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腰痛剣士と肩凝り魔女  作者: 一式鍵


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04-11. 強く在れる理由

 ウチ、もう見てられへん――リヴィがついにガナートの剣を抜いた。炎の柱が俺とリヴィの間に生まれる。


「ウチな、やっぱりじっとしてるんは苦手や」


 炎の生み出す風に髪を(もてあそ)ばれながら、いつになく真面目な顔でリヴィが言う。


「ウチはママを助けに行くで。パパはウェラを……じゃない、ウェラはパパをしっかり守るんやで」


 そう言って、リヴィは「にひひ」と笑う。


「ウチな、ママが強いのは知っとる。ママが負けんのも知っとる。せやけどな、ママのそばにおらなあかん気がするんねや。たとえ何もできんでもええんや」

「……わかった」


 俺は頷く。それ以上の言葉は、お互いに必要なかった。


「おおきに、パパ」


 リヴィがタナさんのもとへと向う。ウェラがその小さな手で、俺の左手を強く握ってきた。


「火の精霊さんを呼べば……」

「まだだ。呼ぶとしても、まだだ」

「どうして? ママが……」

「クァドラってのがどこにいるのか、まだわからない」

「そう、だけど」


 ウェラもまた何かをしたいのだ。俺と同じだ。そしてウェラには、やろうと思えばやれる力がある。俺とは違う。だが、仮に俺が、自由に動ける身体だったとしても、今は動かない事を選んだだろう。


「タナさんを信じろ。タナさんはユラシアと約束した。あの子の気持ちを受け止めたのは、タナさんだ。タナさんの想いを最優先にしたい」

「……わかったよ、パパ」


 ウェラは俺の手を握り直した。炎の柱は俺たちを避けるようにして生まれ、消えていく。


「だいじょうぶ、精霊さんが守ってくれる」

「……ボーナスを弾んでやってくれ」

「うん」


 そうか、俺たちに炎の柱が命中しないのは、そういうことだったのか。俺は精霊とやらの力の凄まじさ、そしてウェラの能力の強力さを思い知った。


「はは、リヴィ、来ちまったかい」


 少し離れたところではタナさんが笑っている。リヴィの服はところどころ焦げていた。致命傷にならないまでも、ある程度のダメージは避けられないのか。


「ウチ、ママっ子やねん。せやから、ママのそばにいたいんよ」


 そう言ってリヴィはガナートの剣をタナさんに差し出した。タナさんは「わかってるねぇ」と言いながら、リヴィと剣を交換した。すっかり忘れていたが、ガナートの剣はいわゆる魔法剣だ。普通の鋳造剣よりはよほど戦力になるだろう。


 そんな二人の周囲をクァドラが飛び回る。くるくると周囲を回り続けるクァドラは、今なお炎の柱を降らせるのをやめようとしない。おそらく何百、いや、何千という単位で犠牲者が出ているだろう。まるで無差別な、()にすがるしかない卑劣な攻撃だ。


「魔女ってのはね、魔女であり続けてはいけないものなのさ。エリザや此奴(コイツ)みたいにこじらせちまうからねぇ」

『何をブツブツと! そろそろおしまいだ、死ね、魔女め!』

()魔女さね! 間違えるんじゃないよ!」


 タナさんはそう言うと、ガナートの剣を右手一本で一振りした。


「ユラシア! 思う存分、此奴(こいつ)を呪いな! あんたにはその権利がある!」

「タナさん、それは……!」


 タナさんの次の言葉を、俺はなぜか知っていた。タナさんはニッと笑みを見せ、また剣を振る。


()()はアタシが受けてやる!」

「だめだ、やめろ、それは……!」


 俺はウェラの手を握ったまま、一歩前に出た。ズキンという音を立てて、鋭利な痛みが腰から脳天までを走り抜けた。こんな時に――!


「くそっ」


 近付けさえしない。タナさんのそばにいけない。どころか、立っているのもやっとだ。足を踏み出したらどうなるか、そんなことは自明の理だった。まるでタナさんが「来るな」と魔法をかけているかのようだった。剣を抜く抜かない以前の問題だ。


「ママなら、だいじょうぶ」

「……ウェラ、俺も、そうは思う」

「ウェラは光の精霊さんに祈る。大切なママを護ってくれるようにって、祈る」


 光の精霊――天使か。魔女と対峙している今、最もご利益がありそうな精霊ではあるな。


「ウェラ――」

「パパは腰が痛いからね」

「情けないなぁ」

「でも、祈って」

「……わかった」


 祈るなんて、いつ以来だろう。俺は()()()を知ってから、決して神には祈らなくなった。だが、今はそんな事を言っていられる時ではない。


「パパがいるからね、ママは強いんだ」


 ウェラはひどく大人びた声でそう言った。


「たとえ何もできないこんなヤツでもか?」

「パパが生きてるだけで、ママは強く()れるんだよ」


 ウェラは俺を見上げてそう言った。そしてゆっくりと視線をタナさんたちに向ける。


「あれ?」


 時が止まっていた。広場の周囲では未だ、野次馬だか焼け出された人だかわからない人々が右往左往していたが、広場の内側は完全に時間が止まっていた。タナさんは剣をクァドラの半透明の身体の前に突き出し、リヴィはそれを支えている。クァドラはまるで無防備にそこにいた。炎の柱は全て消えていた。


 呼吸も風も何もない。ただ、ウェラの掌の温かさだけが、俺がまだ生きているということを感じさせてくれる。タナさんもきっと、リヴィの温度を感じているだろう。


「ウェラの言う通りさ」


 不意にタナさんの声が聞こえてきた。


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