、このご時世に「はいそうです」なんて答えられるはずもない。役人は飄々とした様子で言った。
「キンケル伯爵には私から事実を伝えましょう」
「俺は伯爵を知らないが、話のわかる人物なのか? 魔女狩りを許容しているのだろう?」
「確かに、魔女狩りについては我関せずの姿勢を貫いていました。というよりも、異端審問官の威光に逆らうことは、教会を敵に回すのと同じ」
苦々しい声だった。彼自身、ユラシアを異端審問の場に差し出さなければならなかったことを悔いているのだろう。俺は未だ動かないタナさんたちを窺いつつ、役人に顔を向ける。
「為政者として、生贄による平穏を望んだというわけか」
「遺憾ながら、それが事実です」
「で、キンケル伯爵には?」
「身内から本物の魔女が出たのです。為政者としての器を示すか、あるいは保身に走るか。私にも興味がある」
「保身に走ったとしたら?」
「……旅にでも、出ますかな」
役人はそう言った。
「私がまだ二十年若ければ、あるいは反乱を企てたやもしれません。が、今は私には娘も息子もいる。あの子たちを戦場に送り込みたくはないのです。為政者の立場である私ですらそうなのですから、より立場の弱い人々は、もっとそう思っているでしょう」
「たとえ正義や大義があったとしても、か」
「左様。ユラシアを生贄に差し出しておいて何を言うと思われるやもしれませんが」
役人は鋭い視線で俺を見る。俺も役人を突き刺すように見た。
「どんな理屈であれ、どんな理由であれ、正義を標榜して始まる暴力など、ろくなものではないのです」
この役人は、俺の過去を知っている――俺は確信した。疑念などではない、彼は知っているのだ。
「タナさんにも言われたよ」
俺は肩を竦めた。
「正義は他人を傷つけるものになった瞬間に、ただの正義の顔をした暴力になってしまう、みたいなことをね」
「なるほど、彼女とは気が合いそうだ」
役人はそう言うと、再び異端審問官と兵士たちのところへと、この炎の嵐の中、悠々と戻っていった。
「魔女クァドラ!」
タナさんの一声が、炎の嵐を鎮める。
「誰もアンタを裁けないだなんて思っちゃいないだろうねぇ」
『愚民の分際で、何を言う!』
「アンタは――アタシが裁いてやる」
タナさんは剣を一振りする。クァドラから吹き出してきた炎が切れる。どういう原理なのかはさっぱりわからなかったが、とにかくクァドラの攻撃を防いでいた。
『お前もただでは済まない!』
「小悪党のセリフだねぇ!」
タナさんは啖呵を切る。
「でもね、そんなことはね、こちとらとっくに覚悟完了してるんだよ!」
『おのれっ! ならば――!』
クァドラが右手に炎の剣を生じさせる。周囲に逆巻いていたあらゆる炎を凝縮した、青白い剣だ。そしてクァドラの全身からはどす黒い何かが噴き上がった。




